再婚なんて聞いてねぇ!〜義姉妹が突然できました〜

ノナカ

第1話 相談も無かったんだが…

初老の教師が良くも悪くも淡々とした調子で黒板に文字を書き連ねてゆく。

はぁ。退屈だ。

自分は勉強への特別な苦手意識を持ったことはない。

同様に、勉強を別段楽しいと思ったこともない。

だからこそ勉強は大事で必要なのだろうという認識はあったがさほどの意欲もなかった。

それでも自頭はいい方だった。

テストもだいたい80以上は取り続けていたし、成績もまぁまぁぐらい。

だから俺は驕った。夢を見たのだ、見通しの甘い夢を。

その時の俺は、高校の先にある大学生というものに憧れた。

広い校舎に、それぞれの特色を持つ多種多様の講師陣の講座。

単位制の自由な講座。

大学生はほとんど大人だ。

お酒は飲めるし、タバコも吸える、税金も納める。

国に大人であることを保証された年齢の上、勉学に励む。卒業後は就職だ。

まぁ。簡単に言うと、高度な勉学ではなく大学生という存在そのものに憧れたのだ。

そのステータスが欲しかった。

だからこそ高校は、近所の有名な進学校の受験を決めた。

自分には不釣り合いなほど偏差値の高い高校だった。学校側にはもちろん反対された。


「今の君の成績では足りない」「合格圏には到底届かない」「きっと落ちる」 強く批判された。


「少しランクを下げたら安全圏だから、変えないか?」 優しく俺を諭してくれた人も居た。


けど俺はその全てを「俺が決めたことに口を出すな」と突っぱねてしまった。

反抗期真っ盛りであったということもあっただろうが、同時に自分に対して異常なほどの自信があったからそう言ったのだと思う。

その時の俺は強がりでも反抗心でもなく、本当に行けると思い込んでいた。

まぁ、察しはついてると思うが俺は見事に落ちた。

そりゃそうだわな。だって普通に考えて無謀だもん。

ここで問題なのは、もちろん合格するとばかり思い込んでいた俺は私立の高校はさほど気にしておらず。


「受験が楽なとこが良いや。まぁ?どうせ俺私立なんて行かないしwww」


と、本気で思っていたのだ。

いやはや、今振り返ると恥ずかしい限りですが、、、

一応の滑り止めには引っかかったものの、自分の考えていた落差からか学校に俺は全く馴染めなかった。

周りはヤンキーかぶれのチャラチャラした連中ばかり。はっきり言って苦痛でしかなかった。

それこそ、勉強は簡単なものばかりだたし、応用なんて使う難しいものはまったくなく。

いっその事、中学の基本もできていないような連中ばかりだった。

このとき俺は初めて、「勉強がしたい。自分にあったちゃんとした勉強がしたい。」

そう強く思った。おかげで自宅学習は欠かさないが気づくのが遅かったのだ。

それも今年で2年目に入っていまったのだから悲しいものだ。


キーンコーンカーンコン


授業終了を知らせるチャイム。

やっと終わった〜。苦痛から解き放たれた開放感に身を捩らせた。

本日最後の授業だったため各自帰宅に入る。

俺は部活には入ってないためそのまま真っすぐ家に帰る。

幸い、高校は家に近かったため自転車ですぐ。イヤー、ホントウ二アリガタイナー。

それからほどなくして俺は家についた。


「ただいま。」


扉を開けるのと同時に俺は倦怠感を口から吐き出すように声を出した。


「おう、帰ったか!」


居間から俺とは対極な、ハキハキとした元気な調子で親父が声を上げた。

くそぅ。無性に腹が立つぜ。


「どうした息子、元気がねえな?なんつうかRPGのダンジョンに湧くモンスターみていな顔してるぞお前。」


テメエの息子だろうが!

多少の怒りは持ったもののそれを口にだすことは無く、澄ました様子で俺は答えた。


「いや、いつもどうりだろ。」


「ああ、いつもどうりに元気がねえなってことだな。がっはっはっは」


大口を開けて豪快に父が笑う。

むかつくー!!

それでも口は閉じた。

その、原因が自分の根拠のない過度な自信を持った過去の自分にあったからだ。

だが腹立つ事には腹立つんだよなぁ。

笑い声を上げていた親父はおもむろに座り直し、目を据えた様子で改めて口を開いた。


「なぁ。颯人、、、、、、学校は楽しいか。」


ギクッ。

さっきまでのおちゃらけた調子ではなく、親父は真剣な眼差しで俺を見据えていた。

それはある種の威圧でもあった。

なんでいきなりそんな鋭いの?その鋭利な言葉を引っ込めて!

しかし、その眼光は有無を言わせない様子だ。それは親子でありながらも強い緊張を俺に与えた。


「え、へ?あ、あぁ。た、たのしいっすよ。」

 

なんて質問しやがる。

楽しい?いやいや俺も俺で自分に嘘つきすぎだろ。もはや自分すらも騙せきれてねぇし。

びっくりして声上ずっちまったじゃねーか。

はぁ。流石に自分で受験に失敗した上、私立で高い学費を親に払わせてる反面があるし簡単につまらないか、辞めたいとは言い出せないな〜。それは俺のガキなりの責任感だった。

俺の言葉を聞いた親父は一拍置くと静かに声を出した。


「颯人、、、、、。俺は高校のことはよくわかんねぇし、正直行かなくたって死にはしないと思ってる。

俺には高い教養があるわけでもないしな、もちろんそれがいいことだと思ってるわけじゃぁねえさ。

けどな、実際俺はこうやって手に職持って仕事もして生きてる。けど、俺も仕事して採用するとき、目の前の選択肢の二人が中卒と大卒だったら。俺はきっと大卒を取るだろうよ。もちろん学歴だけで判断してるわけじゃないがな。簡単に言うとな学歴ってのはな、簡単に比較できる人間の指標なんだよ。

だから俺はお前のためなら高い金だしても学校には行かせてやりたいと思う。

だからこそ、その上お前のためにならないようなものなら俺は悲しいんだ。」


親父、俺は、、、、、。


「俺もお前がいっつも疲れて帰ってきてんのは知ってる。

それが苦痛からのモンってこともうすうす感づいてはいるさ。」


やっぱ伝わっちまったか…

それは本心だし事実だがそれでも心配させてしまっていたのなら悪いとももちろん思う。

それでも、気付いてしまったのだろう。


「なあ颯人、俺も40になるだろ?」


ん?

なんの話だいきなり、、、、


「ん?いきなりどうしたんだ親父?」


「まあ聞けって、母さんはなあ、、、、。」


うちは親父だけの言うなればシングルファザーの家庭だ。

母は俺が物心付く前に他界してしまっている。

だからこそ、親父には感謝してもしきれない。男手一人ってのは大変だっただろうな、、、


「もう、14年だろ?俺はそん時1、2歳だからなあ。物心ついたときには親父と二人暮らしだったから特別これと言った記憶もねえし、まあ、産んでくれたことにはもちろん感謝してはいるがな。」


少し悲しそうにうつむいたまま、親父は言う。


「ああ、そうだな。でもな、、、、、、母さん欲しくないか?」


ん??


「はっ?死んだ人は生き返らねえぞ。」


「そういうことじゃねえよ、今なら可愛い姉妹が2人もついてくるぞ?」


ん???

話の流れがなんだかおかしな方向に、、、って、ん!?

姉妹?母親?なんか話が変だ。俺はどこで勘違いしてる、、、、

も、もしかしてコイツ!


「親父まさか!!」


「気づいたか、そのまさかだ息子。俺、再婚するわ。」


「はあああああああああああああああああああああああ!?」


はあぁぁ!?

コイツいきなりふざけんな!

さっきまでの真剣なムードとか悲しい雰囲気とかどこやったの?


「さあさあ。わかったんなら引っ越しの準備だ、急げ!」


俺をまくしたてるように親父が言った。

いや、聞いてないんだけど、、、


「まず、一人息子に相談しろよ!てか引っ越し?」


「ああ、引っ越しだ。」


何を当たり前のことを、といった様子で


「俺の高校はどうなんだよ!」


「それなら気にするな、お前は転校な。良かったんじゃないのか?」


、、、、、、、それは本気でありがたい。

それでもなんかなぁ。


「そうは言ってもな、、、、」


「わかったら勉強でもしてけ、転校って言ってももっかい受験するわけだからな。」


「は?」


は?受験?どういうことだ?


「もしかして知らなかったのかお前、、、、転校っつてももう一回軽く高校受験しなきゃいけないのわかってるか?」


何だそれ!?聞かされてないどころか今はじめて聞いたんだけど!


「まじで言ってんのか聞いてないんだが…」


「あぁ、マジだ。けど、お前はそれでも勉強はしてる方だろ?家でも勉強はしてるじゃねーか。」


受験の失敗を後悔した俺はそれからも自宅では黙々と学習をしている。

それはそうなのだが受験となるとどうも、、、


「そこも特別頭がいいってわけでわねーから安心しろ。まぁ、今の場所よかマシぐらいだ。ちょうどそこに欠員があってよかったな〜。明日な受験。最後に追い込み勉強でもしてこい、片付けはやっといてやるから。」


「ちょ、おい!!」


俺を部屋にグイグイと押しながらニカッと笑う親父。

てか、本気で明日ならやべぇぞ、、、、もう仕方ねぇし急いで勉強するか!

突然のオヤジの再婚、それに伴った転入試験が俺のつまらない日常を確かに壊そうとしていた。

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