第一話: 見知らぬ客

※ちょいとえちぃな描写あり、注意 




 むせ返る熱気は大浴場外の脱衣所にまで溢れかえっていて、もこもこと白い湯気が立ち込めている。冬の冷えた空気には、ことさら白く確認出来た。



 ぱちゃぱちゃと飛沫が跳ねるラビアン・ローズの大浴場は、今日も朝から美女たちで賑わいを見せていた。


 館の広さに見合う広い湯船に6つのシャワーが取り付けられた浴室内には、彼女たちの姦しいおしゃべりが反響している。


 美女もそうでないのも、お喋りが好きであること自体は同じなのか、その声は脱衣所にまで響いていた。


 建てられた当時のセンスを思わせる彫刻が、浴室内の雰囲気を明るくしているのだろう。


 至る所の細部に見え隠れしているそれらのインテリアが、自然と彼女たちの所作一つ一つを美しく際立たせていた。


 一歩踏み出すごとに弾む膨らみに、ふるん、と左右に振られる張り出した尻房。彼女たちの一人一人が、見事としか言えないプロポーションを持っていた。


 ……冷静に見れば、スタイル抜群の美女がただ身体を洗っているだけの光景なのだが……いや、むしろそれがいいのかもしれない。


 とはいえ、男なら人目見ておきたい光景が広がっているその世界……今の所、拝見出来る男は一人しかいなかった。





 ……お湯に濡れてよりいっそうの艶やかさを見せる白銀色の髪が、浴びせられたシャワーによってスルスルと動き回る。サララはそれら一束ずつに真剣な眼差しを向けながらも、うっとりと喜びに頬を緩めていた。


 熱いため息を吐いて、細心の注意を払いながら、サララは目を瞑っているマリーの横顔をチラリとのぞき込む……再び、熱いため息が零れる。


 余計な黒ずみが一切見当たらない、サララの滑らかな褐色肌の裸身が、跳ね返った飛沫によってうっすらと濡れ光っていた。


 ボーイッシュな顔立ちとは裏腹の、開く前の花を思わせる体型。掌にすっぽりと収まる二つの膨らみに、引き締まったくびれと、ぷりっと張り出した安産型のお尻に、張り付いた薄い恥毛。


 同世代の男が見たらしばらくはオカズに困らないであろう姿だ。しかし、サララはそれらを一切隠そうとはしなかった。


 浴室にいるのだから、ある意味当たり前のことなのだが……とにかく、サララは恥ずかしがる素振りすら見せていなかった。



「マリー、痒いところは無い?」



 半ば抱き着くようにして、眼前の華奢な背中に身を寄せる。ぷにょん、二つの桃色を押し付けられたマリーは、「――無いよ」と、目を瞑ったまま答えた。


 既に四度目となる応答ではあったが、マリーはあえて何も言わなかった。


 サララに髪を洗われるのはもはや慣れたことだし、この問答も何時ものこと。浴室用の木椅子に腰を下ろしていたマリーは、カリカリと首筋を掻いた。


 ふわっとした肌触りの柔らかいタオルが、顔全体を覆いかぶさるように宛がわれる。ぽんぽんと赤子の頬を撫でるかの如く、愛情深い手付きで顔を拭われたマリーは、大きくため息を吐いて目を開けた。


 鏡越しに映るサララと、視線が交差する。ふわりとサララの頬がわずかに赤くなる……が、それは別にのぼせたわけでもなければ、羞恥を覚えたわけでも無かった。



「いつものようにやっていい?」

「任せる」



 短い返答に、サララの顔は瞬く間に喜色に染まる。ぽんぽんと髪の水気を軽く拭われると、いそいそと脇に置いた桶から香油の入った小瓶を手に取って、たらりと掌に垂らす。


 ――途端、華やかな匂いがふわりと広がった。


 それは、そういった方面に疎いマリーですら『良い匂い』だと思うぐらいで、思わず、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。



「それ、前に言っていたやつか?」



 ピタリと、サララの動きが止まったのが分かった。振り返らずとも、気配で動揺しているのが丸わかりである。



「うん、そうだよ。マリーの髪には凄く合うし、見た目にもピッタリだから……もしかして、嫌だった? 嫌いな臭いだった?」



 ……いやいや、好きな匂いだよ。もっと正確に言えば、俺以外の美人がそういう匂いをしていたら……っていう前提だがな。


 その言葉を胸の奥で呟いたマリーは、軽く首を横に振ると、背後で膝立ちになっているサララへと振り返った。



「匂いは好きだし、痒くもならないさ。だけど、それって確かけっこういい値段するって前にサララが言っていただろ? 俺の髪は長い上に多いし、わざわざそんな糞高いやつを使うぐらいなら、前に使っていた安いやつの方がいいんじゃねえか?」



 マリーの記憶が正しければ、サララの掌サイズのそれだけでも、一般家庭の食費一か月分ぐらいの金額だったはずだ。


 いわゆる、金持ち御用達の一品。それが安売りされたという話をマリーは耳にしていないから……おそらく、定価で買ったのだろう。


 ちらりと、瓶に目をやる。薄く伸ばして使うものとはいえ、瓶の大きさから考えれば、サララのようなショートヘアで30日は何とか保たせられる量だ。


 マリーとてロングヘアーとまではいかない長さであっても、サララよりも有ると一目で分かる長さだ。どれだけ薄く延ばしても、おそらくは半分ぐらいで尽きる量だろう。



「アレはマリーの髪に合わない。終わった後、少し髪が傷んでいた……こっちならそんなことはないし、こっちにした方がいいよ」

「別に俺の髪なんてどうでも……いや、良くはねえけどさ。それよりも、それはサララが使うべきだって俺は言ってんだよ」



 どうでも、の辺りで目に見えて背後から不機嫌が伝わってきたマリーは、慌てて言い直した。とはいえ後半部分は本音であったので、結果オーライだったのだが。



「私が、使いたいから使う。ただそれだけのこと……何かいけないことなの?」

「ああ、いや、別にいけないことじゃねえけど……」

「自分に使うか、誰かに使うか。それを決めるのは私……でしょ?」

「……むむむ」



 心底不思議そうに首を傾げるサララに、マリーは諦めた。サララにとって、マリーのことにお金を使うことは、自分にお金を使うということと同意味であることを思い出したからだ。



「……高価なのは事実だ。長く使いたいから、しっかり薄めて使ってくれよ。後で洗い流すことだし、そのまま使うのは勿体無いからな」

「分かっている。ちゃんと薄めて使うから」



 言われなくてもそれぐらい理解している。少しばかり不服そうに目じりをつり上げたサララは、そう言外に告げると、軽く瓶を振る。


 ぴちゃぴちゃと黄金色の香油がサララの掌に溜まっていくのを、マリーは頬を引き攣らせながら見つめた。例えるなら、砂金を無造作に使用していくに等しい光景である。



「さ、サララ、幾なんでも一回にその量は多過ぎだと思うんだが……!」

「これは沢山付ければ付ける程効果がある。あんまり少なすぎても意味ないし、これから薄めるから大丈夫だよ」



 掌から溢れんばかりの香油を溜め終えたサララは、それを両手全体に広げ始めた。黄金色の香油が、濃厚な香りと共にサララの両手を輝かせる。


 サララの言うとおり、その黄金色の香油は、濃度が高ければ高い程効果のある代物で、本来であれば薄めずに使用するものだ。


 だが、サララの手に収められた量は、そのまま使用するにしても多すぎる量であった。


 ぱしゃぱしゃ、と足音が近づいてくる。思わずそちらへ振り返れば、どたぷんと眼前を白い塊が通り過ぎ、次いで淡い茂みに隠された亀裂が目に留まった。


 何だこれはと思ってそのまま視線を上げれば、立派な膨らみを胸に実らせているエイミーが立っていた。


 濡れた髪をオールバックにしているせいだろうか、いつもの温和な雰囲気とは違い、何とも言えない色気がある。


 そんなエイミーの右手には、今しがたサララが使った小瓶がある。神妙な面持ちで小瓶を眺めている彼女もサララと同様に、脂の乗った身体を惜しみもなく晒していた。



「……やっぱり。サララ、これって『B.E.L』じゃないの。こんな高いやつ、何時の間に用意したのよ」



 ため息と共に零れたエイミーの言葉に、我知らずと耳を澄ませていた他の女たちの動きが止まる。突然の静寂に、マリーは思わず周囲に目を向けた。


 『B.E.L』。読み方は、『べえる』。


 それは、『東京』に住まう女性たちならば知らぬ者はいないと言わしめている、老舗の高級化粧品会社である。少なくとも、この場においてその名を聞いて平然としていられる者は、いなかった。


 ちなみに、『B.E.L』という社名には深い意味はないらしい。


 創業者が旅先にて目にした御守に刻まれていた文字(曰く、現地では『祝福を知らせる鐘の音』という意味のある記号らしい)を改良して、その名にしたのだとか。



(B.E.Lって、確か高い化粧品を売っている会社だったよな……え、それってそんなに驚く値段なのか?)



 美少女が裸足で逃げ出す超美少女顔になったマリーだが、その知識は以前のと変わりない。


 会社名ぐらいは知っていても、それがどういう化粧品を売っているかまでは知らなくて当然であった。そして、知らない方が正解であった。


 もし知っていたら、何が何でもサララを止めていたところだったからだ。



「エイミーは余計な事を言わず、黙っていて欲しい」



 サララは黄金色になった両手をマリーの頭に置く。ちょっと冷たい……が、マリーはそれよりも気になることがあった。



「サララ」

「なに、マリー。やっぱり薄すぎた?」

「いや、薄くはない……だが、言っておくことがある。掌で伸ばすことを、世間一般的には薄めたとは言わねえってことを……!」



 感覚でしか分からないが、頭皮に感じていた引っかかりのようなものが解れていくような感触が伝わってくる……なるほど、高いだけのことはある。



「大丈夫。私の手に付いていた水分と、マリーの綺麗な髪の毛に残っている水分で十二分に薄まっている」

「お前、それを付ける前に軽く髪の毛拭いただろ。その時点で水分足りてねえんだよ」

「あんなの水気を取った内に入らない……何だか滑りが悪い。マリー、もう少しだけ付け足すからね」

「いや、もういいっていうか、冷てえなあ、おい! ちょっと待て、お前それ瓶から直接頭に掛けているだろ!」

「こっちの方が手っ取り早い……そうだ、このまま薄く万遍なく垂らした方が少ない量で広げられる……そっちの方が経済的だね」

「経済的だね、じゃねえよ! もろに瓶を逆さにしているじゃねえか! 鏡で全部見えてんだよ! 完全にバレているんだよ!」

「大丈夫! まだこれと同じやつが十本あるから!」

「そういうことを言ってんじゃねえよ! このアホ!」



 自信満々に胸を張るサララを、マリーは怒鳴りつけた。



「――ていうか、お前十本も買ったのかよ! 金はどうしたんだよ!?」

「ここしばらく溜めていた貯金を叩いて買っただけだから!」

「お前アホだろ! 本気でアホだろ!」



 これ以上香油を掛けられては堪らんと抵抗して離れようとするマリーと、それを上から押さえつけるサララ。


 マリーはサララを傷つけない為に魔力が使えず、サララはマリーを傷つけない為に加減して力を加える。



 しかし、自力が上なのは断然にサララだ。



 当然、マリーはサララから逃れることが出来ず、髪どころか上半身から下半身へと黄金色が伝って行くのを止められなかった。


 これを狙って、サララは今日に限って身体から先に洗ったことに、マリーは気が付いているだろうか……いや、気が付いていない。


 その証拠に、どんどん黄金色まみれになっていく身体を必死にくねらせるしか出来なかった。


 ぎゃあぎゃあと、二人の言い争いが良く室内に響く。「相変わらず仲が良いねえ」と、女たちからの暖かな笑みを向けられていることも知らず、マリーとサララはもつれる様につるりと床に倒れた。



「……ふむ、何時もの光景と少し違うと思ったが、良く見れば何時もとそう変わらぬ光景じゃな」

「――あら、イシュタリアちゃん。あなたもお風呂……てわけじゃないわね。その姿を見る限りは」



 騒動を聞きつけたのか、それともたまたまなのか、いつの間にか浴室に入ってきたイシュタリアが、二人の醜態を見て苦笑していた。


 風呂場だというのに衣服を身にまとったまま……何かしらの用があってここに来たのが一目で分かる姿であった。



「何か用かしら? マリー君とサララはまだ無理だろうけど、私ならもう出るつもりだから、手が空くわよ」



 そう言うエイミーに遅れて、『私も、もう出るわよー』と、手を挙げた二人の女性を見て、イシュタリアは首を横に振った。



「いや、そっちじゃなくてのう……そこで悶えているやつに客が来ておるのじゃ。男と女の二人組で、とりあえずはマリアとシャラが応対しておるのじゃ」

「お客? マリー君の?」



 イシュタリアが頷くと、浴室内に居る女たちの視線が、一斉にマリーへと向けられた。


 そこには、ぬめぬめとヘビのように絡み付くサララによって身動きが取れなくなっているマリーの姿があった。


 両手足どころか、股、お尻、胸、腹、脇、首筋、全身のありとあらゆる部分を使って、サララはマリーの身体に香油を擦り込んでいる。「あはははは! 待て! 待ってくれ!」と、引き攣ったマリーの笑い声が浴室内を反響していた。


 全身黄金色になった二人の傍には、ほとんど空っぽになった小瓶が転がっている。


 ……どうやら結局一本丸々使い切ったようで、二人の肌が離れるたびにぬちゃっと金色の糸が伸びていた。



「……一時間ほど後に来るよう伝えに行くかのう」

「そうした方が得策だと思うわ。多分、その頃にはサララも満足しているでしょうしね」



 呆れたようにそう結論付けたイシュタリアに、エイミーも頷いた。








 ……一時間ぐらい経ったらもう一度来るように言われた男女の二人組は、きっかり一時間後にラビアン・ローズを訪ねてきた。


 思わずマリアが「……ず、ずいぶんと、几帳面なのですね」と時計を二度見するぐらいの正確さであった。


 さすがに一度追い返した後だし、変則的とはいえ訪問の許可を出したのも、ラビアン・ローズ側だ。


 ここで、再度追い返すのは酷いというもの。とりあえずは広間(朝昼晩は食堂へと姿を変える)にて休んでもらうことにした。


 その間に慌ただしく準備を終えたマリーが駆け付けた頃には、二人組の前に出されていたお茶が半分ほど無くなっていた。


 女の方は目に見えて機嫌が悪く、男は特に気にした様子を見せていなかった。いや、むしろ申し訳なさそうに肩身を狭くしているぐらいだ。その証拠に、現れたマリーを見た途端に椅子から立ち上がって駆け寄ると、深々と頭を下げた。


 そのあまりの素早さに、思わずマリーは面食らった。



「すみません、朝の団らんを邪魔してしまって……」

「い、いや、いいんだ、別に。それより、頭を上げてくれよ」



 なおも頭を下げようとする男を、マリーは慌てて押し留めた。広間の出入り口前でふくれっ面を見せているサララには申し訳ないが、個人的にはむしろ有り難いぐらいであった。


 しかし、と目を伏せる男をそのまま椅子へと連れて行き、マリーは向かい合うよう椅子に腰を下ろす。そこまで来てもまだ、しきりに視線を彷徨わせている男を見て、マリーは首を傾げた。



「どうかしたのか?」

「え、あ、い、いえ、何でもありません……ははは、すみません、少し緊張しておりまして……」



 そう頭を下げる男であったが、それでも視線があらぬ方向へと向いている……そちらへ視線を向けたマリーは、ため息を吐いた。どうして落ち着かないのか、その理由が分かった。


 原因は、館の女たちだ。チョット目を離した隙にという言い方も何だが、広間の入口より覗いているサララの後ろから、館の女たちが興味深そうに顔を覗かせていたのだ。


 その様は、まるで好奇心に駆られた幼子。街中でも中々お目に掛かれない美人たちが、正しく幼子のように目を好奇心に輝かせながら二人の男女を見つめていた。


 しかも、覗いている美人たちは皆、匂い立つような色気を放つ年頃の女だ。


 同性なら(同性好きならば別)まだしも、男からすれば居心地が悪いどころの話ではない。マリーに対する腰の低さについて、少しばかりの下心があることを察するまでもなかった。



(ここの女たちは例外なく美人だからなあ。そりゃあ、普通の男なら緊張もするわなあ……)



 フリフリと、手を振ってくる女たちに苦笑いで手を振り返す。


 途端、隠しきれない笑みを浮かべている女たちから、うふふふ、と笑みが零れた……と、集まった人だかりが開いて、一人の女が入ってきた……エイミーだ。


 紅茶の入ったポットが一つ、カップが三つ、昨日作ったクッキーが載せられた皿が一つ。それらを乗せた盆を持ったエイミーは、にこにこと笑みを浮かべて歩み寄って来ると、そっとポットをテーブルに置いた。



「あまり畏まった物はありませんが……」



 視線を向けるとエイミーと目が合い……ぱちり、とウインクされた。「ああ、これはどうもお気遣いを……」と汗を掻く男にエイミーは微笑むと、用意を始めた。


 ……用意している間に話をしろということなのだろう。


 本来ならば自分がやることなのだろうが、この場においては有り難い。今にもセーターから零れそうな膨らみに視線を吸い寄せられている男に目をやったマリーは、こほん、と大きく咳をした。


 直後、ビクッと肩を震わせた男が、マリーへと姿勢を正した。何処となく必死な様子から色々と性格を察する……何とも現金な姿に、マリーは苦笑した。



「初めまして、俺がマリーだ。まあ、いちいち自己紹介しなくとも、最初に俺の手を握ったあたり、俺のことは既に知っているみたい――」

「一時間後に来いと言っておきながら、一時間後に来た客を待たせるなんて、どういう教育を受けたのかしら……これだから教育もまともに受けていない馬鹿は嫌いなのよ」



 マリーの言葉は、不機嫌を隠そうともしない女の愚痴によって止まった。



 ――瞬間、広間入口で様子を伺っていた女性陣の……特に、シャラの顔色が、クッと赤くなる。



 それに反するように青ざめる男の姿がなければ、血気のある女が数人ほど怒鳴り込んでくるところであった。



(……こりゃあ、また面倒なやつが来たなあ)



 手を振って彼女たちの気持ちを宥めたマリーは、ジロリと女を見つめた。



「初対面の相手に、ずいぶんとお高く留まった物の言い方だな」

「あら、ごめんなさい」



 と言った女であったが、その目は全く女たちを見ていなかった。



「ちょっと独り言を呟く癖があるの。別に、あなた達を差したわけじゃないわ」

「……なるほど、独り言なら仕方ない」



 こぽこぽ、と注いでいた紅茶の滝が止まる。静かに頭を下げて入口へと戻っていくエイミーの後ろ姿を見送ったマリーは、チラリと視線を戻した。



「それで、いいかげん俺はお前たちの名前を聞きたいんだが、そろそろ自己紹介をしてもらえないかい?」



 苦笑交じりのその言葉に反応したのは、やはり男の方であった。



「あ……す、すみません。私の名は不二等々力ふじ・とどろき。彼女はメイシャ・デュン……あ、とりあえずこれを見ていただけたら……」



 等々力と名乗った男は今思い出したかのように懐から一枚の名刺を取り出して、マリーへと差し出した。


 首を傾げながらも受け取ったマリーは、そこに書かれている文面に目を通した瞬間……驚きに目を見開いた。



 差し出された名刺には、『東京』に住む者なら誰しもが知っている、名門中の名門学校『ユーヴァルダン学園』の校章が描かれていたからであった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る