第4話 Eランク冒険者、商人と護衛に出会う
「僕もお手伝いしますね」
「いきなり何よ!」
矢を放っている女冒険者に声をかけると、怒られてしまいました。勝手に参加すると横取りをしたとして後で揉め事に発展する可能性があるみたいなので先に声を掛けたのですが、どうやら邪魔をしてしまったみたいですね。ですが、商人の方に了承を得ていますし、何よりもこの状況は危険です。
「いえ……街道を歩いていたら魔物に襲われていたようなので、僕も冒険者なので安心してください」
女性は矢を番えながら、胡散臭さそうに僕を見ています。ですが、状況が状況です。女性は僕が魔物ではないとわかると、オークの方へと視線を戻しました。
「報酬は後で相談でいい?」
「問題ありませんよ。では、参加してもいいのですね?」
「助かるわ」
どうやら戦闘中で気を張っていただけのようで、いきなり戦闘に割り込もうとした僕にお礼を言ってくれるあたりいい人そうで一安心です。
中には、僕の事を見て罵声を浴びせる冒険者もいますからね。 優しい言葉が欲しい訳ではありませんが、冒険者同士で時には協力する事もあるので、そういった時くらいは、言葉を選んで欲しいと思う時があります。
それはさておき、今は魔物をどうにかしないとですね。
という訳で、僕も戦闘に参加ですよ!
「では、僕が足止めするので止めをお願いします」
「ちょっと、待ちなさい!」
待ってはいられません。今にも前線が崩壊しそうですからね。 男の冒険者の方が、オークの攻撃を剣で流し、大ぶりの攻撃を避けてはいますが、それも長くは続きそうにもありません。
「ちょっと、失礼しますね」
男の冒険者が口を開く前に僕はオークとオークの間を通り抜けました。その時に、そっとオークの身体の一部を軽くタッチし、魔力を流します。
準備完了です。
「フリーズ」
光の鎖が僕の手とオークの体を結び、オークの動きがとまりました。
これは、補助魔法の一つで相手の行動を制限する魔法で、一度触れなければいけない、高ランクの魔物には通用しない、一度に拘束できるのは5体までと制限はありますが、動きの鈍い低ランクの魔物には有効なのは経験からわかります。
「今のうちにお願いします」
オークが光の鎖から逃れようとするのが魔力の鎖から伝わってきますが、正直オーク程度であれば逃さない自信があります。
「大丈夫……なのか?」
オークが動きを止めた為、男の冒険者は警戒してか、動いてくれません。 なので、僕はオークを再度触り、安全だという事を伝えます。
「大丈夫ですよ。この魔法を使っている間は僕も動けないのでお願いします」
実はこれは嘘だったりします。ですが、Eランク冒険者の僕が見た事の無い変な魔法を使うと、実は高ランクの冒険者なのではないかと変な疑惑を持たれる可能性がありますからね。 フリーズ自体が珍しい魔法なのですけど、控えめに使えばきっと大丈夫なはずです。
「わかった」
男の冒険者が剣を振るいました。念の為にさり気なく、付与魔法で切れ味をあげてあげると、あっさりと2体のオークの首は飛び、戦闘はあっさりと終わりを告げました。
「信じてくれてありがとうございました。もう少し倒すのが遅くなったらオークを離してしまいそうだったので助かりました」
「いや、こちらこそ窮地を救ってくれた事を感謝する……俺はリクウだ。それでこっちの女は」
「マリナよ」
「僕はユアンです」
「とりあえず、報酬の話は後でいいか? まずは、護衛の商人の被害を確認したい」
「はい、かなり怯えていたようなので声をかけてあげてください」
「あぁ、落ち着いたら直ぐに戻る」
そういって、リクウさんは商人の元に走っていきます。
リクウさんを二人で見送ると、マリナさんは僕の方へ向きなおり、僕に話しかけてきました。
「改めてお礼を言うわ、ありがとう」
「いえ、たまたま街道を歩いていただけなので」
「では、そのたまたまにも感謝しなければいけないわね」
オークを倒し、安心したのかマリナさんはふっと笑みを零します。
さっきのきつい口調とは大違いですね。
「はい、そうですね!」
合わせるように僕も笑い、場には和やかな雰囲気が流れます。
「商人の方は大丈夫そうだ」
暫くすると、リクウさんが僕たちの元に戻ってきました。
「それは、よかったです」
「それで、商人の方からユアンに護衛の件について話があるそうだ」
「僕にですか?」
「あぁ、ユアンが駆け付けてくれたお陰でオークの襲撃を無事に乗り切れたからな」
「わかりました、少しお話をしてきますね」
二人の元を離れ、馬車の方へ向かうと、商人たちは荷物や馬車の損害を調べている最中でした。
「荷物は問題ない。馬車には傷が多少はあるが、オークの襲撃を考えれば安いもんか……」
「あのー……」
「ん……あぁ! これは冒険者殿、先ほどはありがとうございました!」
揉み手をするように太った商人は笑顔で僕の方へ寄ってきます。
「ユアンです。被害が少なそうなので何よりです」
「えぇ、無傷とは言えませんが、オークの襲撃があったことを考えれば幸いな結果ですよ」
太った商人の名前はザックさんと言うらしいですね。カイゼル髭が良く似合う中年のおじさんで、この商人達のリーダーみたいです。
ザックさんの話によると、この辺りでオークが出没するのはとても珍しいとの事で、その準備をせずに移動をしていたみたいです。
護衛が二人で、尚且つ低ランクの冒険者を雇っていたのもそれが原因みたいですね。
例え2日の旅だとしても、少し危機感が薄いと内心思いましたが、それは内緒です。
「事情はわかりました。それで、僕が呼ばれた理由ですが……」
「そうですね、出発して半日でこの有様でありまして、街に戻るか村へ進むかリクウさんと相談したのですが、村へと届ける荷物に納期がありまして、馬車も問題ないようなので進む事に決めました。それで、ユアンさんが良ければリクウさん達と共に護衛に参加して頂ければと思いまして……もちろん報酬はご用意致しますのでご安心ください!」
なんと、護衛の依頼みたいです!
「僕としては構いませんよ。ですが、僕はEランクですがよろしいですか?」
「構いません。馬車の中から伺わせて頂きましたが信頼に足りるとの判断ですので」
「そういう事なら喜んで」
「ありがとうございます……それで、報酬の方ですが……」
ザックさんは色々と提案をしてくれます。ですが、僕の望む報酬は一つです!
「それなら僕は……」
「お待たせしました」
「おぅ、それでどうなった?」
「はい、僕も護衛に参加させて頂く事になりました。よろしくお願いします」
「良かったわ。さっきのことを考えると二人だと少し不安でね」
「あぁ、こんな事はもう無いと思うが、念には念を入れておきたいからな」
「それで、報酬はどうなったの? 三等分……いや、私達と折半くらいがちょうどいいかしら?」
「いえ、馬車に乗せて頂ける事になりました!」
「「はぁ?」」
僕の提案は次の村まで馬車に乗せて頂くことです!
2日の道のりとはいえ、歩くよりは馬車で移動する方が負担は少ないですからね。
「いや、俺たちも基本的には馬車で移動だぞ?」
「そうなのですか?」
「そうよ、私達が歩いていたら進行速度が落ちて効率悪いからね。馬車から降りるのは襲撃にあった時くらいよ」
知りませんでした……。ですが、馬車で移動できるのには変わりません。
もし僕を雇ってくれなかったら、馬車に乗る事は叶いませんからね!
僕が喜ぶ一方で、何故かリクウさんとマリナさんが頭を抱えています。
「その辺りは俺が後で交渉してこよう。だがユアン、冒険者ならば出来るだけ自分に有利な交渉をするべきだ」
「でも、十分な報酬ですよ? 馬車での移動はお金がかかりますし」
「ユアンが良くても他の冒険者にユアン自身が間接的に迷惑かける場合があるのよ。前の冒険者はその報酬で受けたって値下げ交渉に使われたりね。その時に、ユアンの名前を出されたら恨まれたりするわよ」
なるほど、そういう事もありえるのですね。
「勉強になります」
二人に説教……いえ、先輩冒険者として、知らなかった事を教えて頂いていると、商人さん達の準備が整ったようで、出発する旨を僕たちに伝えに来てくれました。
「ちょっと待ってくれ、オークをこのままにすると色々とまずい」
それは僕にもわかりますよ。
このままオークを放置すると、オークの血の匂いを嗅ぎ付けた魔物が寄って来たり、夏場であれば死体が腐り疫病が発生したりします。
既にその場を離れた僕たちはいいかもしれませんが、次に街道を通った人が迷惑する事になります。そして、向かう先は限られてきますので、場合によっては僕たちが責められることになります。
「とりあえず、解体するのは後にしましょう」
収納魔法でオークをしまいます。
「羨ましいな」
「私達は魔力に乏しいから仕方ないわね」
それが取り柄ですからね! 逆に剣や弓を扱えない僕にとってはそっちの方が羨ましいです。戦闘になると基本的に他人任せになってしまいますからね。
「適材適所ということで。では、行きましょう」
オークは後で分ける事にしました。
二人は僕に譲ると言ってくれましたが、倒したのは三人で、ですからね。
ちゃんと話し合って、みんなが納得するように分け合いたいと思います。
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