第6話 Eランク冒険者、ギルドで依頼を受ける
夜の野営も特に問題はなく、日が昇ると同時に出発した僕たちは予定通り昼前に村へと辿り着きました。
「村?」
辿り着いた村は、僕が思い浮かべていた村の様子とはかけ離れていました。
僕が住んでいた村は農地を中心に木造の家屋の立ち並び、ひっそりとした所でしたからね。
飲み屋もない、宿屋もない村でしたが、一応領地としている男爵により管理されていたようです。
その男爵も常駐している訳ではなく、年に数回、農作物の量を測り、税の徴収額を決める視察に訪れる程度です。
その時に男爵が宿泊をするだろうお屋敷はありましたが、その大きさも帝都の宿屋くらいのサイズしかありませんでした。僕が想像する村のイメージはそんな感じです。
しかし、この村といえば。
「商人と護衛の方ですね。ギルドカード、または市民カードの提出をお願いします。どちらも無い方はお手数ですが詰所の方に身分確認をお願いします」
村の入り口に警備兵が立ち、村に入る人を一人一人検査をしてます。まず、その事に驚きです。
村を守る外壁はないものの、魔物や盗賊などを拒む鉄の柵が村を覆うように並べられています。
これは村というよりも街と表現してもいいような……。
昔の名残か、一角には僕の村でも見るような古い家屋はありますが、それ以外の建物は最近建てられたとわかる家屋が並び、宿屋は勿論、鍛冶屋、道具屋、冒険者ギルドの看板も見えます。商人も集まる事を考えれば商業ギルドもあるのかもしれません。
「冒険者カードです。よろしくお願いします」
「Eランクのユアンさんですね。確認が取れましたので、お通りください」
市民カードやギルドカードは身分証となる為、それを見せると僕たちは街の中に入る事ができました。場所によってはフードを外せと言われることもあるので助かります。
「驚きましたか? これが今のルード帝国の力なんですよ」
「ルード帝国の力ですか?」
ザックさんの言葉の意味があまりわからず、僕は聞き返してしまいました。
「戦争の準備を進めているのは知っていますか?」
「はい」
その噂は常に絶えないですからね。しかも、噂を決定づけるかのように徴兵や武器のなどの物資が帝都に運ばれているのは見てわかるのです。
「村が豊かになれば問題は増えるかもしれませんが、同時に収益も増します。ここを治める領主様は今後の事を見据え、村を開拓し、より多くの物資を帝都に提供して影響力を高めようと考えているのでしょう。現在どこの村も同じように開拓が進んでいますよ。帝都の中心を除き、国境に近い村を中心にね。今のルードにはそれほどの財力があるようです。商人としては有難い話ですけどね」
それは知りませんでした。しかし、ルード帝都だけではなく、周りの村や街が動いているのであれば、本格的な戦争は近く起きるかもしれないですね。
「では、僕はこの辺りで。馬車、楽しかったですありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ窮地を救って頂きましてありがとうございます。こちらは護衛の報酬になります」
ザックさんが僕に小さな袋を差し出しました。
「いいのですか?」
「俺とマリナで話し合って、ザックさんに確認も済んでいるから受け取ってくれ。勿論、俺もマリナも受け取るから心配するな」
「助かったわ、ありがとう。約束通りオークも貰ってね」
「何から何までありがとうございます」
好意を無駄にするわけにはいかないので差し出された袋を受け取ります。すぐに中身を確認したい衝動にかられますが、それを抑え袋を収納して頭を下げます。
「良かったら一緒にパーティーを組みたいところだけど、ユアンにも目的があるみたいだし、もし何処かで出会ったら今度は一緒に依頼を受けてくれると嬉しいわ」
「僕もです。それまで二人とも元気でいてくださいね」
「そのつもりだ。ユアンもゴブ……あの肉を食べなくてもいいくらい稼ぐように頑張れよ。俺も少しずつだが上も目指すからさ」
「はい。お互いに頑張りましょう」
二人と再会を誓って握手をし、ザックさんにも別れを告げます。
「ユアンさん何か必要な物などがあれば、先の街タンザにあるザック商店にお越しください。これは私の紹介状になりますので、少しですがオマケさせて頂きます」
ザックさんは報酬とは別にザック商店の口利きとなる紹介状を渡してくれました、至れり尽くせりですね!
僕はそれを収納し、商人3人とも握手を交わし、予想以上の成果にホクホクしながらその場を離れました。
街に来て最初にやる事いえば、宿屋の確保……といいたいところですが、僕は宿屋に泊まるつもりはありません。
いつかはそれを習慣にできる冒険者になりたいですが、それは今でなくてもいい訳です。なので、僕は冒険者ギルドに向かう事にしました。
「村に冒険者ギルドがあるのが驚きなんですよねー……」
基本的に村には冒険者ギルドはないのが普通です。世界各国に存在する冒険者ギルドですが、何処にでも存在する訳ではないようです。
国と冒険者ギルドが話し合い、出没する魔物やその土地で手に入る薬草などの情報を元に冒険者ギルドにも利益があると判断されなければ設置されないと聞きます。
僕の住んでいた村のように、冒険者も来ない、魔物も少ない場所では冒険者ギルドは常に閑古鳥が鳴いてしまいますからね。
そういった村は近くの街などに依頼をしなければいけませんが、そのような有事は滅多に起きないので問題はないみたいです。
それだけに、村に冒険者ギルドがあるのは僕にとって衝撃的でした。村というのに街にしか見えないけですけどね。
冒険者ギルドに入るとお昼時とあってか、人はあまりいないようです。この時間は冒険者たちは活動している事が多いからです。基本的に依頼は早い者勝ちですからね。
「いらっしゃいませ、当ギルドは初めてのご利用でよろしいですか?」
受付に近づくと笑顔が素敵なお姉さんが対応をしてくれました。
「僕に合った依頼がないかと確認しに来ました。ギルドカードお願いします」
「失礼致しました……Eランクのユアン様ですね」
街に着いて冒険者ギルドに顔を出すのは義務ではないですが、推奨されています。これは、その街で緊急依頼や強制依頼が発生した時に動ける冒険者がどれくらいいるか把握するためらしいです。
ただし、どちらもDランク以上が召集されるので今の所、僕には関係のない話ですけどね!
「少し依頼ボード見させてもらいますね」
ギルドカードを返して貰い、現在の依頼されている情報を確認しにいきます。
Eランク
・薬草10本納入 依頼:ギルド 報酬:素材込み銀貨1枚
・流水草10本納入 依頼:ギルド 報酬:素材込み銀貨1枚
・ゴブリン3匹討伐 依頼:領主 報酬:銀貨1枚 討伐証明必須
・オーク1体討伐 依頼:コリンズ商店 素材込み銀貨5枚
ありきたりな常駐依頼が多かったです。
常駐依頼とは常に発生している依頼であるため依頼を受けずに達成しても事後報告でも達成が認められる場合が多いです。しかし、明らかに達成してから時間経過し、薬草が枯れていたり、魔物の腐敗状況によっては認められない場合があります。
今日は毎朝更新される通常依頼がないので、きっと他の人が受けているのでしょう。
「お嬢ちゃん、ここは冒険者ギルドだぜ。場所間違えてないか?」
声をかけられ振り向くとそこには3人組の男女が立っていました。
「あれぇ、もしかしてポーションじゃない?」
にやにやとしながら僕を指さした女性に見覚えがありました。
どこかの街で一回だけパーティーを組んだ……ような気が……名前は確か。
「なんだ、ナターシャの知り合いかよ」
そうでした、ナターシャです。
「前にパーティーを組んだことがあるんだけどー。回復する事しか能の無い足手纏いだった気がするー」
「それでポーションか。納得だな!」
「きゃはは! ゴブリンくらい倒せるようにになったかな~?」
ポーションの値段ってピンキリで、とらえ方によっては名誉だと思いますけどね。 回復魔法の使い手は実は高ランク冒険者から人気あるくらいです。僕も此処にくるまでに何度か臨時パーティーを組んだこともあります。
ナターシャと組んだ時も、そうだった覚えがあります。
その辺りを知ってなのか知らないのかわかりませんが、とりあえず馬鹿にされているようですね。
反論し、騒ぎになるのも面倒なので僕は依頼ボードから薬草と流水草の依頼を手に取り、3人を無視してカウンターに向かう事にします。
「おーい。それは討伐依頼じゃないぞー。どうせなら雑魚のゴブリンでも狩って来いよ」
「無理無理~。オリオみたいな戦士とは違ってポーションだから回復しちゃうって」
「それもそうだな!」
ゴブリン3体くらいなら僕でも狩れますけどね! ただ、時間がかかるからやりたくないだけなんですよね。
「騒がしい」
カウンターに向かっていると、入口から誰かが入ってきて一言呟きました。
「げっ……リンシアさんだ」
ナターシャがオリオと呼んだ男がバツの悪そうな表情をしています。
(忌み子……違う、犬の獣人ですかね?)
リンシアと呼ばれた女性は背中にクロスするように少し短めの剣をさし、露出の少ない黒色で統一された服を着ていました。防具も最低限で、心臓と守るプレートと籠手を着けているくらいです。
髪の色は最初は忌み子と間違えるほど黒いですが、よく見ると灰色が混じった種族特有の色とわかります。腰まで伸びた長い髪が一つに纏められ、背筋の伸びた凛とした姿、そして整った顔、他者を威圧するような金色の目。そして、一目で人間ではないとわかる犬耳。
見ただけでわかります。
他の冒険者と比べ、強い冒険者である事に。
そんなリンシアさんは一瞬だけですが、僕のほうをちらりと見ました。
ですが、本当に一瞬ですぐに興味をなくしたように、すぐに行ってしまいました。
視線が僕の頭の所で止まった気がしたので、もしかしたら僕が狐の獣人であることに感づいた可能性がありますね。幸いにもそれに触れないでくれたので助かりました。
「邪魔」
依頼ボードの前で固まっていたナターシャ達3人はリンシアさんの一言で素早く依頼ボードの前から離れます。なんかかっこいいですね!
「り、リンシアさんはこれから依頼ですか?」
Cランクの依頼を見ているリンシアさんにナターシャからオリオと呼ばれた男が声をかけています……明らかに邪険にされているのに勇気ありますね。
「違う」
「よ、よければ俺たちとパーティー組んでもらえませんかね?」
依頼を受けに来た訳でもない相手をパーティーに誘うとは馬鹿みたいですね。
「調査の邪魔になる依頼がないか見ただけ」
そう言って、依頼ボードから離れ、そのままギルドから出ていってしまいます。
「これ、お願いします」
「採取依頼ですね。最近、森の方で悪い噂が流れているようなので、一応お気を付けください」
水晶にギルドカードをかざすと依頼が発注されたのを確認し、リンシアさんに一蹴された3人に再び絡まれる前に僕もギルドを後にしました。
そして、そのまま村の門へと向かういます。
「嬢ちゃん今から外に出るのかい?」
採取依頼を出来るだけ早く終わらせるために村の外に出ようとすると、先ほどの警備兵に呼び止められました。
「はい、少しでも稼げる時に稼いでおきたいですから」
「いい心がけだが、森に行くなら気をつけな。最近オークが出没するって噂だからな」
街道でもオークに出会ったし、数が増えているようです。元々繁殖力の高い魔物ですし、流れオークが住み着いたのかもしれないですね。
「ありがとうございます。無理はしないようにしますね」
「日が落ちる頃には門は閉じちまうから、一応覚えておいてくれ、間違っても門が締まっているからって柵を越えようとするなよ。一応犯罪だからな」
「わかりました」
警備兵のおじさんに見送られ、村の外に出ます。ギルドカードの情報では、村から北に向かった森でどちらも採取が出来るみたいです。
オークが出没する噂の森ですが、僕はその森へと向かいます。
報酬となる素材を集めるために。
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