第10話 Eランク冒険者、リンシアさんと共闘する
僕は再び森に帰ってきました。
新たに見つけた採取ポイントに向けて真っすぐ向かっています。勿論、木々は避けてですよ?
「確か、この辺り?」
森に入り一時間ほど経つと感知魔法に反応があります。野営をした場所から少し離れた場所です。
「けど、この先はリンシアさんが向かった方向なんですよね」
採取ポイントを感知魔法で改めて確認すると、間違いなく森の奥……リンシアさんが向かっていった方向だ。
「どうしましょう……オークと遭遇しても問題ありませんが、面倒なんですよね」
倒されないけど、倒せない。
オークが諦めるまで待つのは面倒ですからね。
僕の中で採取ポイントとオークとで天秤が動きます。
「感知魔法で確認を怠らなければ問題ないですよね」
採取ポイントに向かう途中でオークの反応があれば考え、なければそのまま採取をすればいいでしょう。
そう思い、僕は感知魔法を頼りに奥へと向かいます。
宝の山ですね!
野営場所から歩く事1時間、僕の目に映ったのは一面に生えた薬草。
見渡す限りの薬草に自然と笑みが零れてしまいます。
「全てを採りたいところですが……我慢ですね」
密集している薬草を間引くように根から引き抜いていく。全部採らなくても昨日以上の収穫が望めそうです。
「これで、金貨1枚分っと」
結構な数を採取したのにも拘わらず、薬草の数は採取した数の倍以上残っている。
これならば今後も大量に薬草が生える場所として残りそうですね。
日が高く昇り、薄っすらと額に浮かんだ汗を拭うと一仕事した気分になります。
「ちょうどいいですしそろそろお昼でもー……むむむ」
お昼にしようと思った時、感知魔法に反応がありました。少し大きめな赤い点がぞろぞろと移動をしています。
「大きさ的にオークの集団でしょうか?」
赤い点の集団は導かれる様に森の奥へと移動していきます。
「リンシアさん……大丈夫でしょうか?」
Cランク冒険者といえば、オーク程度ならば10体くらいならば対等以上にやりあえるでしょう。だけど、そこに上位個体……オークメイジやアーチャー。更にジェネラルが混ざったらかなり危険です。
「一応……オークの後を追ってみますか」
半分好奇心でオークの後を追う。
後を追う事30分程、オーク達は段々と数を増やしその数は約30程、一か所に固まるように止まりました。
「更に大きな点がありますね。上位個体でしょうか?」
オークたちは大きな点を中心に集まっているようです。
「その近くに紫の点と青い点が二つ?」
紫の点は僕に友好的に接してくれる人物に設定をしてあり、青い点は人間を表します。
僕に友好的に接してくれる方は少なく、更にこの森の中の反応となれば、恐らく紫の点はリンシアさんですかね?
そして、青い点は……。
「もしかして、あの2人?」
嫌な予感がしました。僕の嫌な予感は割とあたるので、僕はオークにも3人にも気づかれない様にそっと近づく事を決めます……が。
「点が動き始めました!」
少し遅かったみたいです。
それと同時に青い点がその場から離れるように移動していきます。どうやら、逃げ出したようです。
一方、紫の点はその場から一切動きをみせず、赤い点に囲まれていきます。
感知魔法では状況まではわからないので、急いで向かう事に決めました。
たどり着いた時の状況は最悪と言っていい形でした。
一回り大きいオークの個体が頭から血を流すリンシアさんの片腕を掴み、宙吊りにしています。
しかし、リンシアさんは意識があるようで、オークの腹を掴まれていない腕に握った剣で刺す。
その瞬間、リンシアさんの体が宙に舞い、背中から木にぶつかり、激しく咳き込み蹲ってしまいました。
どうやら、刺されたオークが怒ってリンシアさんを力任せに投げ飛ばしたようです。
動けないリンシアさんを見て、自然と体が動きました。小柄な体躯を活かし、オークの間をすり抜け、リンシアさんとオークの間に割り込みます。
「リンシアさん、大丈夫ですか?」
「ゆあん……? どうしてここに――避けて!」
驚いた表情のリンシアさんが叫んだので、振り向くと、オークが既に錆びた鉈を振り降ろすところでした。
カーンッ!
しかし、その鉈は弾かれます。僕の
それでも、オークは諦めずに何度も何度も鉈を振り下ろし、その度に金属がぶつかるような音と共に鉈が弾かれています。少し煩いですよ?
「リンシアさん……とりあえず、回復させますね」
リンシアさんに向け、傷が塞がるイメージを魔力を込めて送る。
下級回復魔法の利点は発動が速く、詠唱が必要ない所。ただし、深い傷には重ね掛けが必要となる。そう考えると場合によっては、中級から上級の回復魔法を使用した方がいい場合もある。
今回は見た所、傷が浅かったので詠唱の必要がないリカバリーを選んだ。
傷が癒え、オークの攻撃を弾き続ける異様な空間に包まれたリンシアさんは戸惑っているようです。
「リンシアさん、僕たちには選択肢があります」
「選択肢?」
「はい。僕と共にオークを倒すか、安全をとって逃げるかです……そうは言っても僕は攻撃魔法は苦手なのでサポートになりますけどね」
「やる。万全なら負ける気はしない」
どうやら僕が来る前に何かあったようですね。リンシアさんの金色の目から強い意志を感じました。どうやら吹っ切れたようです。
。
僕はリンシアさんの言葉に小さく頷きます。
「では、補助魔法の力をご覧ください」
リンシアさんに様々な補助魔法を付与する。
「最初は、慣れないかもしれませんが……」
「身体……軽い」
説明をしている途中でリンシアさんの姿がブレ、残像を残しその場から消えた。
それと同時に、リンシアさんの腕がいいのか、それとも付与魔法【斬】の効果で切れ味が上がったのか、オークの首が飛んだ後に遅れて血しぶきが吹きあがる。
それと、本来ならば急激に上がった身体能力を制御するのは難しいはずなのに、リンシアさんはいとも簡単に制御し、自分の物にしたようです。
これが、才能ですかね?
しかし、リンシアさんだけに任せる訳にはいきません、僕も補助魔法の魔法使いとして意地がありますからね。
「戦いやすいようにオークの動きを止めますね……スタンスパーク!」
電撃を飛ばし、相手を
その電撃は次々に連鎖し、周りにいたオークを次々に気絶させていく。
電撃なので筋肉が硬直し、直立不動となるため、2足歩行の相手には非常に有効な魔法だったりします。
動きの止まったオークは恰好の的で次々と首が飛ばされ、残ったのは意図的に残されたリンシアさんを投げ飛ばしたオークだけとなった。
気付いたら残り1匹となり、その状況からか、オークの目には驚きと焦りが浮かんでいる。
「ユアン、補助魔法助かった。最後は自分の力でやる」
「わかりました。気を付けてくださいね」
補助魔法を解き、リンシアさんはオークと正面から対峙しました。
「
「ナカマノカタキ、シヲモッテツグナッテモラウ」
本当に上位個体だったようです。しかも、ジェネラルとなればCランクに認定される魔物です。
強い肉体、言葉を理解する知能……強敵の予感です。
勝負は一瞬でした、地を這う如く低い姿勢でリンシアさんが駆け、それに合わせるように将軍の鉈が振り下ろされる。
鉈が当たると思った瞬間、リンシアさんの速度が加速した。
「眠れ、永遠に」
懐に飛び込み、1本の剣が心臓を突き刺し、もう一本で首を跳ねる。
淀みのない熟練された動きは美しく、思わず見入ってしまった。
「オミゴト」
将軍は首だけになりつつも、最後に一言を残し、体が崩れると同時に完全に動きをとめ、オークとの戦闘は幕を閉じた。
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