森の物知り博士の憂鬱

光蜥蜴

カフェ「ibis」の1日

近年、猫カフェ・カワウソカフェ等「癒し系動物カフェ」は増えている事は、皆様ご存知だと思われます。


その中に「ふくろうカフェ」というものもある事をご存知だろうか??


そんな、ありふれた癒し系動物カフェの、とある1日の物語・・・。




「可愛い~」

「癒される~」

「思ったよりちょっと怖いね」


ここに来る、お客の感想は様々。

元々フクロウとは、可愛げのない、単なる肉食動物なのである。


「森の物知り博士」、「森の哲学者」、「森の忍者」・・・

人類はわたしに様々な呼び名をつける。


顔の文様がハート型なので「恋愛のシンボル」とするものまでいる。 


私は12枚の尾羽のうち、1枚をもぎ取られてしまった為、このカフェに保護された身だ・・・。



人間に恨みなどはない。

ただ、今まで肉食生物としてヒリヒリした生活に飢えているだけなのだろう。

人の会話には、嫌気がさす。

まるで平和の象徴だ。




私たち「フクロウ」という生物は、聴覚が発達しており、音により獲物の位置を特定する。

簡単に言うと、聴力に優れている。


このカフェに訪れるお客の話題もすべて筒抜けだ。

恋愛話・仕事の悩み・人間関係。

内容は様々だ。




そんな中、ハッとした。

奴だ。

わたしの羽を1枚剥いだアイツだ。




白々しくこのカフェにくるなんて・・・。

怒りという名の魔物が出てきそうになる。



「可愛い!!」



奴が子供を連れていた。

子供なんて、わたしにかかれば目玉の1つぐらいついばむのは簡単だ。

だが、それをしてしまったら、私の命もないだろう・・・。



しかも、自分の父親が捕らえたわたし「フクロウ」を、無邪気に可愛いと言う。



わたしは、特殊な動物なようで、可愛いと言われることは実は少ない。

無邪気にわたしを可愛いと言ってくれるあの子を、私はついばむことはできなかった・・・。




しばらく、親子の会話にみみを傾けることにした。




「可愛いふくろうさんがいっぱいだね!」

「そうだろう?ここのほとんどのフクロウはお父さんが連れてきたんだ。」

「お父さん!ふくろうさんを捕まえちゃったの??そんな悪いお父さん嫌い!」

「いやいや・・・。お父さんは、もう自分で食べたりできくなった子を

 連れてきているだけだよ・・・。」



嘘つき!嘘つき!嘘つき!

嘘つき!嘘つき!嘘つき!



アイツはわたしを麻酔銃で寝かせた後に、おバネを1枚もいだ・・・。

でも・・・。

麻酔銃を撃ったのは確かにアイツだったのか??

わたしは麻酔で朦朧としながら逃げた。

そこで力尽きる直前にアイツの顔を見た。



もしかしたら、わたしを助けてくれたのかもしれない・・・。



そうだとしたら、わたしに出来る事はなにかないか??

また、そっと親子にみみを傾ける。



「ふくろうの顔の形を見てごらん?ハートの形だろ?

 要するに心臓の形なんだよ?

 だから、もし、ふくろうがお前にキスをしてくれたら・・・

 きっとお前の病気の手術も上手く行くよ。」

「でも、難しい心臓の手術なんでしょ?」

「ふくろうがキスしてくれる方が、もっと、難しいんだよ?」

「うーん。そんな事してくれるのかなぁ??」」



なんと!わたしが、キスをすればあの子の命を延ばすことに貢献できるというのか!

わたしは、少し考えた。

その時間は数十秒だった・・・。


バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!

すとん。

チュ!

「ホロッホウ!」

バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!



「パパ!ふくろうがキスしてくれたよ!」

「そうだね!あの子は俺が森で最近助けてあげた子だよ。

 やっぱり、いい子だった・・・。

 手術頑張ろうな!」

「うん!!!」




そうだ!

あの男はわたしを密猟者から助けてくれた恩人だったのだ。

その後、心臓手術がどうなったのかは、まだわからない・・・。



親子でまたこのカフェを訪れてくれることを、わたしは願いながら・・・

今日もわたしは聞き耳を立てて、1人1名と決めてキスしている。



わたしのキスで、訪れる幸せがあるなら・・・と願いながら。



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