第7話 そして、誰もいなくなった(改1)
慣れた事だから その施設に入ると、手探りで明かりを点けて全装置の作動スイッチを入れる。それは ほとんど無意識の作業に近い。
僅かながら待機時間があるので、先に消耗品のチェックを始めた。
いつも通り上役からの指示で、当社地下8階の下、重装備シェルタの備蓄品チェック及び交換と、各種設備のメンテナンシを行っている。ここは(前世紀に製作された、かどうかは知らないが)、それこそ核戦争を想定した施設のようにさえ見える、実際は どうだか分からないが。
毎年3月の中頃に指示が来て、いつも私が行っている、いわば年中行事のようなものだ。実際はアルバイト時代からだから、かなりの年数になる。
この作業は、本来なら全社員で持ち回りになって当然だと思うのだが、他の社員、私に指示を出した次長ですら、この施設の存在は知らないようだ。もしかしたら社長も知らない可能性がある。
この会社を設立し、この建物を造ったのは全て外国資本である。それが日本から撤退して現在に至っている。私がこの作業を請け負った時点では、まだ外国人がトップ12役職の全てを占めていた。それから以来だから、今のトップは ここの存在すら知らない可能性が高い。以前から続いていた作業だから、そのまま継続しているだけ、という事だろう。
もちろん この作業を請け負った時、しっかり口止めされているから、こちらからバラす積もりは全くないが。しかし、単に「上からの指示だから、宜しく頼む。詳細は知ってるよね」は無責任ではないだろうか。
まぁ、良いか。ここで交換した旧備蓄品は私が貰って良い事になっている。食料、もちろん保存食だが当然 全部交換するし、水も、この施設の地下にある巨大なタンクを
先に起動していた設備、自家発電装置のチェックと作動確認、問題無し。閉塞感を解消する装置関係の、空気清浄装置などのチェックと画像、本当に良く出来た映像で、実際に手で
これらのチェックリストは、作業を請け負った時に私が作成して承認を貰っているモノだ、十分承知している。
さて、最後は この施設を使用する際に最も大切な、頭脳とも言える管理用アンドロイドの作動確認だ。これには自動補修装置が組み込まれているからメンテナンスフリーなのだが、それは起動していてこそなのだ。待機状態では それは使えない。
明かりを点けて最初にした作業が、これの起動スイッチを入れる事なのだ。何故なら一番起動に時間が掛かるからだ。
さて、動作確認だが、これには細心の注意が必要だ。私の電子機器に対する知識は最新だし、この会社に在籍する誰よりも豊富だ。それに相応しい高度な技能も持っていると自認している。
そう、これこそが 私がこの役割を担当させられた理由に違いないからだ。
アンドロイドは未だ起動を完了していない。
現在、この施設の付属居住施設12棟の内10棟には交換済みの旧備蓄品が山積みされて置かれている。10年分のものだ。1番古い備品を明日から ゆっくり自宅に持ち帰る事になる。1年分の12分の1である、これ1パックで1年分の生活に必要な物は賄える、いや昨年のモノがまだ 大分残っているのだが。欧米人は
アンドロイドの起動音を確認して、新たに追加されて旧備品が置かれた居住区から出ながら アンドロイドに声を掛ける。
「ヤッホー、また会いに来たよ」
その時、数回の大きな打撃音と振動が起こって、積み上げられていた備品が私に崩れ落ちて来たように感じた。
私はそのまま気を失った。
■■■
気付くと医療用ベッドに寝かされていた。
「マスタ、気分はどうかな」
問い掛けて来たのは聞き覚えのある声だ。その台詞を聞いて青褪める。「ヤバい」これは大変な事になった。下手をしたら、じゃなく確実に
アンドロイドやロボットのメンテナンスを行うとき、特に ここにあるように所有者登録をしていない場合は、登録しない事を明言しないと勝手に
それは本人達(アンドロイドやロボット)からすると当然の事で、為すべき行動を命令する者を欲するからだ。
特に賢い
「……タ、……スタ、マスタ、聞こえてるかい」
「あ、うん。聞こえてる。分かってるよ、困った事になったね。どうしようか」
アンドロイドが困惑した表示を見せる。本当に良く出来ている、ヒトよりヒトらしいとは、よく言ったものだ。
「私は まだ何の説明も行っていないんだが、何が分かったんだ。まずは、今の状況を説明したいんだが、良いか」
「そうだったね……。じゃ、どうぞ」
「この施設は閉鎖され、外と隔離された」
「……え」
「この儘じゃ外と連絡が取れない。『ÅⅠ同士の対話』を認可して欲しい。外の様子が分からないから対処出来ない」
「そうだね、分かった『ÅⅠ間対話を認可する』これで良いかな」
「じゃ、少し眠ると良い」
私はそのまま眠った。
再び目覚めたのは、どの位の時が経ってからだろうか。
私が説明を求めると、もう纏めていたのか いともあっさり、とんでもない事を語り始めた。
まず、私は荷物に ぶつかって気絶したのでなく、病気による発熱で
私が罹患したのはキメラ・インフルエンザの変異種1から3番だという。季節外れも良いところだが、何でもC型ウィルスが人工的に改変されÅ及びB型の因子が追加されているようで、異常に高い増殖、感染力と変異頻度を持ち、更に多重感染する厄介なモノで、人工衛星からカプセルのになった物が撒き散らされ空中で飛散、世界的に大流行しているそうだ。私が患ったのは初期型ウィルスだけだったので、即刻 対処出来たのだが、変異種には現在判明している『大変異種』だけでも24あるらしい。モノによっては1種だけでも十分大きな致死性があるほどの危険性を持つという。
彼、アンドロイドが世界中のÅⅠに照会して確認した事は、そのウィルスを ばら撒いていた人工衛星はUSAのミサイルで撃墜されたようだが、変異を促進させていたのは別の人工衛星だったようで、それは その次の日に地上へ落下して大被害をもたらした。
落ちた先がUSAの、当該ウィルス対策研究所だったのは、とても偶然とは思えない。以前に撃墜した衛星は日本の研究所を狙っていた可能性もあるという。日本でも同じく そのウィルス対策を研究していたからだ。
現在、患者数はスペースコロニの住人を含め、全人口の99パーセント。その殆どが複合感染者で、その被害は150億人以上の死亡者を出して、未だ沈静化していない。
「まるで『バイオハザード』だね。まさかゾンビなんて出て来ないわよね」
「それはないね。死体の処理はロボットが担当してるから全て確認してるが、今のところ そんな兆候はないよ」
「それで、何時になったら私は このケースから出られるのかしら」
そうなのだ。私は医療用治療ケースに入れられている。外に出たらインフルエンザに、以前に
「当分ダメだよ。病気は完治してるけど、外に出ると、例えこの施設内でもウィルスが存在する可能性がある。第一、君は体力が落ちてるから動ける状態じゃない」
「え、そうなの」
そう言えば、怠いし ひどく眠い。
「眠ると良い」
何かが治療ケース内の空気に混入して来る、睡眠促進剤だろう。そうだ これだけは依頼しておかなければならない。
何とか睡魔に抗いながら言葉にする。
「ヒト……を、……助け……て……お……願い……ね」
■■■
次に目覚めた時、そこは病室だった。何せ6箇月ほども医療用治療ケースの中で眠っていたのだ、筋力なんて『ガタ落ち』であった。
あれから毎日欠かさず通っている『リハビリテーション室』から、さっき戻って来たところだ。
何とか歩けるようになったが、そこを担当していた治療師も看護師や医師さえも 皆アンドロイドだった。
日本以外では あり得ない話だが、他国はAIが本気で人間を支配すると思っているのだろうか。
まぁ、可能性はゼロではないが、今のところ大丈夫だと思って間違いない。
同様なリハビリを受けているいる患者が十数人いる。最初は自身の事が手一杯で分からなかったが、観察するだけの余裕が出来ると、判別するのは私には そう難しいものではない。彼等は私を気遣って、ヒューマノイド型アンドロイドが患者の振りをしている事が分かって来た。人間が私だけなのでそういう処置をしたのだろう。
こちらとしては、知らない振りをする事で その心遣いに答えるべきだと思っている。
この様子では 人間の残存数は、かなり少ないと見て良い。
「また会いに来たよ」
毎日やって来る、このアンドロイドは 世界中の生存者を把握している筈である。
きっと今日こそ、全てを話してくれそうだ。
「ねぇ。人間は現在、いったい何人生き残っているのかな」
「そうだね、私が把握している範囲では……」
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