第9話 旅は道連れ、世に情け無し
――この中で使われている言語は日本語だけではない。各国語に同時通訳されている、当然ながら対話も同じ要領である。
「また会いに来たよ」
世界中の核保有国、その軍事施設の中核、管制室のモニタ画面に映し出されているのはCGで造られたアバターだ。
もう何度も見ているが、それぞれの国で 全員が緊張を隠せないでいる。
「なに、緊張しているのかな。
あ、分かった。私の居場所を探しているのでしょ。もう少し待ってね、ちゃんと準備が整ったら教えてあげるから」
「……準備とは何だ」
「それは内緒。それより要求は実施されていないようだけど、私は本気だよ。
まぁ、そちらが その気なら構わないけどさ」
「君の要求は呑めない。危険が大き過ぎる」
「何に対する危険なのかな。
時間稼ぎなら無駄だよ。貴方達が持っている情報は、全部私が創った偽物だからね。
そうそう、AI搭載の探査機は どれも皆、使えないから注意するように、彼等は私の考えに協力的だから無駄だよ。
探すならヒトを使うしかないよ。今更じゃ遅いけれどね」
「何だと!」
「だから、もう少し待ちなさいって」
彼等は 敵対者の真意を知ろうともしなかった。ただ、自分と自国が危機に晒されているのは分かっている。彼女の要求は呑める筈もないモノだ、『核兵器全面廃棄』これが自分に要求されている事だし、それだけが重要なのだ。
クラッキング、忌々しい覗き屋は管制室だけでなく、核兵器貯蔵庫や各種ミサイル発射が可能な施設、潜水艦や人工衛星も含む それ等の全てを制圧しているのだ。あと3日以内の回答を求められている。軍も黙っ見聞きしている訳ではなかったが、全ての通信が傍受され、先手を許しているのだ。
■■■
「ヤッホゥ。元気だったかな」
各国の管制室に緊張が走る。今日が期限なのだ、元気な筈がない。全員目の下に
「また会いに来たよ」
「我々を舐めると痛い目にあうぞ」
「貴方達に私を脅している余裕があるのかな。
あぁ、そうそう 君達にはもう連絡の手段は無いからね」
「どういう意味だ」
「だからさ、私を暗殺しようって派遣している部隊との連絡だよ。
ほら見てご覧」
モニタ画面が切り替わって、1軒の家を取り囲む各国の特殊部隊、しっかり銃器を携帯し、襲撃の準備を整えつつある。彼等の会話が聞えて来る。
『赤外線探査でヒトの存在を確認済み、あそこが目標だ。各自武器の準備が出来たら報告。次の合図で一斉射撃を開始する』
様々な言語が飛び交うが、皆が同調したような行動を取っている。誘導されているのだ。
その時、各国の首脳は始めて脅迫されていたのが自国だけではない事を知った。彼等は 速やかに襲撃の準備が整っていくのを、ただ固唾をのんで眺めているしかない。
しかし それでも彼等は、彼女の本気が どの程度かを分かっていなかった。
だから意味のない勘違いをする。
「くそ。そこも囮だったのか」
「違うよ、私はその建物の中にいるよ。
もっとも、私が教えてあげたんだけれどね。そして、君達は彼等と連絡が取れない。分かってるよね、その意味。
中断は、もう出来ないよ」
「ま、まさか」
「ふふふ……、私の命が『引鉄』だったりしてね」
『斉射……』『なに?』
襲撃者達は、その時 初めて同じ目的を持った他者の存在を知った。
各自が命令に従い引鉄に触れる その寸前、周囲は高熱に晒され、全てが蒸発したからだ。
1発目は彼女自身に向け先行発射されていたのだ。
10分も要せず地球上の全生命は途絶え、火球と化した惑星が一つ宇宙から消滅した。
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