その声は

せせりもどき

  

町外れにある古びた神社

そこに設置してある、最後にいつ使われたか分からないブランコに腰掛ける

「おはよー」

そんな言葉とともに

その隣のブランコでこちらを見て微笑むのは

同じ高校に通う幼馴染


…時刻は早朝の5時過ぎ

これが俺達の最近のルーティンで

どうしてこんな事になったかと言えば

それは、とても下らない話だ

 

ーー久々に、フクロウの鳴き声を聞いた

高校で久しぶりに再会した

彼女のそんな一言が始まりだった


昼休みの教室で

購買で買ったパンを齧りながら彼女に聞く

「ラジオ体操の時とかに聞いてたやつ?」


幼馴染はそれに頷く

「そう、ホーホーホッホーって鳴くやつ」

そんな鳴きマネをしながら

嬉しそうにする彼女


楽しそうにする彼女に水を差すようで悪いとは思うが、それはフクロウでは無い

「…山鳩だぜ、その鳴き声」


彼女はそんな猛禽類の様に首を傾げる

「あれ、フクロウじゃないの?」


「…そもそもフクロウは夜行性だ」


それでも、腑に落ちない顔で俺を見て

彼女はこんな提案をしてきた


鳴いている声の主が

フクロウかどうか、探しに行こうと


…そんなことを真に受け

俺達は毎日ブランコに腰掛けている


「…どうするよ」

「鳴き声一つしないんだけど」

段々と暑くなる気温に嫌気が差して来た俺は

隣で足をぶらぶらさせている彼女に

そんなことを聞いてみる 


それを聞いた彼女は

「じゃあ、また明日かな?」

そんな言葉を呟いて笑う


その横顔に何処か既視感を覚えて

ふと、小学生の時を思い出した


ーー「俺、神社でフクロウ見たんだよ!」

「いつも声だけ聞こえてるヤツ見たんだよ」


小学四年の時に転校してきた彼女が

友達もあまり作れないまま迎えた夏休み


…そんな彼女は

ラジオ体操に来たがらなかった


そんな彼女に笑って欲しくて

少しだけ近づきたくて

彼女と同じ勘違いをしていた俺は

俺は、見る筈の無いフクロウを見たなんて

そんな嘘を付いた


そうしたら、彼女は白い頬を紅くして

目を輝かせながら言ったのだ

「私もフクロウ見てみたい!」


それから、夏休みの間

朝早く起きては鳴き声の主を探しまわり

ラジオ体操をして一緒に帰る


そんなふうにして毎日を過ごして

ラジオ体操カードをスタンプで埋めた


そんな最後の日、彼女は

いっぱいになったカードを見て

「結局、見つけられなかった…」

彼女は悲しそうに、そう呟いた


「…また今度探せばいいじゃん」

俺はなんの気無しに、そんなことを言って


朝早く起きる理由をなくした俺は

彼女の家に行く勇気がなかった


そんな表情に怯えて

それは、果たされなかった


彼女はずっと、そんな約束の中

待ちぼうけていたのだろうか?




木陰から鳥の鳴き声が聞こえ

羽ばたく音もなく一羽の白い大きな鳥が

そこから飛び出してくる


ーー なんで、こんなとこに居るんだ…?


彼女もその姿に目を見開いて驚く

「フクロウ…?」


嘘から出た真でも、なんでも

そこに確かにフクロウは居たのだ


その瞬間、俺は彼女が喜ぶと

満面の笑みを浮かべるとそう思った…


そうやって見た筈の彼女の顔は苦々しげで

「なんでホントに居るの…」


その呟きはまるで

始めから居ないと思ってたみたいで



ーーそう、だから

そんな嘘を信じたのは最初だけで

フクロウが居ないなんて知ってる


彼は毎日、見たなんて言う癖に

私が居ると見付けられないのだから

そんなのが嘘だと気がつくのは容易くて


それでも、飽きもせず

ラジオ体操より一時間も早く起きて

私を迎えに来る彼の

「おはよう」と「また明日」

そんな言葉が嬉しくて

幼稚な恋心を抱いて


だから、見つけられなかったなんて

彼と居たい私はそんな稚拙な嘘をついた


そして、高校生にもなって

居るはずのないそれをずっと探そうと

子供騙しで彼を欲した


でも、そんな言い訳は、脆く崩れて

来る筈のない終わりは、不意に訪れて

「フクロウ…居たね」

そう呟いた私に彼は少し微笑んで

「知ってるか?」

「…白いフクロウを見た二人は手を繋いで帰ると幸せになるんだと」

そう言って手を差し出す彼


躊躇いがちにその手を取って

いたずらっぽく笑う

「…そんなの知ってる」

そんな言い伝え聞いたこと無いけど

今日白いフクロウを見なければ

こんな幸せは訪れなかった


だから、それは本当なんだと思う





















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