第4話 婚約破棄の後は楽しく


 一方的な婚約破棄。

 そんな事が罷り通るとは、丁度3箇月前までは思いもしなかった。自分が当事者になって思う事は、これは計画的に成された陰謀だという事だ。

 一切の反論が封じられ、断罪されて国外に放擲された、事になっているが実際は学校間での移動となっている。

 家族との連絡は取れないが、流石に そこまでは望めない。しかし こちらからは発信出来ないが、親からは連絡が来る。検閲をパスするため、回りくどい言葉や 一見何を言っているのか判別できないような符丁を使っている。


 家族も これが尋常ではない事を感じ取っていて、こちらに移住する積りらしい。あの国は、きっと亡びるだろう。法治国家ではなくなったのだから。

 王政だと言っても、全てが王の一存で決まる訳ではない。憲法もあるし、細かい法律もある。それ等の全てが あの件は法律違反だと、誰が見ても分かる事なのだ。


 ■■■


 「また会いに来たよ」

 この国の王太子で、私の新たな婚約者である。

 「何気に 毎日会っていますが」

 素っ気なく返す。先般の件があって、ちょっと男性不信になっている私は、まだ誰とも お付き合いしたくない。


 「君の家族と親族や縁者全員が 昨日、無事に この東大陸に到着したそうだよ」

 「えっ? そんな遠い場所の事を どうやって知ったのですか」

 「あぁ、南大陸第1本校に座席しているソーン侯爵令嬢が『通話器』を発明したんだが、これが とても便利でね。時間経過を要しない通信方法とは良いものだ」

 「南大陸で ですか……」

 それを取り寄せて、採用する度量を持っていると言う事だ、この国の指導者層は。あの国では、まず あり得ない事だ。


 家族と再会したのは それから2箇月近く経ってからだった。通信手段は早くなったが、移動手段は相変わらずだったからである。

 どうせなら そちらも一緒に対策して欲しかったものだ。


 「元気そうで何よりだ」

 お父様が発した 別れてから後、最初に聞いた肉声である。『通話器』を通しては何度か聞かせて貰っていたが、やはり本人と話す方が良い。涙腺が緩み、鼻の奥が熱くなって来た。

 「で、そちらの方は?」


 「あっ、こちらは この国の王太子殿下で……」

 「タロウ・ロウ・ホウデニスと申します。ご令嬢の婚約者第1候補でもあります」

 な、何て事を。

 「……婚約者」お父様が固まってしまった。


 あの国では内乱が勃発したらしい。

 国王が崩御(暗殺された疑いもある)され、後を継いだのが あの男である。彼に政治的能力が乏しい事は私が一番良く知っている。

 新たな婚約者、今は王妃となったようだが、彼は王妃の望みを叶えるために法律を無視したり、突然の増税や忠言した政治家への追放処分等々……、失策を続け様に行った。そして愚王による国家運営の付けは国民に被さって来た。

 第2王子が旗頭となり 反乱を起こしたらしい。国民の支持は彼にあるようだ。出来れば良い国にして欲しいものだ。


 あぁ、また気持ちが逃げようとしている。全く無関係な、それこそ別の大陸で起きた、それも小さな王国での内乱など、気に病む必要もないのに。

 私は結局、この国の王太子と婚約する事になった。前例があるので、他に候補が存在しないか調べたが、誰もいない。

 普通なら考えられない事だ。仮にも王族、しかも次期国王間違いなしの中々良い男で、武に長け頭脳も明晰で、政治的手腕も文句なしである。

 現国王は良い政治家だ。彼を自由にさせ、武術、座学と人間観察を学ばせている。

 彼の取巻き連中は、次期宰相や財務官、執政官に武官などを実力で狙える逸物ばかりである。この国は、彼の治世になれば、今より一層発展するだろう。

 私は来年の10月に『東域アザストフィア汎国家総合教育学校・東大陸第2本校・高等部』を卒業する予定だ。彼は同校の大学部に在籍しているが、いつでも卒業可能な状態だという。私を待っている、らしい。

 今思うと、あの時 彼が父に自己紹介した時点で婚約は内定してしたのだろう。正式な婚約も済み、この儘だと卒業と同時に婚姻となるに違いない。


 「この人が俺の婚約者だ。誰にも文句は言わせん」

 「誰も そんな事言いませんよ。学識、教養も十分だし、良い性格をしている」

 「確かにね。王太子の婚約者じゃなく、自身の婚約者だと言い切れるほどの猛者だから」


 何とでも言え。

 彼の取巻き連中も、私の事を認めてくれている。この儘 何事なく済むのであれば、別に王太子妃になる事を拒む積りはない。後に この国の王妃になる事も良いだろう。

 私が彼に望むのは、良い夫であり、良い父親になる事だ。ついでに良い国王になってくれても、何の問題もないけれど。


 なのに、あぁそれなのに、それなのに、何故に貴方は私をまつりごとに引き込もうとするの。

 まぁ 王家直轄地への視察に同行するのは、婚姻前でも良いとしましよう。でも有力貴族との会談に、国王と共に2人が同席するのは如何なモノだろうか。その上、何でも彼でも私に相談するのは止めてほしい。それって国家機密じゃないの、良いのかな 私はまだ、ただの婚約者なんだよ。


 何でこんな事になったのだろう。王様が引退してしまって、彼が国王になった。じゃ、私って最初から王妃になるの。

 お父様は、この国では子爵(あの国では侯爵だった)となって、小さな領地を良く治めている。そして彼が王位に就くと、私に一切関わって来なくなった。確かにそれは正しい事だけれど、少し寂しい。


 何て事を、国王で夫の の人は何て事をするのだろう。女性では初めての宰相に祭り上げられてしまった。

 ちょっと、そこの取巻き・その1さん、貴方が宰相になる筈だったのではありませんか。何故 幹事長で我慢しているのですか。他の方々も何か言って下さいな。

 私が産休に入ったら、彼が幹事長と宰相を兼務する事になった、ザマア見ろだ。

 生まれたの双子、二卵性だったようで男の子と女の子だ。

 まぁ まぁ、元国王と元王妃様、お父様と お母様、毎日のように見舞いに来てくれているけれど、1日中赤ん坊を見ている。おい。


 大人しい男の子と お転婆な女の子、もう少しで1歳になる。お爺様と お婆様が2セットで、猫可愛がり。

 まぁ良いかと、夫と2人で相談した。いや、これは密談である。息子が18歳になったなら、私達は引退しよう。そして今の爺婆じじばばと同じように、のんびり余生を過ごそうよ。


 予定より少しばかり早いが、良い機会が訪れた。娘は既に嫁ぎ、息子は良い伴侶の見付けたようだ。

 「私達は引退しますので、後は宜しく」


 皆は大慌てだが、もう発表した以上 変更は出来ない。それこそ法律で決まっている『引退は現国王が決定権を持つ』ってね。

 問題など起ころう筈もない。必要とあらば未だに健在な、爺様と婆様の2セットが、きっと助けてくれるだろう。

 彼等は孫に甘々だからね。


 うーん、自由とは良いものだね。

 第2の人生と言うにはかなり早いが、それを彼と共に楽しもう。


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