夜行性なんだからな!

夕タの優

第1話 夜行性ですから!

「はぁ…。どうして私ってこんな能力に恵まれたんだろう…。」


これは間違いなく皮肉だ。皮肉でしかない。能力に恵まれる?いや、こんな能力があるせいで私は、大神(おおかみ)先輩の部活姿もろくに最後まで見れないんだ!


そう、私は今、この16年間生きてきた中で最も苦悩という計り知れないほどに長いトンネルに閉じ込められている。


つまり、困っているのだ。


私、梟谷 星灯(ふくろうたに せいか)は今、サッカー部の大神 真中(おおかみ まなか)先輩に恋をしている。サッカーをしているときは勿論、この間も私がノートを運んでいるときにスマートに

「大丈夫?」

と言ってノートを一緒に運んでくれたのだ。

…ろくに話したこともないのに。


ただ、問題はろくに話したことがないということではない!


私はふくろうの血を受け継いでいる現実離れしたごく普通の女の子。きっと、少女漫画ならどこからかイケメンが現れて、


「俺は、そんなこと気にしない!」


とか言って、happy endの物語が語られるのだろう。

でも、それ以前の問題として夜行性のふくろうの能力を運悪く受け継いでしまった私は6時以降はふくろうの姿になってしまうため部活も入れないし、学校の帰りだって急がないといけない始末。勿論、大神先輩とも仲良くなんてなれないことを…。


泣きたい。


それに、こんな特殊な能力を誰に言うことができるだろうか。

反語的に言うとうざいが

いや、できない。

断言できる。


「はぁ、」


またため息をついた。


「どうしたの?そんなにため息ばっかついて。」


「お母さん…。あのさ、お母さんはどうやってお父さんと結婚したの?お父さんって人間じゃん!」


父は人間だ。母はふくろうの能力を持っている。ただ、私はその姿を見たことがない。


「まぁ、結婚話が持ち上がるまで黙ってたわよ。もし、能力がバレたらどんだけ相手を好きでもどうなるかはわからないからね。」


お母さんは絵にかいたようにニヤリと笑った。悪い笑顔だと思ったが、どうしても結婚したかった相手なんだろうなと変な形だが確かな愛の形を覚えた。


「ぁ、言ってなかったけど変化する能力は番を見つければ発動しなくなるわよ。」


「えっ⁉うん、ちょっと聞いたこと無いんだけどぉ⁉」


驚くどころの話じゃない。散々悩んできた私はなんだったのよ。でも、その為だけに先輩を使うとかは…。避けたい。


複雑だよ。


「じゃあ、お母さんが夜になっても人間の姿なのはお父さんのお陰?」


「イエス!まぁ、おばあちゃんに聞いたのは、夜の営みというかなんというか、同じ個体の形じゃないと上手くいかないらしいからって話よ。まぁ、あなたも頑張りなさい。」


母は、手を振って料理に戻った。


「そんな他人事な…。」


でも、希望がわいてきた!

よし!明日からでも、先輩に私を知ってもらおう!

諦めかけていたガソリンは車のエンジンへと変化していった。


(翌日)


「先輩いるかな?」


サッカー部は毎朝練習をしている。

先輩を探していると、部員の一人に声をかけられた。


「どうしたの?一年生?」


「あ、そうです。大神先輩のお姿が見えないのですが…。」


目の前の人はニヤニヤして私を見てきた。


「な、なんですか?」


「いや、大神が言ってたなぁって思ってね。あ、あいつは朝がとんでもなく弱くて朝練した日には毎回体調不良になるから、顧問から朝練は無しって言われてるんだ。」


あぁぁぁ、私がちゃんと会える唯一の時

間が…。

どうにかせねば。


「お邪魔してすみませんでした!」


私は颯爽と教室へ向かった。


昼間。

売店へ向かう。大神先輩の姿を確認するチャンスを作っていくスタイルだ。


「あ、先輩!」


あ、こんなところで先輩って言ってもほとんどだ。


「大神先輩!」


私は声を大きくして呼んだ。

何を話すとかなにも考えずに。

無計画でしかない…、が、今のチャンスは逃しちゃいけない気がした。


「どうしたの?あ、いつも、放課後部活に見に来てるよね?」


不意をつかれすぎた。


「えっ!?な、何故それを?」


どれだけ目を大きくしただろうか、


「だって、僕も多分梟谷さんと同じ人種だからね。」


…えっ?!驚く私の顔はさぞ滑稽なものだろう。


「そ、それはもしかして変化か何かの…」


もし違ったら大変なので私は口をゴニョゴニョ動かして言った。


「そうだよ。僕は狼になるんだ。文字通りね。だからか知らないけど、夜行性になっちゃうから朝が苦手なんだ。君は、名字の通り、梟だよね。」


唖然…。という言葉が似合いすぎて怖くなる。

いや、これはもう運命だよね。


「はい、はじめて会いました。同じ境遇の人間に。」


もういい!この際、全部暴露しようじゃない!


「先輩!なんで私が先輩に話しかけたかわかりますか?」


少し驚いたかのような顔をした。かわいいところもあるんだと思っている暇なんて無い!


「え、この能力についての話じゃないの?」


「いや、そんなの私が気づくわけが無いですよ。」


そんなに気転は聞かないですね。


「私は、」


重くなる唇を無理やりこじ開ける。


「先輩の部活している姿をみて惚れ込みました。優しくてかっこいいなんてせこいです!」


息をついた。


「つ、つまり、好きってことです。」


微笑んだ。二人とも。私は真っ赤になりながら。


「そっか。嬉しいよ。僕も君のことは気になってたんだ。だって、かわいいから。ってだけじゃなぬく、いつも早く帰っちゃうけど、差し入れとかタオルとかよくおいて帰ってくれてるでしょ?どんな子か知りたかった。」


本当にこの言葉は私に向けられているのか疑いたくなった。


「テコトは…」


緊張のあまりカタコトになった。


「うん、この運命性と二人の思いにのせて付き合おうか。」


私は歓喜のあまり涙が出た。


「これからよろしくね。」


今となってはこの能力にこの上ない感謝を感じている。

あぁ、この恋という私の物語の本の鍵を開けたのはこの違和感しかない能力のお陰だ。

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