第9話 Eランク冒険者、依頼報告をする

 森から歩く事小一時間。

 僕は村へと戻ってきた。


 「嬢ちゃん! 無事だったのか!」

 「慌ててどうしたのですか?」

 

 村の入口に近づくと、昨日の警備兵のおじさんが慌てて駆け寄ってきました。門から離れて怒られないのでしょうか?

 

 「どうしたって……あれから帰ってこなかったから心配したんだぞ!」

 「心配してくださってありがとうございます。これでも、冒険者なので大丈夫ですよ」

 「まぁ……そうなんだが。娘と同じくらいの子供が外から帰ってこないとどうしてもな」

 どうやらおじさんには娘がいるようです。その娘さんと僕が重なって心配になったみたいですね。

 

 「成人して、そこまで心配するのは少し過保護すぎですよ」

 「成人? 俺の娘はまだ13だが……?」

 「僕……これでも15歳ですけど」

 「15!? 娘より小さいな……」


 どうらや僕の事を冒険者登録したばかりの子供と勘違いしていたようですね。

 

 「そういった訳で心配はいりませんよ」

 「わかったが……一応、気を付けるんだぞ」

 

 村に入る為に渡したギルドカードを返して貰い、ようやく村に入る事ができました。

 身長のせいで侮られたり心配されたりと面倒な事が多いので早く大きくなりたいものです。

 後3年もすれば、大きくなれますよね?


 ギルドに入ると、昨日同様に受付に向かう。すると、昨日のお姉さんがカウンターに座っていました。

 「こんにちは」

 「いらっしゃいませ、Eランクのユアンさんでしたね。今日は依頼の報告でしょうか?」

 「そうです……覚えてくれてたんですね」

 「基本的に暇ですからね。それと、可愛い子は忘れませんよ」

 「そ、そうですか」

 

 お世辞でも可愛いと言われ、恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかります。


 「では、一応確認の為ギルドカードの提出をお願いします」

 「はい」


 受付のお姉さんにギルドカードを渡し、お姉さんが水晶にカードをかざすと文字が浮かび上がる。


 「依頼は薬草と流水草の採取ですね。物は今お持ちですか?」

 「はい、収納魔法にしまってあります。それと、昨日オークを倒したのでその解体と買取をお願いします」

 「オークの解体ですか?……それほど大きい収納魔法の使い手なのですね。では、今日からオーク討伐の依頼が出ていますので、それと合わせて処理させて頂きますね」

 「お願いします」

 「では、納品を確認後に依頼達成とさせて頂きますので、お手数ですが裏の解体場までお願いします。流石に、ここでオークを出されても困りますので」


 お姉さんに連れられ、ギルド裏にある解体場所に移動すると、中は腐敗が進まないようにする為か、氷の魔石で冷えているようで少し肌寒く感じます。


 「ランズさん、解体の依頼が入りましたのでお願いします」

 「わかった、モノは?」

 「ユアンさんお願いします」

 「わかりました」


 収納魔法からオーク2体を取り出し、床に並べると、二人から驚きの声が上がりました。


 「ちょっと待て、血抜きはどうなってる!?」

 「ゆ、ユアンさん討伐したのは昨日でしたよね? どうして血が流れるのですか!?」


 首の無くなったオークは完全に血抜きをせずに収納をしたため、血が床を濡らしていき、二人はそれに驚いたようです。


 「僕の収納魔法は時間経過しないので、そのままの状態で保存できるのですよ」

 

 干し肉が長期保存できるとはいえ、約5年分を確保できるのはこれのお陰でもあります。


 「そうなのですか……収納魔法ってそんな事もできるのですね」

 「いや、収納魔法の使い手の事は多少は知っているが、時間経過をしないというのは初めて聞いたぞ」

 

 普通の収納魔法は物を多くしまえるしか効果はないみたいです。僕の収納魔法は特殊で、見せるたびに驚かれる事が多いです。


 「でも、これだと昨日討伐したという証明にはならないですね」

 「だな、話が本当ならいつ討伐したのかわからないからな」

 

 そうなんです。この魔法の欠点とすれば、腐ることなくそのままの状態で保存できるため常に鮮度が保たれています。

 その為に、腐敗状態で確認することも出来ず、納品依頼なら兎も角、討伐依頼の出ている地域で討伐をしたという討伐証明には至らないのです。


 「そういえば、商人のザックという方からここに来る街道でオークに襲われたと言っていましたね。その時にユアンさんの名前も挙がっていましたね……その時のオークで間違いはありませんか?」

 「信じてもらえないかもしれませんが間違いないです」

 「わかりました」


 少し悩んだお姉さんは、少しだけ考えた後、討伐依頼の成功を認めてくれました。


 「ここまで状態の良いオークも珍しいですからね。それを引き取れるのならばギルドとしては利益になるでしょう」


 どうやら、オークの素材と達成報酬で天秤にかけていたようです。それでも、依頼達成できたのであれば、喜ぶところでしょう。


 「それで素材ですが、全てギルドの引き取りという事でよろしいでしょうか?」

 「肉を少し分けて貰えるとありがたいです」

 「肉ですね。どれほど必要ですか?」

 「そうですねー……。三分の一ほど貰う事ってできますか?」

 「可能です。その代わりに素材引き取りの代金は低くなってしまうのでご了承ください」

 「わかりました。薬草と流水草もここに出していいですか?」

 「はい、運ぶ手間が省けるのでお願いします」

 

 薬草と流水草を50本ずつ取り出した事に驚かれつつも、僕たちは再び受付へと戻ります。依頼達成の証明をしてもらう為です。

 「では、オーク討伐と薬草及び流水草の採取……合わせた報酬がこちらになります」

 

 お姉さんは机の上に金貨2枚を置いてくれます。


 「ありがとうございます」

 「オークの素材の代金に関しては、解体が終わり次第の査定になりますので、明日までお待ちください。それと、解体にかかる費用は素材代金から引かせて頂きますのでそちらも覚えておいてください」

 「わかりました」


 オークの素材は肉以外にも睾丸という部分が高く取引されるみたいです。

 何でも、貴族が夜の時に使う薬の材料なんだとか……物好きもいるようですね。


 「それと、以前よりDランクに上がる権利を所有しているみたいですが、今回はどうしましょうか?」

 「いえ、Eランクのままで大丈夫です」

 「え……いいのですか? Dランクにあがれば更にいい報酬の依頼を受けれますよ?」

 

 ランクが上がれば報酬は高い。しかし、必ずしもメリットだけとは限りません。

 討伐依頼であればC~Dランクの魔物の依頼が多いですし、採取もより危険度の高い場所を探す事を求められます。

 何よりも、Dランク以上は緊急依頼などで、強制参加させられますからね。しかも、場合によっては降格……最悪の場合ははく奪される恐れがあるので、無理してDランクでやろうとは思いませんよね。

 ギルドとしては、Dランク以上の冒険者は増えて欲しい所なので、薦めてきますが、僕は毎回お断りしています。



 「リンシアさん……今日も森の調査だろ」


 依頼の報告が終わり、お姉さんとそんなやりとりをしていると、ひそひそと話す会話が聞こえてきました。

 盗み聞きではありませんよ?

 ただ、僕の耳が少しいいだけです。


 「みたいね。最近出没するようになったオークの調査らしいわね」

 「なら、俺たちも行ってみないか?もしかしたら、おこぼれを狙えるかもしれないしな」


 会話の主は誰かすぐにわかりました。ギルドに併設されている食事処で隅の方に座ってこそこそしているので逆に目立つ3人組がいます。

 それに気づかないのはやはり頭が悪いのでしょうか? 勿論、昨日僕に絡んできた3人組です。


 「いいわね。最近、お金が減ってきているから補充したかったのよね。オークは良い稼ぎになるし、これ以上パパにお小遣いを強請ると辞めさせられそうだしね」

 「お前の親父さん、ギルドマスターだっけか? 稼ぎ良さそうだな」

 「まぁね。それで、今から向かうって事でいい? 日が暮れて外での野営なんで冗談じゃないわよ?」

 「そうだな。今から行って、リンシアさんが戦っている所に助太刀して報酬を貰う……一緒に戦ったなら拒否は出来ないだろう」

 

 本当にリンシアさんのおこぼれを狙っているようで聞いているだけで気分が悪くなる内容でした。

 そもそも、リンシアさんが向かっていったのは森の奥なので会える可能性は低いと思いますけどね。


 「俺は、行かないぞ」

 「はぁ? いきなりどうしたんだよ?」

 「そうよ、デングは何が気に食わないのよ!?」

 「全てだよ。やる事が冒険者じゃない。やるならお前たちだけでやってくれ。俺はパーティーを抜けさせてもらう」


 そう言って、デングさんは一人ギルドを出ていきました。

 どうやらこの3人全てが悪いようではなかったみたいです。そういえば、昨日もデングさんは僕の事を馬鹿にしてきませんでしたし。


 「ふん、あんな奴は放っておけばいいんだ。元々臨時のパーティーだっただけだしな」

 「そうね。それじゃ、後一時間後に出発でいい?」

 「俺は今すぐでもいいぞ」

 「女性冒険者は身支度に時間がかかるのよ。それじゃ、一時間後に門の前で会いましょ」


 前にパーティーを組んだ時の事が思い出されます。ソロ同士の合同で組んだパーティーでしたが、その時も時間とか勝手に決めてましたね。

 依頼中も何かと我がままを言ったりして、険悪な状態で依頼を進めた記憶があります。


 これから僕も森に再度採取を受けるつもりでいたので、僕は直ぐに出発することに決めました。

 遅くなると、出発があの2人と被る可能性がありますからね、それだけは絶対に嫌ですから。

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