第12.5話

「ねぇ、あの子、お父さんいないんでしょう?」

「そうそう、可哀想よね。」

聞こえてくるその声をシャットアウトして、今日も走り気味に家を出る。

「すぅ!」

後ろから聞こえる声が誰かわかると、外面を解除して。死んだ目で言う。

「…おはよう、社。」

「みーくんでいーのにー。」

社 美兎(やしろ みと)。小三。私より年上なのがむかつく。

男にしてはいささか可愛すぎる名前は、流産した美兎の姉に付けられるはずだったものだ。その理由を知っても名前で呼ばれたいと思う神経がすごい。

私だったら、お姉ちゃんの名前なんか使いたくない。美兎はえらいな。事実を受け止めることができるんだから。

「すぅ?どうかした?」

まぁ、絶対言わないけどね。

「…なんでもない」

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