奴隷


 春風は冷たさの終わりを告げるとともに

 ぼくらの足元を不用意にあたためようとした。

 乾いた靴は床の強さを反射して、僕らの足を意気揚々と進めた。

 つくしが生え、たんぽぽのわたげは遠くへ遠くへ飛んでいく。

 咲き誇り舞う、のびやかな春だ。

 ただ、温かさに包まれながらも、その熱にうんざりしはじめた。

 すると

 夏が来た。

 

 体力を奪い、自我をもうろうとさせた。

 自分のものではない勢いに押されて

 くつひもがほどけた。でも歩けるから

 そのままにしておいた。

 でも、なんだかしっくりこないと思って

 結びなおそうとかがんだ時に

 秋が来た。


 葉は色めき立ち、来る冬に向けて準備をする。

 虫たちは鳴りを鎮めて、人々は寄り添いはじめた。

 静かになる、準備を始めた。

 温度はもうあまりわからない。

 でも、視界に白が映る。

 冬が来た。


 白く染めていく冬だった。

 秋から準備をしていたから怖くなかった。

 そう、冬は怖いのだ。

 貯えを消費しないと生きていけない季節だからだ。

 つらくてさむい。冷たい、たった二つの手。


 ほかの三つの季節を引き立てるためにあるのかもしれないと

 勘違いさせるほどだった。

 耐え忍び、

 耐え忍び、

 生を持続させた。

 気づいたら

 また春が来ていた。


 満開の桜はまぶしかった。それよりも

 自分の季節を過ぎてなお、生きる葉桜に心が揺れた。 

 白い浜は、もう太陽と同じ白色だ。夏が来ていた。

 海は心を撫で、油気を焦がし、その色が黄土色になると

 道の木々も色めく秋になっていた。木々は細くなり

 また生きるための準備を始めると、さっそうとあたりまえのように

 冬がやってきた。いきものは寒さにひたすら耐えた。



 めぐる命の山登りに

 いつから私は疲れてしまったのだろう。

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