幸福のフクロウ

@ameno9

キュルキュルキュル

吾輩はフクロウである、愛称はフクちゃん。

このペットショップに初めてニューカされたフクロウである。

「フクちゃんご飯だよー!」

ご飯の皿を持ってやってきたスタッフという名の人間のメスはここに来て半年は経ったと思うが毎日吾輩の世話を焼く。

「今日はヒヨコだよー」

むむ、吾輩の好物ではないか!

翼を広げて待てば直ぐにスタッフはご飯を口元まで運んだ。

「落としたよーふふっかわいい!」

む!不覚!

汚れた口元を拭い甲斐甲斐しく世話をするのだこのメスは。

ニコニコ毎日飽きずに来る日も来る日も世話をする。腹一杯まで食って、寝て、起きたらまた世話をされる。ダメ男製造機だなこのメスは。だがそこがいい!

吾輩はこの生活にとても満足している。

腹がいっぱいになったから羽を整える為にグルグル頭を動かす。


「ねぇ、また餌しかあげてないよ」

「もう、今月売上やばいんだから接客して何か売ってよ」

「それは無理でしょー!入ってきて長いのに何も売れてないのよー!」

「てか、接客しても何も売れてないから雑用してんでしょ?両方出来るように努力しなよね!」


ふぅ、メスというのは人間でもお喋りらしいな。ピーチクパーチク何を言ってるのかわからん。

吾輩は人間共の事はよくわからん。

だが、スタッフの体が跳ねたのも顔が強張ってるのもあのメス共のせいだという事はわかる。

「私ね、お話苦手なの。頑張っても全然決まらないの、だからお世話頑張るしかないの。でもそれだけじゃ駄目なのに・・」

人間は不思議だな、秀でたものが一つあるだけじゃ足りないなんて。

欲張りだ。実に欲張りだ。



「はいご飯だよ、ネズミ」

今日はスタッフじゃないのか、好物でもないぞ。

「・・・・・ホー」

「食べないなぁ、なんでも食べると思ってた」

あの子何あげてたっけ?と小さく呟くメスに疑問しか湧かなかった。

何を今まで見てたのだ、お喋りしかしてなかったのか!

「ホー」

「怒ってるの?ごめんってば。あーあーやだもー、店長にもフクロウにも怒られるなんて」

目を潤ませて俯くメスにまた疑問が湧いた。何だ、いつもスタッフを見て笑ってたではないか、なのに今はちっとも笑ってないぞ。

「売上が悪くてずっと怒られてるの、ずっと接客してるのに、何も売れない・・あの子も自分の出来る事頑張ってるのに当たっちゃうし、ホントサイテーよね私」

泣いてる様な笑ってる様な変な顔だ。やはり人間はわからない。

「貴方が決まれば超凄いのにね。でもそうしたらあの子が寂しくなるね・・」

まったくわからん。人間とは何故こんなにもややこしいのか。直接言えば良いものを言えなかったり、悪く言ったり。

正直に生きればそんな事思わんだろうになぁ。



「フクロウ探しに来たんですけどいいですか?」

「は、はい!少々お待ちください!」

ニコリともしない人間のメスだな。

吾輩に会いに来たというのに嬉しそうではない。話し掛けられたスタッフはばたばた忙しない。除菌スプレー何処だ、椅子に案内しなきゃ。いつものスタッフではない。早くしないか、まったく。

「・・・・」

すごく見てくるぞ、獲物でも見るかの様な目付きだ。・・・怖くなどない。

「お、お待たせしました・・」

吾輩をメスの前に出す。メスは吾輩に手を伸ばすがそこは好かんぞ、顔周りは好かん。

「あ、待って!この子羽の下とか好きで!」

「・・・そうなんですか」

失礼をしてしまった、しまったと顔を青くするスタッフを余所にメスは羽の下を触ってくる。うむ、苦しゅうないぞ。

気持ちの良さに目を細める。ふとメスを見上げるとふんわりと笑っていた。

「かわいい・・」

「ですよね!この子、本当に可愛くていい子で!!」

「どんな子なの?」

「えーとですね!この子ヒヨコ好きで!あ、グルグルよく頭動かしてて、えっと」

噛みながらも吾輩のアピールポイントを一つずつ話をしていくスタッフ。それを見てまたメスは笑った。

「本当にこの子が好きなんですね」

何を言ってるのかこのメスは。

「はい!好きです!」|

相思相愛の番だぞ、吾輩がそう決めたのだからな!

そこからはいつも通りのスタッフがいた。吾輩の好物。好きな玩具。世話の仕方。

おいおい、すぐ口元を汚すとか、そう言う話はよさないか。

スタッフとメスはとても楽しそうに笑っていた。そして、メスは真っ直ぐな目でスタッフを見つめる。

「この子を貰ってもいいかな?」

「・・え」

何だと・・?スタッフ、おい、スタッフ。

何か言わないか!吾輩が決まりそうというやつなのだろう!吾輩がこのメスに求められているのだろう!?何故動かん、スタッフ!!

スタッフは困惑、歓喜、寂しさいろんなものがごっちゃになった様な顔をして、答えが出せていない。周りにいるここのメス共も見ている。焦りが見て取れる、早く返事をしろと焦っている。

一人で答えが出せぬのか?答えはとっくに出てるだろうに。

吾輩は翼を広げ力を込めた。

目の前にいるメスの腕に飛び移ったのだ。

いきなり飛ぶとは思わなかったのか皆驚いている。

「人、懐こいのね」

驚きながらも吾輩を撫でるとは肝の座ったメスだ。

さぁ嫁よ、言う言葉は一つしかあるまい

「ありがとう、ございます。この子をよろしくお願いします!」


「やった!やったよ!」

「今月の売上達成!」

「あの子凄いよ!フクロウ決めちゃったよ!」


凄いと褒められ、尊敬の眼差しを向けられ驚く嫁のなんと愛おしいことか。

吾輩が旅立つのをかなしいと目を潤ませる嫁に罪悪感でいっぱいではある。

だがな、お前の憂いや悲しみは吾輩でしか消せないと思ったのだ。

この店でお前の立場を良くするには、お前がこの店で幸せになるには、こうするのが一番だった。

お蔭でステキなプレゼント《栄誉》をやれた。

悔いはない。最初で最期の求愛行動だった。



鳥かごの中で揺れながらメスと店を出る。

日が眩しい、だが気分は最高だった。

「ねぇ、本当にあの人が好きだったのね」

当たり前だ、心から好いていたのだ。

「ふふ、私貴方に出会えて幸せよ」

くすくす笑いながら足を進める。

「そうだ!貴方の名前決めたわ!」


「福ちゃんよ!幸福の福ちゃん!」

・・・ネーミングセンスあるじゃないか。

首をぐるりと回した。




吾輩はフクロウである。

名前は幸福の福ちゃんである!!

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