第十二話 討伐戦終了と新たな不運
音なく、炎が黒い靄がかった「何か」によって消滅していく。
その様子はまさにブラックホール。音を伝えない宇宙空間においてのすべてを吸い込むさまは格好の例であった。
「オサキ。そのまま一匹喰らえ」
『腹が減っているからやるだけだから。白仙の命令で喰うわけじゃないから』
炎を喰らい尽くし、オサキと竜の差は縮まり、水に走る電気のように炎を伝ってオサキは炎の出元。
竜の口にある魔法陣へと辿り着いたかと思った瞬間。
音もなく、オサキの標的となった竜の全身が黒くなる。
そして一秒も経たずして、黒くなった全身は黒い靄として空気中へ面影なく漂った。
オサキの喰らうということは、白仙の隠し能力によって怪異という存在から神獣へと変化させた際に生まれた能力『浄化』による作用で消滅している。
正確には消滅ではなく虚無へと帰しているのだが、オサキ自身はそんなことどうでもよく、単純に空腹を満たすためだと言い張っている。
「オサキ。あとは我がやる」
『ふん。勝手にして。白仙が目立つことは・・・私にとってもうれしいから』
「なんか言ったかや?」
『終焉の美だけ飾るなんて最低だって言ったんだよ!』
「かわいくないのー」
広範囲へと広がっていたオサキの靄が白仙の右手にある紫雲の刀身へと収束する。
紫雲の刀身はいまだ黒く禍々しさを残している。
「さて、あと四匹。しかしアルギの方は来ないのかの? どうでもいいのじゃが!」
背中の民家の壁を蹴りだし飛び出す。
神速を駆使し竜の真下へ。そして加速力を生かしてジャンプ。
からの青雲を引き出し足りない距離を青雲を投げて稼ぎ、式術。
「よっ! 式術・転!」
青雲のすぐ横へ移動。青雲を左手でつかみ取り、竜の首を青雲で突き刺し、ぶら下がる。
瞬間。竜が咆哮を上げ体を大きく動かす。
振りほどかれぬよう白仙は体幹を最大限に使ってロッククライミングのこぶを突破するの如く、青雲を支点に首へ跨る。
首に刺さった青雲を抜き出し、スキル二刀流を発動させ、竜の背中へと移動する。
「朽ちろ」
紫雲を背中に突き刺す。
紫雲の刺さった楕円形から竜の背中が黒ずみだす。
黒く染まり始め、胴体全体が染まり切ったとき。竜は浮力を失い、重力に引き付けられ地面に向かって大質量で落下する。
紫雲を抜き出し、落ち始める竜の背中から一足先に地面へと戻る。
「よ! ほい! しょう」
スキル空中動作を使用し、うまく速度を落とし足を地につける。
突然、後方から叫び声が上がる。
今頃になってアルギの部隊が動き出し、一匹のカーゴンの残党に手を出したのだ。
一瞬、手を出そうかとも考えたが周囲の様子とアルギの最後の言葉を尊重し、手を引くことにした。
「白仙」
城のある方から白仙を呼ぶ声が届く。
「なにようだ」
振り返らず、顔さえ合わせようとせずに残りの残党カーゴン三匹に目線を当て続ける白仙。
「・・・色々と質問したいことがある。事が済んだら城に戻ってもらうぞ」
「断る。といったら?」
「無理にでも連れて行かせてもらう。白仙。お前が出したあの黒い物体について説明してもらわなくてはならないからな」
「はあ。先に城へ戻る」
「なに?まだ三匹残っているのにか?」
「おぬしは周りを見るという点においては絶望的じゃな。それじゃあ」
踵を返し、周りを見ろとアルギを貶した白仙は静かに歩いて場内へと戻っていった。
アルギは憤っていた。
こんな短時間に。カーゴンが攻めてきた数時間の間だけで二度も白仙に馬鹿にされた。
一度目は軍の作戦を破滅させる行動をとり、三体ものカーゴンを殲滅し軍としての威厳を損なわせてきたこと。
そして二度目。指揮官として動いていたアルギにとってこの上ない屈辱的言葉をどこの国の回し者かもしれぬ白仙に言われたこと。
戦況を見て柔軟な思考を働かせ、逐次に指示を出し勝利を収める指揮官が周りを見ていないなど言われれば、落胆。ではなくイラつきが出てくる。
これは、トップに立つ人の特徴で自分の欠点を上げられた際、それが求められる能力であったとき、トップで権力などを得ていたものは、自分を改めるのではなく、逆ギレ。
自分は間違っていない。ちゃんと見ていない癖に言うな。自分はしっかりとやっているなどと考え、アイツが悪い。
そんな思考に陥る。
白仙の言い放った言葉はアルギを憤らせるのには十分に満ちていた。
今まで努力をし、指揮官という役職にまで上り詰め、全体をしっかりと見て勝利を収めていた。
その事実はアルギをトップに立つ人間に仕立て上げるのには十二分の結果といえる。
「何が何でも白仙をどうにかしなければ・・・」
アルギの憤りは結果として身を亡ぼすこと。
このまま逆ギレが続けば、ミユウなどの味方へ無理な指示を出し、指揮官という座。または除隊などというバッドエンドも容易に考えられる。が、今のアルギにそんな思考などできるはずもなく、とにかく白仙に痛い目を見せたい思いだけが脳内に渦巻いていた。
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