旅立ち編

第2話 Eランク冒険者、火龍の翼と食事をする

 「あぁ、依頼内容は確かめないとダメだな。今回はそのせいで死にかけたからな」

 「討伐依頼は下位の火竜レッサードラゴンだったのに、蓋を開けてみたら炎龍レッド・ドラゴンだったのよね」 

 「そうですか、勉強になります」


 孤児院で育てられた僕は成人……15歳になると同時に孤児院を旅立ちました。

 院長先生は残って孤児院を補助してくれてもいいと言ってくれましたが、それではいつまでたっても孤児院は貧乏のままです。

 一攫千金ではないですけど、実力があれば大金を稼げる冒険者になったのも、孤児院にいつか仕送りをする為です。尤も、大金を稼ぐには命のやりとりをしなければいけませんけどね。


 「それにしても、嬢ちゃんがEランクだとはな……」


 冒険者のランクは上からS A B C D E Fとなっています。

 他にも冒険者見習いとなるGランクというものもありますが、こちらは冒険者となれる13歳に達していない子供に与えられるランクです。

 僕が孤児院にいる時に冒険者としてギルドに登録したのは12歳の時で、街のお手伝いなどで少額ながらお金を稼いでいたのが懐かしいですね。

 そして、正式に13歳になり、新人冒険者であるFランクになり、近くの森などでポーションの素材となる薬草などを採ったりして、回数をこなし、Eランクの冒険者になり今に至るわけです。


 「補助魔法だけは得意なんですよ」


 僕は今、Aランクパーティー火龍の翼と食事に来ています。この火龍の翼とは数日前に炎龍レッド・ドラゴンと戦っているところにお邪魔したのをきっかけに色々と面倒を見てくれています。


 高ランクの冒険者から話を聞くのは貴重な機会ですし、しかもお礼として無料でご飯を食べられるのは非常に有難いですよね!


 「補助魔法……ね。回復魔法も補助なのね」


 ちびちびとお酒を飲みながら回復役ヒーラーのエルさんが呟きました。


 「がははは! エル嫉妬するなって。助かったからいいじゃねぇか!」

 「別に嫉妬してないけどね」


 エルさんは豪快に笑う戦士のロイさんを睨みつけました。ロイさんはそれを気にすることなくガブガブとお酒を胃に流し込んでいます。


 「まぁ、エルが言いたい事はわかる。俺もあの手の魔法は初めて見たからな」

 「最初の防御魔法も凄かったけど、あの付与魔法エンチャウントだっけ? あれにも驚いたわね」


 先の戦いで僕がやったのは、炎龍が吐いたブレスを防御魔法で防ぎ、その防御魔法が切れる前に全員を回復し、それぞれの武器に付与魔法を使ったくらいです。


 「お役にたてたのなら良かったです」

 「役にたったってレベルじゃないぞ? 剣は軽くなるし、切れ味も上がって、ミスリルの剣が聖剣になったと思ったくらいだ。まぁ、聖剣なんて持ったことしかないけどな」

 「私も杖を握るだけで魔力が増加したわね」


 僕が得意としているのは、回復魔法と仲間に筋力増強ブーストをかけたり、防御魔法バリアを張ったりする補助魔法です。

 その他にも戦闘に関係のない魔法……火をおこしたり水を出したりする生活魔法が使えたりします。

 逆に、攻撃系の魔法は苦手でほとんど使う事はないですけどね。


 「攻撃に参加できない分、役に立てるようにそうなりました」


 基本的にパーティは攻撃役アタッカー補助役サポーターに分かれる。僕は攻撃が苦手なので補助役に徹している事になります。


 「けど、本当にいいのか? 報酬が1割って?」

 「はい、依頼を受け、倒したのは火龍の翼の皆さんでありますから」

 「いや、嬢ちゃんがいなかったら間違いなく全滅していたからな」

 「そうね、命が助かった事を考えれば、報酬を全部……とはいかないけど、8割渡してもいいくらいよ」

 「流石に8割は貰いすぎですので。それに万が一、僕が手伝って報酬の大半を受け取った事が漏れると怖いですからね」


 情報は知らない間に誇張して伝わる事が多いですからね。

 僕が大金を持っていることを知られた時、お金を目的に近づいてくる輩がいてもおかしくないです。

 少なくとも信用できる仲間がいるのであれば受け取った可能性はありますが、身を守れても攻撃が苦手な僕が相手を倒せるとは限らないので今は無理をしない方がいいと思います。なので、これからの旅に必要な資金だけ頂くことになりました。


 「少なくとも、嬢ちゃんの事は広めないし、大金をぶらさげる必要もない収納魔法があるならば大丈夫だろう?」


 収納魔法というのは、魔力に応じて物を自由に出し入れできる魔法で、生き物でなければ収納し、荷物をしまって置ける魔法の事です。


 「私も収納魔法使えるけど、ユアン程ではないから羨ましい」

 「エルやルカの収納魔法にはかなり助けられているけどな」


 収納魔法自体は使い手がいない訳ではないです。ただし、大きさは人それぞれ違います。総魔力量が多かったり、魔法の扱いに長けていればその容量が変わってもきます。その為、収納魔法は魔法を扱う者の実力を測る基準にもなっているようですね。


 「とにかく、僕は報酬の1割で十分ですよ」

 「嬢ちゃんがそう言うなら有難く受け取るが……」


 火龍の翼のリーダーであるユージンさんはそれでも渋っているようでした。


 「それなら、僕が困っている事があったらその時までの貸しって事にしてくれませんか? 僕は見た目では侮られると思うので……」


 僕の見た目は、ハッキリというと低身長で12、3歳と言われても納得されるくらいしかなく、冒険者と名乗っても疑われる可能性がありますからね。

 今の所は問題ないですが、大きな町のギルドにいくと見た目で絡まれる事があったりするらしいので、その時に協力してくれる存在がいれば心強いです。

 といっても、その場に火龍の翼がいなければ何も意味は無いですけどね。それでも何処かで再会できる可能性があるのならば、保険はあって困らないと思います。


 「わかった。火龍の翼の名において嬢ちゃ……ユアンに何かあったら必ず手助けすることを誓う」


 ユージンさんの言葉に賛同するようにルカさんとエルさん、大分酔っているはずのロイさんも頷いてくれました。


 「ありがとうございます」


 その後、約束通り、火竜ではなく炎龍の報酬の1割を受け取り、解散となりました。


 「そういえば嬢ちゃん」


 酒場を離れるときに、ユージンさんに呼び止められました。


 「はい、何でしょうか?」

 「いや、嬢ちゃんは……嬢ちゃんなのか?」

 「それは、見ての通りですよ?」

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