第3話 Eランク冒険者、パーティーに誘われる

 「なぁ、良かったら俺たちと一緒に来ないか?」


 火龍の翼から約束通り報酬を受け取り、次の街に向けて旅立つ事を伝えると、リーダーのユージンさんから突然そんな言葉を頂きました。


 「いえ、僕はこれから西へと向かう予定なので火龍の翼の皆さんとは逆方向になりますので……お気持ちは凄く嬉しいのですが」


 誘って貰える事が嬉しいのは本当の気持ちですが、僕が向かっているのは大陸の西にある獣人国のアルティカ共和国。様々な獣人が集まり、各国の王が話し合い国を回していると聞く場所です。


 「でも、わざわざそんな国に無理に行かなくてもいいじゃない? 戦争が終わったとはいえ、国境付近はまだ荒れているわよ?」


 約15年前……僕が生まれた頃に起きた戦争の傷跡は癒えていないようです。その証拠に、僕のように孤児院に預けられる子供は未だに数が減りませんからね。

 終戦を迎えた筈の戦争も水面下ではまだ続いているという噂です。帝都ルードで軍事演習が日々行われ、帝都に数多くの武器やマジックアイテムが集められているのはルード帝国に居る者なら誰でも知っている事です……孤児院に居た僕でさえも。


 「大丈夫ですよ。それに……」


 僕はフードをとる。


 「……! 獣耳に黒髪……」


 火龍の翼のみんなの表情が引き攣るのが見てわかります。

 獣人に黒髪はいない。黒髪を持つのは獣人ではなく、人間だからです。

 つまり、黒髪と獣耳を持つ者は人間と獣人の間に命を授かった者だけとなる。

 そして、その者は、忌み子と呼ばれ侮蔑、差別を受けるとされています。


 「なので、皆さんに迷惑はあまりかけられませんからね……もちろん、別の報酬は忘れては困りますけどね」


 悪戯っぽく笑って見せます。


 「別にいい。ユアンが来たいなら来ればいい」

 「そうね。ユアンちゃんの狐耳、とっても可愛いわよ?」


 リーダーであるユージンさんではなく、エルさんが僕を優しく抱きしめながら言ってくれました。それに、同調するようにルカさんも頭を撫でてくれますが……さり気なく耳を触ってくるのは気のせいですかね?


 「そうだな。そんな事を気にしていたら冒険者なんてやってられないな」

 「そうだそうだ! 俺だってドワーフなのにこんなだしな!」


 ロイさんの種族はドワーフらしいです。しかし、ドワーフは低身長で筋骨隆々で鍛冶が得意と噂では聞きますが、ロイさんは2メートルにも届きそうな身長で筋肉の塊が歩いているような印象です。


 「まぁ、見た目よりも中身って事だ。冒険者にもなってそんな事を気にしているようでは上には行けない。依頼主を見た目だけで判断するようでは長続きしないからな」

 「その通りね。今回のように、ユージンが領主の娘の美貌に騙されて受けなければこんな危険な目には合わなかったし」

 「それはだなぁ……」

 「仕方ない。ユージンはモテたくて冒険者になった」

 「そんな事ないぞ!?」

 「なら、ユージンはユアンちゃんの面倒をここまで見るのは何故かしら?」

 「そりゃ、命の恩人だしな……」

 「違う、可愛いから」

 「可愛いのは否定しないが、そんな理由ではないからな?」


 人を前に可愛いと言われても困ります。何せ、僕は忌み子です。人から疎まれる存在です……社交辞令でも嬉しいですけどね。

 だからこそ、この優しい皆さんに迷惑をかける事はできません。

 僕はエルさんとルカさんの包囲から抜け出し、フードを深く被りなおします。

 やはり、忌み子の特徴を晒し続けるのは落ち着きませんからね。


 「あぁ……もうちょっと……」


 ルカさんがそう言ってくれますが、笑顔で断りをいれておきます。


 「では、何かあった時はお願いしますね。お世話になりました」


 深く頭を下げ、火龍の翼に別れを告げます。

 

 「あぁ、何かあったときは命を懸けてでも嬢ちゃんの力になろう」

 「うむ、俺の筋肉に任せろ!」

 「ありがとうございます。ですが、命は大事にしてくださいね?」

 「えぇ、もし一人に疲れたらいつでも私達の元に来てね」

 「回復役一人は大変だから、私も助かる。主に筋肉だるまがすぐ傷つくから」

 「えへへっ。その時はお願いしますね」


 あまり話していると別れが惜しくなりそうなので、僕は再度頭を下げ、街を離れる事にします。


 「なぁ、エル。結局、嬢ちゃんは嬢ちゃんだったのか?」

 「乙女の秘密」

 「それ、言葉通り受け取って良いのか?」

 「どうでしょうね。少なくとも私とエルはわかったからいいけど」

 「細かい事は気にすんな! 嬢ちゃんは嬢ちゃんだよ!」

 「まぁ、そうだな」


 火龍の翼の会話をこっそりと優秀な狐耳で捉えながら。





 ここから、次の街までは村を経由しても5日は掛かるようですね。

 帝都近くの村から旅立ち、2か月近く経ちましたが、次の街に辿りつけば漸く国境まで半分まで来たことになるようです。

 そこまで、何事もなければいいけど……と考えるも、そうは行かないのは冒険者としての定めらしいですね。


 「んー……この先で人と魔物が戦ってますね」


 補助魔法の一つ気配察知を使いながら街道を進んでいると、街道を進んだ先、500メートル程先で反応を確認してしまいました。

 頭に浮かぶ映像からすると、人間を示す青い点が5つに魔物を示す赤い点が2つ。動物を現す黄色い点が2つ……商人ですかね?

 赤い点は爪くらいの大きさなので危険度は低いとわかりますが。しかし、それ以上に青い点も小さく弱々しいので状況としては五分といったところでしょうか?

 気配察知の能力は人間、魔物、動物などを色や大きさで表す事ができます。ゴブリンなどが小さなほくろサイズだとすれば先日に戦った炎龍レッドドラゴンは握り拳サイズに表示されます。そうなると点と表すのは変だけど、何せAランク分類されるモンスターですし、それだけ脅威って事がすぐにわかります。

 ともあれ、街道を進むのが一番の近道になるのは間違いないので、手助けするにも見守るのにも進んでみることにしましょう。



 進んだ先では、オーク2匹が馬車を襲っていました。


 「くそっ、何でこんなところにオークが出没したんだ!?」

 「口より体を動かして!」


 戦闘はどうやら始まったばかりらしいですね。青い点の正体は予想通り、冒険者2人と商人のようです。冒険者は商人に雇われた護衛だと思われます。

 男の冒険者が剣を振るい、女の冒険者が援護するように弓を放っていますが、決定的な傷は与えられないようです。

 それに対し、オークは多少の傷を負いながらも冒険者に掴みかかり、隙あらば拳を振るう。

 前線の男冒険者が音を鳴らし、注意を引きながらオークの攻撃を避ける。

 一進一退の攻防が繰り広げられているように見えますけど、これ長引きそうなんですよね。

 オーク2~3体の討伐依頼となれば難易度Dランクとなります。状況からすると冒険者は結構苦戦しているように見えますので腕前は僕と同じEランクくらいでしょうか?


 「あの……。一応僕も冒険者なのですが、お手伝いは必要ですか?」


 忙しそうな冒険者に声をかけるのは躊躇ったので、馬車の中で震える商人の一人に声をかけることにします。

 商人はいきなり声をかけられ、驚いていましたが、震える声を出しながらも頷いてくれました。


 「お願いします……」


 商人に了承を得られたので、僕も戦闘に参加する事ができますね。

 さて、オーク2体ですか、僕の補助魔法が役に立てるかもしれませんね!

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