第11話 少年の希望

かん高い音のアラームを止める。体を起こすと光を取り入れようと、カーテンを開けた。

空は鉛を張ったように厚く重い垂れ下がった曇り方だった。

少しドンやりしながら階段を降り、キッチンに入る。ハルがいない、時計を見ると九時を既にまわっていた。きっと今頃、授業中だろう。テーブルの上には、ラップがかけてある朝食と書き置きがあった。

内容は温めて食べて下さい、というものだった。俺は妹の気遣いに感謝しながら、朝食を温める。頃合いを見て取り出すと

「いただきます」

と誰もいないキッチンでしかし、しっかりとした声で言った。

作られていた朝食はよくあるものだったが、一口食べるたびに、全身に血がわたっていく気がした。

朝食を食べ終え、皿を洗った俺はソファーに倒れ込むように座るとテレビをつける。

テレビでは、ちょうど健康番組が行われていた。そこでは、一人の医師と太った中年男性が喋っていた。見たかった訳ではないが、何でもいいから気を紛らわせたいと思い見ることにした。


「いや〜先生! VTRを見ていて、やはり運動

は大切なこと何ですね!」

「ええ、そうですね。高齢者の方は健康と長

寿の秘訣になり、中年の方は生活習慣病や

メタボリックシンドロームの予防、改善に

つながります。そして、若者の少年、少女

は程よい筋肉をつける事で、外傷からも病

気からも強い、丈夫な身体を作る事ができ

ます」

「いやはや先生、私も毎日ハードメニューを

こなせば、少しは改善されますかね?」

中年男性は自らの腹の肉をつまみながら言う。すると医師は男性と目を向き合わせると、しっかりとした声で言った。

「いいえ、それはあまりよくありません」

「何故ですか?」

中年男性は怪訝そうに尋ねる。

すると、医師は待っていた、と言わんばかりに話し始めた。

「筋肉というのは、運動した後に一度ボロボ

ロになります。そしてその後、筋肉たちは

同じままではダメだという信号を送り、以

前よりも少し強くして修復します。これが

筋トレをして身体能力が上昇するというこ

とです。そして、その修復には基本48時間

から72時間かかります。完全に修復が終わ

てない筋肉で無茶をすると、身体を壊す原

因になります。まぁ、、、″著しく回復能力

が高ければ″話しは変わりますがね」

と笑いながら医師は最後に付け加えた。


だがこの時俺は、医師が最後に放った言葉にまるで雷に打たれる程の衝撃を受けた。勢いのあまり思わずソファーから立ち上がってしまう。今の今までハマっていなかったパズルのピースがハマった感じがした。

この″方法″はあまりに馬鹿らしく、成功するかもわからない。賭けだ。しかし、俺にはこの″方法″が唯一残された正解だと、僅かなしかない希望を掴む鍵だと思った。

階段を走るようにのぼった俺は部屋で寝巻きを脱ぎ捨て、ジャージに着替える。僅かな小銭だけを持ち、ドアの鍵を閉めると、走った。五分ほどで着いたその場所は遊具も何もない普通の広場だ。ただし、周りが草木で囲まれているせいか、近所の人も滅多に寄り付かない。遊具はないものの、広さだけは十分と言っていい程あった。

俺は靴紐をしっかりと結び直すと″希望″を掴む為、大地に足を踏み込んだ。

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