第12話 少年の修行

午後四時頃。子どもたちが、ちらほら帰宅する影が見える時間帯。遊具がないうえに草木に囲まれているせいで人の気配が全くといっていい程にない広場。その中央で今、今年で高校二年生になる彼、横田圭佑は胃の中の物を盛大にぶちまけていた。


「うぇ… ゲホッゲホッ! ″″あぁ″〜気持ち悪

い……」

あらかた吐き終えた俺は、吐瀉物から地面を這うようにして離れると仰向けになる。


「はぁ〜 人が居なくて本当に良かった…」

としみじみと呟いた。

俺があいつ、龍崎に勝つ為に考えた方法。

それは、、、筋トレだ!

ただ、普通の筋トレではない。筋肉は回復するまで休まさないといけない。でも、俺には身体を治癒する力がある。そこで俺は、筋トレをしてボロボロになった身体に無理矢理治癒を施し、また筋トレを続けるというものだ。これならば通常よりも異常な速度で鍛える事が出来る。俺の異能は外傷だけでなく体力も回復させることが出来る為、永遠に出来ると思っていたが、人生そう上手くいかないものだ。

俺は興奮しすぎて忘れていた。俺の異能は回復の代償に精神力を使う。具体的に言うと精神力を半分ほど消費すると、車や電車に酔ったような状態になり、精神力の殆どを消費すると熱中症になったみたいになり、ふらふらして最終的に吐く。今の胃の中は空だろう、調子にのって昼食を抜かしたせいで、もうかなり限界だ。


「よっこいしょっ……!」

息が大分落ち着いてきたので、近くにあった木の枝を杖代わりにして立ち上がる。体力はまだあるのに身体を動かすのが億劫で、不思議な気持ちになりながらも端っこにある自動販売機に近づく。胃液で喉がズキズキするので何でもいいから飲みたかった。小銭を入れ選ばすに適当に押す。

容器が勢いよく落ちる音が聞こえた。すぐさま取り出しフタを開けると、思い切り容器を傾ける。喉が癒されるのが手に取るようにわかった。一気に飲み終えるとベンチに座り、近くのゴミ箱に投げ入れた。


今日俺が行なった練習はただひたすら走って体力がなくなったら回復を繰り返しただけだったが、想像以上にキツイ。体力は回復できても精神面はどうする事も出来ない。これはもう慣れるしかない。選抜試合まで残るまで

約一ヶ月、部分的に鍛えるつもりだ。試合に間に合うか、合わないかが今回の賭けだ。


家に帰るとハルが俺の姿を見て心配したが、俺は一ヶ月間学校を休むことを伝え、飢えた犬のように夕食を食べ、風呂に入った後、気絶するように眠った。


そんな生活を始め一週間、俺はただひたすら走った。毎日、朝から晩まで(昼飯はハルのお手製弁当)走り続けた。その結果、なんということでしょう! 太ももやふくらはぎは見違えるように硬く締まり、それだけでなく腹筋も割れてきた。そして異常な速度の肉体改造のせいか、身長も5cm程のびた。それに加えて以前のように吐かなくなった事から精神力も向上しているようだ。ちなみにこの一週間、異能を使い続けて一つわかった事が、この異能には身体を治癒する力の副次効果か少し″麻酔″の力もある事に気づいた。この力は案外使えるかもしれない。

明日からは上半身を集中的に鍛えようと思う。俺は自分の努力が目に見えるのがこんなに楽しいと初めて感じた。




それから二週間とちょっと、あの絶望した日から一ヶ月。




あの約束の日になった。

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