第2話
それから数分でほど待った。
ヒヒィン〜!!
何処からか馬の鳴く声が聞こえた。
携帯をいじっているクレアが辺りをキョロキョロし出した。何事かと目を左往右往していると、前方十メートルほどの所に見慣れない輪っかができた。その奥は紫色の光に包まれており何も見えない。
ヒヒィン!! 三度馬が鳴くと車輪の転がる音、木が軋む音、男性の掛け声が聞こえた。
ゲート付近から妙な煙が立ち込める。空気より重く、土より軽い煙だ。その煙がゲートを囲うように四、五メートルほど広かった。
壮大な音楽が流れ出す。ラッパを吹く木人形、太鼓をたたく木人形、シンバルを鳴らす木人形、ピアノを弾く木人形……数を上げたらキリがないほどに煙の中からそれら全てが出てきて美しい音楽を響かせた。
いま、何時だと思ってるんだ? というのは無粋なのだろうが、こんな爆音で辺りには家々が連なっているのだ。誰一人として文句をつけて来るものどころか、人っ子一人として出てこない……一体?
青色の煙が馬車の下から吹き出す。
匂いは水蒸気のそれだが、独特なセンスだと俺は遠い目をした。
煌びやかな馬車の取手が捻られ中から人が出てきた。
その人の身に纏う衣装は中世ヨーロッパにでもいそうな豪華な服を見にまとった中世的な顔をした男性だった。年は自身とそうからないだろうが出で立ちが異なると言うか、威風堂々としていると言うかなんというか人として負けているような気がした。
「はいはい、来ましたよ。姫さん……はぁ、疲れた〜労いの一言でもくれませんか?」
ドパッン
「あの、労いの言葉が銃声って……」
「何か文句でも?」
「いえ、ありません」
脳みそを軽く吹き飛ばされたその男性は地べたに汚らしく横たわっていた。
俺はそれを感慨深く眺めていると、俺に銃口が向いたので、木の棒で突っついていた。それをクレアは何故か満足そうに眺めていた。サイコパスじゃないかと危惧したが、今更だと首を振り男の人に同情するのであった。
「この人、誰なんですか?」
「そうね……んータクシー?」
「すみません、こんなタクシー見たことないです。と言うか乗りたくないです」
「そう? 中は結構広くて乗り心地は最悪なのよ?」
不思議そうに俺見つめるクレアの目にはハテナが浮かんで見えた。
「というか、乗り心地最悪ならなおさら乗りたくないんですけど……」
「そんなこと言わずに、ね! 乗るわよ」
銃口が向いちゃいけない方を向いてるよ!!!
「あの、すみません。乗るんで獲物を下げていただけませんか?」
「あら、殊勝ね。そうよ、そんな風に謙れば私も弾丸を無駄にしなくて済むわ。これ結構高いのよ」
「参考までにお値段は?」
「一発3500円程かしら? そこそこするのよ。だから無駄弾撃たせないで頂戴」
かずまさは思った。
撃たなければ済む話なのではと……だがこれを口にしたらまず間違いなく俺の頭は吹き飛ぶ。
それは嫌だ。と言うかもう嫌だ。結構どころか、かなり痛いのだ。死の痛いと言うのはこう言う痛みなのだと……。
「そ、そんなにもお高いのですね……。(相場知らないけど)何処で買うんですか?」
「ネット」
え、ネットなん?
これネットで買えるやつなのか? へ、へぇ〜俺も欲しいな……。銃刀法違反で捕まりそうだけど。
そんな無駄な時間を過ごした俺はクレアさんにこの後のことを話すことにした。
「この死体どうするんですか?」
「そうね……流石にこのままはまずいから生き返らせるわよ?」
「いや、そんな疑問系で言われても」
「そう? 少し下がってくれないかしら。余計なチャチャが入ると集中できないの」
俺を後ろへ下がらせるとクレアは怠そうに詠唱する。
『死者蘇生』
とてもめんどくさそうにやっている。
何故そんなに面倒なのかと聞けば、魔力の消費が大きいのだとか……撃たなければ魔力、使わないんじゃないのか? と言う質問は火に油を注ぐ行為なので自粛した。
「ふぅ〜死んでから十分ですか……少し遅くないですか? 姫さん。あんま時間かけすぎると生き返らなくなると知ってるはずなんですけどね?」
彼は時計を見ながらそう呟く。
嫌味だ。顔は笑っているのに目が笑ってないパターンだこれ……この人めちゃ怖いやん……怒らせないでおこう。
「煩いわね。そのままシミになる方が良かったかしら?」
「あんね、そう言うことを言うてる訳じゃないんよ。まず、俺に向いてる銃を下げる所から始めて欲しいのだけど」
「あら、失礼。蝿が止まっていたのでつい」
「あんな、|つい(・・)で殺されてたらこちとら堪らんぞ? 弾丸だって無料じゃねんだ。ばかすか撃つのは映画の世界だけだ。何処の世界にハエがいたから引き金を引くバカが居るんですかね」
ドパッン
『盾』
「チィッ!」
「不意打ちじゃない限り俺にの頭は吹き飛ばせんぞ。全く、撃たれるこっちの身にもなれってんだ。大馬野郎が……いや、女だから雌ブタの方がいいのか?」
「ああ"?」
「ひぃぃい!! また、また撃つのか僕を。僕の魔力少ないって知ってるだろーーグスン……これだから姫さんは嫌いなんよ」
見る見るうちに小さくなっていく男性を横目で見ているとその男性がちらりと俺を見た。
(やばい、目があった……)
ニヤリ……その言葉が全くと言ってぴったりな顔をした男はむくりと立ち上がり俺の前にやってきた。
「なぁ、これはなんだ……? なんでこんなの拾ってきたんだ? それに目的地だってこいつの家だ。こいつに何があるってんだ?」
鋭い目で俺を睨みつける。俺は蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなった。
「この子は私の弟子よ……唾つけてあるんだから勝手に取らないでよ」
「ほほぅ〜氷結の魔女とまで呼ばれたあんたが弟子を取るなんてな……随分と丸くなったもんだ」
頬を膨らますクレア……それをニヤニヤと流し目で流す男は俺に向かって衝撃の一言を放った。
「んで、これは生贄か?」
クレアの顔に青筋が数本走る。
「おい、いまなんて言った」
「へいへい、藪蛇だった様だ。すまんすまん。それで本当に弟子に取るつもりか?」
「えぇ、そのつもりよ。この子可愛いでしょ?」
「男が男を可愛がるなんてそんな趣味俺は持ち合わせていないんだが?」
やれやれと肩を振る男は俺を指差しながら呟く。
「お前、運が無いな。これだから就職出来ないんだよ」
「え、どう言う……」
「どうもこうもねーよ、お前人と何か違うとか感じたことねーか?」
俺は頭の中の記憶を探る…………んーーそんな節は無かったはず……。
「どうしてそう思うのですか?」
「あ? んなの決まってるじゃねーか。お前さ目に魔法陣が刻まれてんだよ。それも禁忌に触れる大魔術がな」
「それ以上言ったら殺す」
クレアは銃口を彼に向けた。その目は普段のそれとは全く別物だ。親の仇でも見るかの様な目つきだ。
「おい、言ってなかったのかよ姫さん。その子は特別なんだろう。生贄として使うのならば話す義理もねーが、弟子として扱うのならば話は違う……そいつの親かなにかが仕組んだにちげーねぇ」
ガチャリ……
ホルスターからもう一丁拳銃が取り出された。
デザートイーグルとはまた違う銃だ。シルバーを基調とした長身の銃身、経口はデザートイーグルよりも一回りほど大きい。
六発装填の回転式マグナムは普通の銃とは圧倒的強度が違う。
「おい、そいつを抜くって事は相当ヤベーって事なんだな」
「…………」
「だんまりか、口が硬いってのは美徳だがここではあんまりだぜ。姫さんよ」
ヘラヘラと口の減らない男は降参したのか手をヒラヒラさせこれ以上聞くのをやめた。
「この件にはお前は関わるべきじゃねーよ姫さん。それでも関わるってんなら姫さんの師匠にでも仰ぎな。封印の一つでも施してくれるさ」
「そのつもりよ……そんなことよりも早く私たちを送りなさい。このアッシーくんが」
かったるそうに、テクテクと馬車の扉を開け、ふとなにかを思い出したように男は俺にこう言った。
「死ぬときは迷惑のかからない様に死にな。それが世界のためだ」
クレアはその言葉にイラつき引き金を天に向けた何発か撃った。天地を揺るがす程の爆音が小さな渦を巻き天へと登って行った。
「行くわよ!」
若干どころがかなり苛ついてるクレアを尻目に俺はそそくさと馬車に乗り込んだ。
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