いちばんの鳥

椎慕 渦

いちばんの鳥


むかしむかし、すべての鳥たちが、あつまって議論をしました。

「この世でいちばんの鳥は、だれだろうか」


すかさず ワシが 名のり出ました。

「それはもちろん、オレ。ちからは強く、このするどいツメとくちばし、ライオンだって、こわくない!」


まけずにハクチョウが、いいました。

「うつくしさだったら私がいちばん!まっしろな羽でみずうみにダンスの花をさかせてみせましょう!」


カラスがギャアギャアとわめきました

「かしこさだったら、オイラだぜ!どうぐをつかって、えさをとる。にんげんだって、だしぬいてやらぁ!」


「いやいや、大きさなら、ぼくでしょう。」

そういったのは、見あげるほどのながい足と首、ダチョウです。

「かけっこだったらまけませんよ!」


「あらそれならわたしだっていちばんちいさいわ!

そのまわりをブンブンとハチドリがうなります。

いちばんを名乗ってもいいはずよ!」


「水の中なら、あっしらにおまかせ!こおりのうみだっておよげまさあ!」ひれのような羽をぱたぱた、ペンギンです。


「もっともかがやける鳥、それは私ざます。だから私がいちばんざます!」宝石のような羽を広げたクジャクがしずしずとねりあるきます。


鳥たちの議論は果てしなくつづいて、ちっともまとまりません。おおごえでどなり、相手をばかにしたり、わらったり。


もめごとのきらいなハトがため息をついて言いました。

「とほほー いいところだらけのひとなど、いやしないのに。

とほほー フクロウさんは、どう思う?」


となりにいたフクロウに問いかけました。ところが、

「う~ん むにゃむにゃ ぐうぐう」

ねぼけまなこをこすりもせずに、フクロウはぐっすり、寝ているのでした。


それを見たワシがおおわらい。「だめだめ!ハトさん!

そいつは夜型なんだから!」


ハクチョウがふんとはなをならしてばかにしたように言います「なんでも昼の間は、木の巣穴に、ひきこもっているとか」


カラスが笑いころげます「なんつーか、ニートってやつ?やくたたずだね!ちょーうける!」


それを聞いたハトは 

「まあひどい!私たちだって夜は巣穴で眠るわ!フクロウさんは

それがぎゃくなだけよ!みんなと違うからってバカにするのは

よくないわ!」はとむねをそらしておこりました。

「なんか言い返しなさいよ!フクロウさん!」ところが


「う~ん むにゃむにゃ おひさまがまぶしすぎて むり」

フクロウは目を開きません。みんなは大爆笑、

「とほほ~」ハトはかなしげにため息をつくのでした。


こうして鳥たちの議論はつづきました。ふと気がつけばとっぷり日はくれて、あたりはまっくら、夜がきたのです。


鳥たちはおおあわて!。なぜなら「とりめ」といって、

夜になると彼らはまったく目が見えなくなってしまうのです。


「なにも見えない!」「まっくらだ!」「飛んで帰ることもできない!」「どうしよう!」くちぐちにさけびますが、どうにもできません。みをよせあい、ブルブル ガタガタ ひとかたまりとなってふるえているだけでした。


このようすを、一人の猟師がしげみからのぞいていました。

あさから山のうえがなにやらさわがしいので、こっそり見に来ていたのです。

するとびっくり、せかいじゅうの鳥があつまっているではありませんか!


猟師はおもいました。「しめしめ ここにあみをなげこめば 

せかいじゅうの鳥を一度にゲットできるぞ」そして手にしていた大きなとあみを

 えいっ と投げつけました。かたまっていた鳥たちは いちもうだじん!

 あっさり猟師に捕らえられてしまったのでした。


猟師は捕らえた鳥たちを、納屋に投げ込み、カギをかけてしまいました。

そして自分の小屋に戻ると、ビールを飲み、スマホのゲームをはじめました。


納屋の中では捕まった鳥たちが、しくしく、おいおい、泣いていました。


「はくせいにされちまう!」ワシ

「羽を抜かれてダウンベストにつめこまれる!」ハクチョウ

「害鳥としてしょうきゃくろで火あぶりだ!」カラス


「とほほ~」ハトは小さくため息をつきました。

納屋のすきまから夜空を見上げると、とりめの鳥でもはっきりと見えるほどに明るくかがやくまんまるなお月さまがみえます。


すると「とほ?」そのお月さまを横切るちいさなくろい影をハトはふしぎに思いました。


フクロウでした。


夜の鳥のフクロウは 日が暮れると目がさめ、頭もさえ、つばさを広げて

夜の空を自由に飛び回っていたのです。


「たいへんだ!みんなが捕まってしまった!たすけなきゃ!

でもどうやって?どうしたらいいんだろう?」

納屋のまわりをぐるぐると飛びながら、フクロウはひっしに

考えます。「ぼくのくちばしやつめじゃ、猟師にはかなわない。

納屋をこわすことだって無理だ。カギで納屋を開けるしかない!!

カギを手に入れなきゃ!」


フクロウは高い木のえだにとまると、大きく目をひらいて、

じめんをくまなくにらみつけます。そして草むらのかすかなゆれを

見逃さず飛び掛かり、一匹の野ネズミを捕らえました。


野ネズミはもがきました「ちゅうちゅう!フクロウさん

いのちばかりはおたすけを!ちゅう!」


フクロウは野ネズミにいいました「あばれないで!いつもなら

お前を食べちゃうところだけど、今日はたのみがあるんだ。」

「いうことを聞いてくれたら 助けてやるよ」

野ネズミは答えます「なんでもやりますちゅう」


フクロウは猟師小屋を羽でゆびさしました。「あそこの小屋に忍び込んで、猟師のポッケから納屋のカギを盗み出すんだ。お前なら簡単に入れるだろう?」

「おやすいごようでちゅう」そう言いながらそわそわと周りを見わたしている野ネズミを見て


フクロウはくちばしをかちかち言わせておどかしました。

「いいかい。逃げたりしたらまた捕まえて頭から食いちぎってやるぞ。夜のフクロウはどんなものでもぜったい見のがさないんだ!」

ふるえあがった野ネズミはいちもくさんに猟師小屋に駆け込みました。


小屋の中ではビールを飲み過ぎた猟師がいびきをかいて寝ています。野ネズミは猟師のズボンから這い上がると、その上着のポッケから納屋のカギを盗み出しました。


小屋の外で待っていたフクロウに野ネズミはおずおずとカギを渡します。カギを受け取ると、フクロウは言いました「ありがとう、さっきはおどかしてごめんね。やくそくどおりお前を見のがすよ。」野ネズミはあっという間に草むらに消えていきました。


カギをくちばしにくわえたフクロウは、鳥たちがつかまっている納屋のとびらに飛んできました。取っ手につかまり、カギ穴にカギを差し込みます。フクロウの顔は時計のように回すことができるのです。ぐりぐりとカギをひねると・・・納屋のとびらが開きました!


「フクロウさん!」ハトがさけびました。

「みんな!無事かい?」フクロウが聞くと

「ああ助かった!」「これではくせいにならずにすむ!」

鳥たちは口々に喜びました。が、


「だけどどうやって逃げ出すんだ?」ハクチョウがといかけます

。「まだ暗くてよく見えない。危なくて飛び立てないよ」


フクロウは言いました。「だいじょうぶ。目は見えなくても耳は聞こえる。前を飛ぶものの羽の音についていけばぶつからない。」

羽を広げると「ぼくが先頭にたつよ!さあ行こう!」


フクロウは月のかがやく夜空に飛び立ちました。「こっち!こっちだよ!」

その後に「フクロウさん!」ハトが続きます。そしてその後にワシ、ハクチョウ、カラス・・・ダチョウやペンギンの飛べない鳥はじめんをドタバタと駆けていきました。


こうして一度は猟師につかまった鳥たちは全員無事に逃げ出すことができたのでした。鳥たちはフクロウにお礼を言い、その勇気をたたえました。


ただ、ざんねんなことに、鳥たちはニワトリのように忘れっぽかったものですから、フクロウの活躍などあっという間に忘れてしまいました。そしてふたたび「いちばんの鳥はだれか」という議論をはじめてしまうのでした。


というわけで今日でもハトは「とほほ~」とため息をつき、

フクロウは昼間はぐうぐうと寝ているのです。


おしまい
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いちばんの鳥 椎慕 渦 @Seabose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ