第5話 少年の異能

「兄さん!ご飯出来てるよ、早く食べよ!」

ハルはあの後、しばらく照れていたのだがやっと落ち着いてきたらしい。俺の手をとり引っ張ってきた。しかし俺はその時、掌に違和感があるのに気づいた。

「ハル、どうしたんだその手?」

ハルの右手の人差し指には、可愛らしい猫がプリントされた絆創膏が貼られていた。

「え〜と、今日ノートをめくる時切っちゃ

て」

紙で切ったのか…。経験がある人には分かると思う。紙で指を切るとまぁまぁ痛い。

俺はもじもじしていたハルの右手をとると怪我をしていたところに自分の手を翳した。俺がその場所に意識をやると、小さく鈍い光がハルの手を包んだ。やがて光が収まると、俺は絆創膏を割れ物を扱うがごとく丁寧に剥がした。

「よし!終わったぞ」

絆創膏があったところには、ハルの陶器のような白く綺麗な肌が広がっていた。

これが俺の″異能″だ。見た通り傷を癒す能力だ。聞くといっけんすごいと感じるかもしれないが、しかし実際はそう大したものではない。この力は俺の精神力を消費する事で触れた物(生き物)の治癒力を″活性化″させる。だから、無くなった手や足がまたはえるという事はない。骨折を治そうものなら、時間もかかる上に俺自身も気絶しかけるだろう。如何にも、モブらしい力だと俺は内心苦笑いしながら思った。

俺はハルの手を優しく離すと、ハルは右手を左手で握りしめまた顔を赤くすると

「ありがとう…兄さん!」

花をも恥じらう少女といった様子で気持ちを告げた。腰までとどきそうな白い髪が、ハルの気持ちを表すように背中にふわりと舞った。

その姿に俺はおもわず、ドキッとしたが顔にはたさないようにして「どういたしまして」とだけ伝えた。傷が治って嬉しそうな笑顔のハルに俺は、手を洗ってくる事だけを言い洗面台へ向かった。


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