守り神様のお仕事

ハチの酢

守り神様

 どうもこんにちは。フクロウとして活動しているホホロと申します。今はこの町の守り神として活動させてもらってます。

 私は夜行性なので、普段人間たちが働いている間はこの街の一番高い神社から見守っています。私たち神がいるようにこの世界には悪魔のような悪者もいるわけで、ごく稀にこの街にもその魔の手が伸びてくることがあります。そういう時が私の出番です。

 日が沈む少し前、パトロール中だったスズメのチュンが慌ただしく飛んで帰ってきました。


「久しぶりのお仕事で、ヘブッ」


 あら、止まりきれなかったのかしら。木に頭刺さってるわね。ジタバタしたかと思うとすぽっと頭を抜き、チュンが言う。


「南の小学校に敵が現れました!」


 さあ、今回はどんな輩がきたのでしょう。

 チュンが言っていた小学校に向かいます。学校が見えてくると屋上に何やら黒いものがいるじゃありませんか。あれはカラス?


「この街におれが災いをもたらす。そこから我々の世界征服が始まるんだ」


 随分と壮大なことを考えてますねえ。頭の中はお花畑なんでしょうか。彼の目の前に私は降り立ちます。


「なんだ貴様は、どこのどいつだ」

「私はこの街の守り神のホホロです。よろしければお帰りいただきたいのですが」

「何を言ってるんだ。そんなことするはずないだろう」


 彼は私にキッと目を向ける。ざわざわと空気が音を奏でている。私を敵と認識したようですねえ。


「この俺、ヤトが貴様の命を刈り取ってやる」

「自分の名前を教えてくれるなんていい人ですね」


 バカなのかしら、名乗っても意味ないのに。


「言ってろ。すぐに地獄を見るぞ」


 カラスの体が人の形に変わっていく。

 暗黒に染まった翼を生やし、鋭い爪がめりめりと体から生え始める。尖ったくちばしが黒く輝き、より一層凶器として洗練されたように感じる。彼の目の前に紫のオーラに包まれた鎌が空からゆっくりと降りてくる。


「彼も同じ類の者でしたか。私も一肌脱ぎましょう」


 全身を光が包み、眩く光る白いアーマーで包まれ、小さい女の子の体へと変貌した。彼女が空に手をかざすとホホロの体ほどもある盾が彼女の手に向けて飛んでくる。


「お?お仲間じゃないか。まあ、どうでもいいがな!」


 ヤトが勢いよく突っ込んでくる。彼の鎌が大きな弧を描き、私の命を刈り取ろうと迫ってくる。


 ガイイイイイイイイン


 大きな音を立て、彼の鎌を弾き返す。すぐさま彼は次の攻撃に移る。鎌だけでなく爪や足も織り交ぜながら次々と攻撃が繰り出される。次々と繰り出す連撃を盾で確実に防いでいく。


「おいおい!防ぐだけかよ!それじゃあ負けちまうぞ!ほらほらほらほら!」


 私は彼の動きを的確に予測して攻撃の芽を摘む。彼は徐々に苛立ち始める。


「めんどくせえな。"嘆きの雨"」


 ヤトは大きく距離を取り、空高く飛び上がる。彼の翼がバサッと開くと羽一つ一つが鋭い矢に変化していく。空を埋め尽くすほどの矢が私のもとに降り注ぐ。


「死ねやああああああっ!」

「"ジェアンテシールド"っ!」


 巨大化した盾が私の頭上を覆い尽くし、矢の雨を防ぐ。カカカカカカカと音が鳴る。矢の重みが盾を通して伝わってくる。ふと目線をあげるとヤトの鎌が盾と地面の間を這って私の腹部を狙う。間一髪のところで後ろに飛び退き、私はかわす。


「おお、危ない。遅かったらやられてましたね」

「まあいい、"闇夜"」


 辺り一帯が暗闇に包まれる。ヤトの声だけが私の耳に響く。


「さあ、死んでいいぞ」


 気配を感じ、とっさに飛び退くと鎌が空を切る。私は止まらずに避け続ける。次々と鎌が飛んでくる。いくつあるのかわからない。こんなの体力がいくらあってもいつかやられてしまう。


「流石にやばいかもしれないですね。"黒眼"」


 体が黒に染まっていく。視界は良好。ヤトがどこにいるかも見える。ヤトに向かって盾を構え、突っ込む。彼は驚いて空中に飛び上がる。


「私には暗闇が見えますから、効かないですよ」

「くそっくそっくそっくそっ!」


 そう叫ぶとヤトは急に距離を詰め、また鎌で私の命を狙う。単調な攻撃ほど読みやすいものはない。


「大したことないですね」


 単調な攻撃を続けるヤトの動きに疲労が見え始める。集中力に欠ける動きが目立ち始めた。そろそろ頃合いのようです。私は盾を捨て、腰から下げる短剣を手に持って構える。


「そんな武器で勝てるのかあ?」

「だから構えてるんですよ」


 苛立ちがヤトの顔ににじみ出ている。ヤトがわたしの首元めがけて鎌を切り裂く。手元は鈍っており、簡単に短剣で弾けた。鎌が空中に放られる。ギュンッとヤトに詰め寄り首元をお返しとばかりに切りつける。


「瞬斬」


 彼の首から滝のように血が流れる。ヤトは心臓の鼓動を止めたようだ。どさりと音を立てその場に倒れる。


「ほら勝ったじゃないですか」


 地面に転がる顔は驚きの表情に満ちていました。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれから二ヶ月が経ち、平和な日々が続いています。この街をわざわざ狙うこともないでしょうし、今日はゆっくり寝るとします。うとうとしていると、チュンが猛スピードで隣の木にぶつかりました。私は驚きのあまり目を見開きます。チュンがよろよろと私の前にやってきました。


「また、変なやつ来ましたよぉ」

「わかったから休んでなさいな」


 さあ、一仕事しましょうか。

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守り神様のお仕事 ハチの酢 @kasumiito

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