第12話 Eランク冒険者、ギルドマスターと出会う

 「嬢ちゃん! リンシアさん! 無事だったんだな!?」


 村へ着くと、早々に警備兵のおじさんに捕まりました。


 「見ての通り」

 「そうか……いや、さっき帰ってきた冒険者達……オリオとナターシャだったか? そいつらが森でオークの大群と遭遇して、リンシアさんが1人で立ち向かったと報告して言ってな。それに、嬢ちゃんも森に向かった事を知っていたから……」


 それを聞いた瞬間、シアさんの目つきが一瞬鋭くなったのがわかります。

 それを誤魔化すように僕はおじさんと会話を挟みます。僕もシアさんと同じ気持ちですけど、今は我慢です。


 「心配してくれたのですね」

 「当り前だ!」

 「ですが、無事に帰ってきたので大丈夫ですよ」

 「問題ない」

 「そうか……それでオークの群れはどうなった!?」

 「討伐しましたよ。シアさんが」

 「違う、2人で」

 「本当か? 30匹くらい居たと報告があったが……」

 「証拠ありますよ?」

 「うおっ! わかったから早くしまってくれ!」


 収納からオークを数匹とりだし、おじさんの前に置くとおじさんは尻もちをついてしまいました。

 証拠を出しただけなのに心外です。


 「とりあえず、話は信じた。なら、ギルドに報告に行ってやってくれ。今頃、オークの討伐隊を結成しているところだろうしな」

 「わかりました」


 どうやら、僕たちが戻ってくる間に、随分と大事になっているようです。


 「シアさん、最初は我慢してくださいね」

 「……わかってる」

 「僕もシアさんの話を聞いて怒ってますので一緒ですね」

 「そう、一緒」


 その言葉でシアさんはようやく落ち着いてくれたようです。

 さぁ、僕たちが戻って慌てる様を見せてもらいましょうか。




 「だから、本当だって! 俺は見たんだリンシアさんがオークの群れに囲まれているところを!」

 「オリオの言う通りよ! 今すぐに助けに向かうべきよ……リンシアさんは私達を逃がすために……今度は私達がリンシアさんを!」


 ギルドの外に居ても聞こえてくる大きな声。正直、その声を聞いただけで怒りがこみ上げてきます。


 「シアさん落ち着いて」

 

 それをかろうじて抑え、僕よりも怒っているだろうシアさんの手を握り声をかけます。


 「ユアン……ありがとう。落ち着いた」

 「それじゃ、中に入りましょう」

 「うん」


 ギルドに入ると、依頼ボードの前に人が集まっていました。


 「今なら間に合うから……だから、みんな……」


 くさーい芝居を見て、怒りを通り越して呆れてきますね。

 ナターシャが冒険者たちの前で両手を顔で覆い、蹲り泣いた様な声を出しているのです。


 「私が、どうしたって?」


 冷たい声がギルドに響く。その声に、冒険者達は驚き、オリオとナターシャは顔を引き攣らせているのがわかります。


 「り、リンシアさん生きて……」

 「生きているから戻った。それで、私がどうしたって?」

 「オリオとナターシャがー……」

 「お前には聞いていない。答えるのはそこの2人」


 状況を説明しようとする冒険者を遮り、シアさんがオリオとナターシャを順番に指さす。


 「答えろ」

 

 ギルドに静寂が訪れる。

 リンシアさんの視線にオリオとナターシャは顔を伏せ、一言も話そうとはしません。

 その沈黙を破ったのは一人の男でした。


 「討伐隊の編成は決ま――リンシア! 生きていたか!」


 2階から降りてきた中年の男はシアさんの姿を見つけるとシアさんの傍に駆け寄ってきます。

 大きいですね……。

 身長は190センチくらいありそうで、中年とは思えない程の引き締まった筋肉、背中に背負った男の身長と同じくらいはあろう大剣。

 一目見ただけでわかる歴戦の強者って感じの人です。


 「無事。問題はあったけど」

 「そうか、それでこの騒ぎは何だ? 俺は討伐隊を編成しておけと言ったはずだが?」

 「ギルドマスター……それが、オリオとナターシャがいきなり喚きだしまして」

 「あいつらが?」

 「はい、そしてリンシアさんが帰ったとたん静かになった有様です」


 貫禄のあるデカい人はギルドマスターのようでした。

 冒険者の1人がギルドマスターに現在の状況を説明すると、ギルドマスターが顔をしかめる。


 「もう一度、報告を聞こう。嘘偽りなく話せ」


 ギルドマスターがオリオとナターシャに詰め寄る。


 「森で、稼ぎになるような魔物を探していたら、リンシアさんの姿を見かけ、声をかけた」

 「それで、リンシアさんの許可を経て同行をしたのよ」

 「リンシア、その話は本当か?」


 2人の話を聞き、辻褄が合うか確かめるためにシアさんに話を振る。


 「出会ったのは本当。だけど、同行を許可した覚えはない」

 「と、言っているが?」

 「嘘です。リンシアさんは、邪魔しないでと言ったわ。それは、邪魔しなければ同行をしてもいいと捉える事もできるわよね?」


 とんだ屁理屈ですね。


 「わかった、百歩譲って同行を許可したとしよう。それで、その後は?」

 「森に進んだ先でオークの集団がいた。そこで、オークたちに、気づかれ、て……リンシアさんが逃がしてくれた」

 「リンシア」


 本当は? と目で問いかけてくる。


 「オークの群れを観察していた。そしたら、その馬鹿達が物音を立てて気づかれた」

 「違うわ、音を立てたのはリンシアさんだったわよ。そうよね、オリオ?」

 「あ、あぁ。そうだ!」


 よくも抜け抜けと嘘ばかりを吐けますね。その口を今すぐ縫い付けてあげたいです。


 「それで、その後は?」

 「私達はリンシアさんから逃がして貰ったから知らない」

 「で?」

 「撤退か討伐か一瞬悩んだ隙に後ろから頭を殴られた……「動けないリンシアさんを囮に俺たちは逃げるぞ」その言葉に覚えがあるはず」


 オーク達に囲まれていた時に出来た頭の傷はオリオがつけた傷だと知らされた時は、言葉を失いましたね。


 「お前らに弁解はあるか? 少なくとも、俺は今、リンシアを信じているからな」

 「しょ、証拠がない!」

 「そうね、オリオがやったという証拠がないわね」


 その言葉自体が言い逃れにしか聞こえないのですが、やはり馬鹿のようです。口は禍の元と言うのですから、知らないと言い切った方が幾分かマシだと思います。

 しかし、証拠がないのは事実ですからね、少し面倒です。


 「まぁ、証拠は後で調べる事は出来るからな。それで、リンシア、オークたちはどうなった?」

 「問題ない。全て討伐済み」

 「そうか」

 「大半はユアンのお陰」

 「ユアン?」

 「「ポーション!」」


 二人は僕に気づいていないようでした。周りが見えていないようですね。


 「私が襲われた後に、私の傷を癒したのがユアン。命の恩人」

 「回復役ヒーラーか」


 いいえ、補助魔法使いです。

 僕がシアさんの隣に並ぶと、オリオとナターシャが僕を憎らし気に見てきますが、この状況は自業自得だと思います。


 「回復しか能がない奴が俺たちの邪魔を――ぐはっ!」

 「雑魚は雑魚らしく大人しく――ぐっ!」


 全てを言い切る前に、オリオは宙を舞い、ナターシャはお腹を押さえくの字に折れた。


 「ユアンが、能無し? 雑魚? そう聞こえたのは気のせい?」


 一瞬で間合いを詰めたシアさんがオリオを蹴り飛ばし、ナターシャの腹に拳を叩きこんだようです。

 二人が僕を馬鹿にしたのに我慢の限界が来たようです。ちょっと、嬉しくなっちゃいます。


 「リンシア、落ち着け」

 「落ち着いてる。ユアンを馬鹿にして、この程度で済ましているのがその証拠」

 「わかったよ。それで、最後に弁解はあるか? なければ、それなりの処置はさせてもらうが」


 ギルドマスターが二人に問いかけるも、シアさんにやられ、呻く事しかできないようです。


 「仕方ないですね、リカバー」

 

 勿論、全回復はしませんよ? ほんの少しだけ、話せる程度に回復しただけです。


 「お、俺は、やってない」

 「私に、こんな、事して、帝都にいるパパが許さない、から」


 オリオはしらを切り、ナターシャはパパ……ギルドマスターでしたっけ? それを盾にするみたいですね。

 一応、回復してあげたのですから、感謝の一つあってもいいのですが、その余裕もないようです。そもそもその気持ちがない、というのが真実でしょうけど。


 「出来れば自分らで話してほしかったが仕方ねぇな。おい!」

 「はい」


 ギルドマスターが呼ぶと、冒険者の中から一人の男が前に出た。


 「「デング!!」」


 その人は、オリオとナターシャとパーティーを組んでいた一人でした。今日、解散したみたいですけどね。


 「お前の目で見た、こいつらはどうだった」

 「はい。オリオの方は、一緒に組んだ短い間に恫喝、恐喝、暴行を起こしています」

 「ナターシャは?」

 「そちらも、父親がギルドマスターである事を良い事に、ギルドマスターの名前を出し、詐欺、恐喝を行っておりました」

 「リンシアの件は?」

 「途中までの経緯しかわかりませんが、リンシアさんのおこぼれを狙い、森に向かった所までは確認しております」

 「その後は、リンシアの言う通り……か。わかった、ご苦労だった」

 「デング、てめぇ俺たちを売りやがったな!」


 その場を離れるデングさんにオリオは唾を飛ばしながら、大声をあげました。


 「あぁ、勘違いしているようだが、デングは冒険者ではなく、元冒険者だ。今はギルドの職員としてお前らのような奴を監視させている」


 その真実に、オリオは口をパクパクさせた。

 おとり捜査って奴ですね。


 「私達をどうする気? これ以上はパパが黙っていないわよ!」

 「あぁ、それなんだが。あいつは捕まったよ」

 「え?」

 「女冒険者を脅して手籠めにしたり、ランクの上がらない冒険者から賄賂を受け取り不正にランクをあげ、冒険者を使って気に入った女を誘拐していたらしいな。今は余罪を調べているようだ。勿論ギルドマスターの肩書はもうない。今は犯罪者として帝都の尋問官と楽しくやっているだろう」


 しかも、誘拐をしようとした女性は何と、侯爵令嬢だったようで、随分とご立腹のようですね。


 「そして、お前ら一族を捕まえる事を指示されている。ここまで、後手に回ったのは俺の不手際だったが、お前が父親の事を周りにペラペラしゃべってくれたお陰で助かったよ」

 

 ギルドマスターの言葉にナターシャの顔はどんどんと青ざめていく……しまいには死人のように真っ白くなり貧血のように倒れ……崩れ落ちましたね。


 「リンシア、後は帝都の尋問官に任せようと思うが、構わないか? 流石に、侯爵が絡んでいるとなると、俺が手を出すにも骨が折れる」

 「構わない」

 「助かる、そちらの嬢ちゃん……ユアンと言ったか? それで構わないか」

 「僕はオマケですので、気にしないでください」

 「わかった……おい! 警備兵を連れてこい」

 「は、はい」


 下っ端ぽい職員が慌ててギルドを飛び出していきます。


 「お、俺はどうなるんだ?」

 「お前は……そうだな。冒険者に相応しくないから冒険者の資格を剥奪、そして、住民から被害届を提出されている。しかも、色んな街からな。まぁ、ついでだ。お前も帝都の尋問官に見てもらうように頼んでおこう」


 どうやら、ギルドマスターはある程度、この二人の事をわかっていたようですね。後は、タイミングを窺っていたのでしょうか?


 その後、二人は警備兵に拘束され、連れていかれた。オリオは殺人などは犯していないが、犯罪者として扱われ、ナターシャは……侯爵の気持ち次第らしいですね。

 首が飛ばなきゃいいですね。

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