最後に残された希望は……勇者の親友だった!?

もえすとろ

対勇者の切り札は親友のフクロウくん

魔王「ふははははっ!!弱いっ!脆いっ!この程度か、勇者よ!」

勇者「なんて強いんだ……」

賢者「勇者…さま」

聖女「どうか逃げて」

姫騎士「貴方さえいれば、まだ人類は」

勇者「みんな……」

魔王「他愛無いな。四天王を倒した勇者パーティーがこの程度か」

勇者「くっ……」

魔王「四天王は我が配下の中でもっとも優秀な者たちだった。それを殺したお前達を許すことはない。ここで全員殺してあいつ等の手向けにする」

勇者「お前さえいなければ、俺達は平和に暮らせていたんだ……」

魔王「ふんっ、それはこちらとて同じこと!勇者よ、お前が今まで殺してきた我が同胞は懸命に生きていた!この差別が当たり前の世界で!」

勇者「魔族は悪だ!人類の脅威でしかない!!俺の村も魔族に滅ぼされた!」

魔王「その時、お前はその場にいたのか?居たなら何故抗わなかった!」

勇者「あいつらは俺の留守中に襲ってきやがった!卑怯者が!」

魔王「ふっ、ふはははっ!」

勇者「笑うな!俺は絶対に魔族を許さない!」

魔王「これが笑わずにいられるか!まんまと同族に騙された愚か者よ!」

勇者「なに?」

魔王「騙されたのだよ、お前は。我ら魔族は人間など襲わぬ」

勇者「嘘だ!」

魔王「何故嘘だと思う?お前らを襲い我らに何の利益がある?」

勇者「利益、だと?そんなもの」

魔王「必要ない、か?そんな訳ないだろう?我らだって生きているのだ」

勇者「何を言って」

魔王「勇者よ、もっと広い視野を持てれば良かったものを」

姫騎士「勇者様!魔王の言葉に惑わされないで!」

勇者「そ、そうだ!俺はみんなの為に」

魔王「そこにいる女はお前を騙した張本人だぞ?お前の村を襲ったのはソレの配下の兵士だ」

姫騎士「嘘よ!私がそんな事するわけないじゃない!」

勇者「そ、そうだ。彼女は全てを失った俺を助けてくれて」

魔王「はぁ……ならお前の村が襲われた日をよく思い出せ」

勇者「忘れるものかっ!俺が戻った時には既に火の海だった!王国の兵士が魔族を追い払ってくれたんだ……」

姫騎士「そうよっ」

魔王「黙れ小娘っ」

姫騎士「きゃっ」

勇者「止めろ!」

魔王「勇者よ、そこに我が同胞の亡骸はあったか?」

勇者「それは……」

魔王「そこに我が同胞の亡骸はあったのか、答えよ」

勇者「な、い」

魔王「であろうな。我が同胞へ、我は忠告していた。決して勇者のいる村へ近付いてはならぬと」

勇者「なぜだ」

魔王「簡単な事、我は争いなど好かぬからよ」

勇者「魔王が、争いを、嫌うだと……?」

魔王「そうだ」

勇者「なら何故世界を支配しようとする!」

魔王「必要だからだ。我は我が同胞を守る責任がある。王として、民を守るために戦うのは当然の事だ」

勇者「そんな事っ」

魔王「信じられぬか……残念だ。勇者とはその程度の事も判断できないものか」

勇者「魔王のいう事など信じられるか!」

魔王「お前は肩書に影響されすぎだ。我は魔王だ、しかし一個人の魔族でもあるのだ」

勇者「それがどうした」

魔王「四天王の中でお前に語り掛けた者がいたであろう?」

勇者「四天王……最初のアイツか」

魔王「彼女は何と言っていた?まさか忘れたなどと言わせぬぞ」

勇者「あいつは……人類にも悪がいるって」

魔王「そうだ。お前はどうせ信じなかっただろう。我が妻の言葉を」

勇者「我が、妻……?」

魔王「そうだっ!我が最愛の妻にしてこの国の至宝だ。彼女はこの不毛な戦争を止めようとしていたのだ」

勇者「……」

魔王「妻は言っていた…勇者を説得して戦争を止めてみせる、とな」

勇者「……そんな」

魔王「だが、妻は帰らなかった。貴様に殺されたから!!それが決定打となったのだ。どちらか一方が滅びるまで終わらぬ地獄の戦争にしたのはお前だ!勇者!!」

勇者「そんな……」

魔王「勇者よ。もう我は疲れたのだ。その剣を収めて国へ帰らぬか?今の貴様なら人間の国1つくらい相手にしても生き延びる事は簡単なはずだ」

勇者「でも、俺は勇者で…勇者は魔王を倒すのが」

魔王「……仕方あるまい。この手は使いたくなかったが、アイツを連れてくるか」

勇者「あいつとは誰だ。まだ手駒を隠していたのか」

魔王「貴様が大人しく帰ってくれるなら使う必要のない手だったのだ」

勇者「なにを」

魔王「来い、フクロウ」

福郎「はい。魔王様」

勇者「なっ……何で?死んだはずじゃ……生きていたのか!?」

福郎「久しぶり、だね。勇」

勇者「なんで?何で⁉福がここにいるんだ⁉」

福郎「それはね。僕が魔族だから、だよ」

勇者「福が、まぞく?」

福郎「うん。黙っててゴメンね」

勇者「嘘だ!そんなの!だってアイツは、福はあの日死んだはず……」

福郎「あの日、僕は魔王様に助けていただいたんだ。瀕死の僕を転移魔術でここに転移させて回復魔術をかけてくれたんだ」

勇者「何で今まで出てきてくれなかった!」

魔王「当たり前だろう?敵は全人類だぞ?こいつが暗殺されないように隠匿する必要があったのだ」

勇者「福、俺の事を騙してたのか!?」

福郎「僕はね、勇が好きだったんだ。優しくて、強くて、純粋で」

勇者「でも、お前は」

福郎「そう、魔族だよ。魔王様の命令を無視しても、君と仲良くなりたかった…魔族だよ」

勇者「なんで」

福郎「簡単な事だよ。友達になりたかったからさ」

勇者「友達…そうだ、俺たちはずっと友達だ!親友のはずだ!なのに何で黙って……」

福郎「うん、ありがと。でも、言えないよ。僕は魔族なんだ。もし僕の正体がバレたら君は大変な目に遭うから」

勇者「そんな事」

福郎「ない?でもね、僕は自分のせいで君を苦しめたくはなかったんだ。結果的には苦しめる事になっちゃったけど……」

魔王「こうならないように命令を出したのだがな……」

福郎「申し訳ございません」

魔王「まぁ、よい。結果的に福郎は対勇者の切り札として協力してくれたのだからな」

勇者「福、ほんとにお前なのか?」

福郎「そうだよ。あの頃は楽しかったね。虫取りしたり魚釣りしたり、いっぱい遊んだよね」

勇者「ああ、そうだな」

魔王「勇者よ、どうする?まだ続けるか?この不毛な戦争を。もし続けるなら、こいつは我が命がけで保護する。二度と貴様とは会う事は出来ぬだろう」

勇者「人質か」

魔王「違う。保護だ。お前では福郎を守れぬ」

勇者「俺なら守れる!」

魔王「無理だ。貴様は人間を裏切れない」

勇者「俺と一緒に来いよ、福。俺がお前を守る」

魔王「ふん。福郎、自分で決めよ」

福郎「僕は……まだ一緒には行けないよ。この世界はあんまりにも過酷すぎるよ」

勇者「そんなっ!どうすれば」

魔王「勇者よ、人を見る目を養え。そして真の敵を見つけよ」

勇者「そうすれば」

魔王「ああ、福郎は安心して此処を出れる。世界を平和にしろ、勇者よ」

勇者「福になにかあれば今度は絶対にお前を殺すぞ、魔王」

魔王「ああ、死守するぞ。世界の為に、な」

勇者「今日は撤退する。また必ず戻ってくるからな!」

魔王「ああ、楽しみに待っているぞ」

福郎「またね、勇!」

勇者「ああ、絶対に迎えにくるからな」

福郎「うん!」

魔王「餞別だ!この場の者の傷を癒せ!エリアヒール」

賢者「う、ん?」

聖女「あれ?私たちは」

姫騎士「魔王、覚悟っ!!」

勇者「止めろっ!体勢を立て直す!みんな、退くぞ!」

賢者「はい」

聖女「ええ」

姫騎士「っ!」



魔王「ふぅ、やっと帰ったか」

福郎「そうですね」

魔王「もう良いな?」

福郎「ええ、良くぞ演じ切ってくれました」

魔王「はい」

福郎「魔王役、見事でした」

魔王「ありがとうございます。真王様」

福郎「止めてよ、その呼ばれ方は好きじゃないんだ。福郎って呼んでいいから」

魔王「畏れ多い」

福郎「これは命令だよ」

魔王「畏まりました。福郎様」

福郎「さて、早く戻ってこないかな、勇のやつ」

魔王「暫くは戻って来れないでしょうな」

福郎「そうだね。でも、いつか必ず戻ってきてくれると信じてるよ」

魔王「はい」

福郎「早く、世界が平和になるといいな」

魔王「わたくしも微力ながら力を尽くさせていただきます」

福郎「頼りにしてるよ、魔王さま」

魔王「はい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後に残された希望は……勇者の親友だった!? もえすとろ @moestro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ