第9話 料理できる男子って本当にモテるの?


「蓮太郎くーん。 キャッチボールしてくれるって言ってたじゃないですかー」

 「そっそうなんだな。 次郎君はさっきまで準備体操してたんだな」


 どうやらかなりの時間涼と無言で酒を酌み交わしていたらしい。飲研メンバーが上流まで迎えに来てくれたみたいだ。さっきまで潰れていた柊木もいる。


 「夕焼けの桜も綺麗だねー」そう言って美桜ねぇは目を細めている。

 「さっきお前たちが居ない間に新店について少し話し合っていたんだ。 後で美桜にでもに聞いておいてくれ」そう言って蒼先輩はおれの隣りに腰掛ける。


 そして美桜ねぇは座るおれの肩に手を置き「蓮ちゃんっ。 私でいっぱいだね」といつもの能天気な声でそう言った。


 「何言ってんだ? ――あぁ桜のことか」

最初は美桜ねぇの言葉が理解できなかったが夕焼け色に染まる美しい桜達を見て理解する。

 そんな会話をするおれ達に蒼先輩は「まさに落花流水と言ったところか……」と会話を広げてきた。


 「何だその落花流水って?」と隣りにいた文太先輩は蒼先輩に聞く。

 「昔の中国では川の流れに花が流されている情景を見て、春の終わりを感じていたんだ。 それが落花流水の語源らしい。 しかし今の日本では川の流れに流される花から、男と女の関係もその情景と同じで、一方が好意を抱くともう一方もそれに流されるといった恋の四字熟語になってるみたいだな」


 「いい言葉ですね…… その言葉気に入りましたわ」

珍しく蘭華も食いついている。


 「閃きましたっ」

 ――突然今まで存在感の無かった柊木が発言する。


 「新店の名前『落下流水』にしましょうよ。 丁度ターゲットもカップルに決めたことですし」


……あいつにしてはまともな意見だな。

 「確かにいいかもな。 松落の『落』、一花の『花』、流屋敷の『流』、志水の『水』も入っているしな」


 「なんか運命みたいでかっこいいですね。 やっぱり蒼先輩は目の付け所が違います」と菜乃花ちゃんもノリノリだ。


それ以外のメンバーも頷いているあたり、みんなも落花流水を気に入ったようである。


 柊木が提案したはずなのに蒼先輩が美味しいところを持っていったため、いつの間にか蒼先輩が考えたみたいな空気になってしまっている。


 「蒼くんっ。この風景気にいったよ。 今日は連れてきてくれてありがとね。 私の忘れられない思い出になったよ」


 美桜ねぇは自分の名前にも入っている桜が大好きなのでここの風景が特に気にいったようであった。


 「そう言えばここの桜はなんて種類だかわかりますか?」

 という素朴な疑問をするおれに蒼先輩は「ここの桜は国花でもあるヤマザクラだ」と応えてくれた。


 「流石蒼くんっ。 物知りさんだね。 じゃあ花言葉なんかも分かったりするのかな?」

 「有名どころなら分かるぞ。そう言えば飲研メンバーには花の名前が付くやつが多いな。 やっぱり女子はそういうの気になるのか?」


「もちろんですよ。 私も自分の菜の花の花言葉が気になります」

「まずヤマザクラだが『純潔』などと言われているな。 あと蘭科には色々種類があるが全般だと『優雅な女性』、『わがままな美人』ってところだな」

 「なんかぴったりだな。 特に蘭華とか」

 「うるさいわね。 どうせ私はわがままですよ。 そう言えば思い返してみると付き合っていた時もわがままばかり言ってわね…… 悪かったわ……」

 

「「「「えぇっーーーーーーーーー」」」」

 蘭華のこの発言におれたちの関係を知らない菜乃花ちゃん、次郎、文太先輩、柊木は驚愕する。

 「えっ。蘭華ちゃんと蓮太郎くんは付き合ってたの? 怪しいとは思っていたけど……」

 「まっまさかこんなヤツと麗しの蘭華さんが付き合っていただなんて……」

 「おいおい。 お前にだけはこんなヤツとか言われたくねぇよ」

 「まぁそんなことはいいだろ。 もう直ぐ日も暮れちまうからそろそろ帰るぞ」なんとなく気まずい気配を察知したのか、文太先輩が仲裁に入る。

その声を合図にメンバーは名残惜しそうにしつつも、来た道を引き返していく……


■□■


 夏の始まりを告げるかのような薄紅色の空。

 散った桜の淡赤色。

 酔いの回った頬は緋色で……

 隣のアイツは夕日に照らされ紅色で……

 

そして『落花流水』

春は終わりを告げ、忘れることのできない夏が来る――。

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