最終決戦

真白 悟

第1話

「ようやくここまできたか……」


 長い旅を終えて、私たちはここまでやってきた。

 珍妙な旅ではあったが、現代社会に対するアンチテーゼとでも言うべきだろうか……ともかく、それも終わりだ。


「ようやく来たか……勇者よ」


 物々しい雰囲気のなかで、王座に腰をかけている男が声を発した。

 緊張が走るなかで、はっきりとしておきたいことがある。


「あの……」


「どうした? 勇者?」


「ですから――」


「言いたいことがあるなら、はっきり言うのだ! 勇者っ!」


「私のこと勇者って呼ぶのやめてもらっていいですか!?」


 恥ずかしいからやめて欲しい。本当に……勇者風旅番組だかなんだかしらないけど、私はただの女子高生だ。

 目の前に座っている男も、雰囲気はあるけれど、魔王と呼ぶには程遠い。


「いや、俺だってやりたくないけど、仕事なんだから仕方ないだろう!?  おっと、勇者よ最後だから、一瞬で終わらせてやろう」


 男は一瞬だけ素に戻ったかと思うと、すぐさま元に戻る。


――どんだけまじなんだよ。


 ともかく、男言う通り最後までだ。一瞬で終わらせよう。

 私はお供に連れてきた三びきの動物を見る。

 猫にゴリラにフクロウ、どいつもこいつも言うことは聞かないし、ゴリラに至っては恐ろしくて近づくことすらできない。


「はあはあ、魔王……もうこりごりだ。最初こそ簡単に大金が稼げると浮かれたけど、こんなことなら引き受けるんじゃなかった!」


 私の後ろからはテレビのスタッフがついて周り、状況を全国生中継している。

 それだけならまだしも、いく先々で人はめっちゃ不自然に優しく、かえって気を使う。

 気疲れするし、スタッフはいちいち人の家に不法侵入させて、タンスを漁らせたりする。

 こんな生活は、もうこりごりだ。


「さあ! かかってこい!」


 魔王はやる気だ。

 だけど私はやる気がない。ゴリラも私と同じだ。猫とフクロウはやる気に満ち溢れている。とは言っても、魔王と戦いたいと思ってるわけじゃない。

 遊びたいと思っているようだ。

 外は夜で、夜行性の生物はこれから活動を始める。


――面倒くさい、出来る限り早く終わらせたい気持ちはわかるが、やる気が出ない。


 どうしたもんかなぁ……そもそも、私が本気で戦っても勝てるはずないし、動物達が手伝ってくれるはずがない。

 お手上げだ。

 早くこんな茶番終わってくれないかな。


「行きますよ……?」


「ああ、私を倒してみよ」


 女子高生がどうやったら大人の男に勝てるのか……いやそもそも、どうしてこんな茶番をしているのか意味がわからない。


『――世界はつまらないので、勇者が魔王を倒すまでを中継しましょう!』


 いつだか、テレビで見た光景を思い出す。

 どっかの会社の女社長がそんな意味不明なことを言っていた。いや、それ自体は面白いと思ったし、見てみたいと思わなかったといえば嘘になる。

 だけど、こんな見切り発車だとは思わなかった。


 いや、見切り発車じゃなくても、企画としても意味不明すぎる。


 とにかく、終わらせるためには何としても魔王役の人を倒さないと……それでこの番組も終わる。

 予算を湯水のように使い、素人を勇者として旅させる意味不明な番組を。


 私は、魔王の方めがけて全力で走り出す。倒す算段などないが、なんとかなるなるだろう。

 そう思っていた時が私にもありました。

いきなり走り出した私は、足がもつれて地面に倒れる。

 それをみたフクロウは、驚いて飛び去ろうとした。しかし、飛んでいく方角が悪かった。

 フクロウは、魔王の頭に勢いよくぶつかる。


「ぐはっ! さすが勇者だ。フクロウに指示を出して攻撃させるとは……予想外だったぞ」


 本当に予想外だったことだろう。フクロウに激突されること自体は……。そりゃそうだ。私だって予想外だった。

 よくアドリブであんなことを言えたと、魔王役の人には感心させられる。さすがプロだ。


 ともかく、珍妙な旅は、珍妙な最後を迎えることになった。


 その後、私よりもフクロウが勇者と呼ばれるようになったのはまあ、結果オーライと言える。

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最終決戦 真白 悟 @siro0830

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