第9話 少年と月の魔女
静かな雰囲気漂う図書室で俺たちは、顔を見合わせた。その目は黒い真珠のようで、今にも引き込むと言わんばかりの輝きを有していた。
「えっと……君は?」
「あっ! すいません、私は一組の月。
矢代月です。(やしろ るな)」
その小さな口から紡がれる声はピアノの音色のように澄んでいた。
「あの……それ…」
彼女が指差す先には俺を悩ます原因の問題があった。
「これが、どうしたんだ?」
俺はわけが分からず尋ねた。
すると、彼女は俺のシャーペンを持つとペンを走らせた。その手は止まることなく、答えを導き出した。
「この問題は最初が難しいだけで、そこさえ
分かれば、後は簡単だよ」
「!! なるほど…」
あんなに分からなかった問題がこうも簡単に解けると少し拍子抜けだ。まぁ、自分で解いてないが。
「助かったよありがとう。でも、どうして俺
が分かっていないと?」
そうだ。俺は分からないとは一言も言ってない。もしかしてそういう″異能″か?
「えっ? あんなに困ってますオーラを出した
ら誰でも分かるよ?」
単純に俺の実力不足だったらしい。そんなに顔にでるかな、俺?
「そういえば、君の名前は?」
「えっ?」
「君の名前。まだ聞いてなかったから」
そういえばそうだ。俺は少し身だしなみを整え、彼女に向き合う。
「改めて、初めまして。俺は横田圭佑。四組
だ。よろしく矢代さん」
鹿島高校は一クラス四十人の七クラスだ。
俺が右手を出すと、彼女はその白くか細い手で強く握りかえす。
「こちらこそ。ルナでいいですよ」
女子の名前呼びで少し恥ずかしくなりつつも
「わかったよルナ。俺も圭佑でいいよ」
「うん。これからよろしく圭佑くん」
彼女。ルナも気恥ずかしかったのか顔を赤らめ、はにかむような笑顔で言った。
その後、俺はルナとたわいもない会話をしている時だった。授業も残り五分をきった頃。
図書室のドアが激しく、乱雑に開かれた。吹き抜ける風が廊下から部屋に入る。
「おいおい。さっきからうるせぇーな!
おい!」
そこにいたのは、雑に染められた金髪に耳ピアス、ズボンを腰履きしている。尖ったナイフのような存在感を出している男がいた。
男は大股でこちらに近づくと、俺とルナを見下ろす。デカイ。180cmはあるだろう。
「さっきのからピーピーうるせぇんだよ。
雑魚は雑魚らしく黙れよ」
と苦々しく吐き捨てると、ルナの腕を掴み上げた。
「痛っ!」
ほぼ反射だった。俺は男の腕を掴んだ。
「″あ″ぁ? 何だよお前」
俺は内心ビビりながらも踏み留まった。
「彼女……痛がってるだろ」
「それがどうしたってんだ」
「はなせよ」
次の瞬間、右頬に激しい衝撃が走り、ぐらりと視界が回転した。
俺は自分が殴られたことを自覚するのに時間はかからなかった。俺は壁に衝突し、その衝撃でシャーペンが転がり落ちる。
「圭佑くん!!」
ルナは焦って俺の安否を確認する。
しかし、男はそのまま俺の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「雑魚が粋がってんじゃねーよ」
男は左拳を持ち上げる。俺はまた殴られると思い、目を閉じ歯をくいしばる。
しかし、思う衝撃はまだ来ない。おそるおそる目を開けると、男は何か考えているようだった。この後、男が放った言葉は俺の想像とは大きく異なった。
「おっ! そうだ。
お前、一ヶ月後にある試合で俺と闘え」
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