第十一話 オサキノグライの過去
最初の被害者は村に住む二十代後半のまだまだ働き手として村から注目の存在であった男性。
男は森へ山菜を取りに行ったっきり二日。村へと帰ってこなかった。
二日後の朝。
村の畑で山菜を持ったまま倒れた男を見つけるが、男はどこか様子がおかしかった。
村長はその男を見るや否や、たった一言。
「肝が食われた」
といった。
その時の男は、目が虚ろでどこか遠くを見ていて自分が何をしているのかさえ分かっていない。
村長の言う肝が食われた。という発言にとても適していた。
それから二人目の被害者が出るのには遅くなかった。
二人目を機に村ではその問題を怪異とし、怪異の特定と討伐を決定する。
しかし、事態は悪化。
十三人の男を森へと送り、怪異を特定に走らせたが問題なく帰ってきたのは二人だけ。
そして。その二人は揃いも揃って。
「未来などない。それは真っ黒い霧で、音もなく前を歩いていた人々を包み込み、過ぎ去っていった。本当だ。そしたらもう、霧に包まれた。みんなは飛んじまっていた」
一語一句違うことなくそう証言し、やがて『狂った』
村長はその事態に森への侵入を制限し、事態究明はしないと残した。
その時の村長が残した手記。
その一部に残っていた怪異名称より「音なしの霧」と。
それから数年後。
村も発展を遂げ、時折近くの大名がやってくるほどになったとき。
音なしの霧はまた現れた。
「大名が。森にて行方が分からなくなりました」
大名の側近だけが村へやってきて放った言葉に、村人は全員が顔色を青くした。
それと同時刻に当時、約二八〇歳の白仙が上司(元神衆長)の命令で下界へと降り立つ。
「だ、大名様が?それは・・・音なしの霧という怪異のせいでしょう」
「お、音なしの霧?それは、いや。一度この事態の報告のために城へと戻ります。もし主が来た際はお願いします」
そう残すと馬に乗った側近はまた森へと走り去っていった。
そして次に村へやってきたのは側近でも大名でもない『第八乃隊』という集団であった。
紛れもなく、これは白仙の所属する第八神衆の天罰部隊である。
「こ、これは。一体」
「我々は・・・・・・様の名の元、音なしの霧。別名オサキノグライ討伐を任された幕府直属の部隊でございます」
「ば、幕府」
幕府という言葉に聞きつけてきた村人のほとんどが恐れおののいた。
が、そんなのはまっさらの嘘。正確には神直属。神のみで編成された部隊である。
「オサキノグライについての情報収集をするために被害の最も多いこの村へ聞きに来た所存でございます」
「わ、わかりました。とりあえずこちらへ」
第八乃隊の編成は最年少で二八四歳の白仙と他、最高齢で六九三歳の六人編成。
白仙は最年少ながら副隊長として天罰に身を出していた。
「書物はこれだけですか?」
集会場へと案内され、差し出されたオサキノグライについての書物。
その数は怪異としては最も少ない二つ。
その内容は、一つが前村長の手記。そして霧によるものだと判明した時の調書のみであった。
第八乃隊は口々に難しいと述べた。
しかし、六名中二名だけ違った。
「なんじゃ?これ。本体がおるなら簡単ではなか?」
「そうだな。仙ちゃんの言う通り、主犯格が判明しているなら森に入って叩けばいいだろ」
言わずもがな一人は副隊長であった白仙。
そしてもう一人が第八乃隊隊長。現神大衆長
そして、第八乃隊において最も現時点で危険な二人であった。
神の中の武力派集団と揶揄されていた二人。
白仙は式術の刀氏。天浪は隠匿の秘術士。と異名を付けられるような存在であった。
「あ、あの聞くも無駄なのですが、作戦は?」
第八乃隊の部隊員であった現在の第八神衆員の魅海が恐る恐る問う。
答えは分かっていた。どうせ作戦などないことを。
「森に入って原因を根本から叩いて終わりだ」
「それ以外に方法があるのかえ?森の中のみしか動かないオサキと対面するにはこうするしかあるまいじゃろ?」
「わかってましたけど!」
それから作戦開始まで一日となく、一時間後のこと。
「行くぞー」
「おー」
「お、おー・・・」
森の入口に立った第八乃隊の姿があった。
各自最大の武装をつけて。
当時の白仙が持つ武器は無名刀(後に修繕を施し紫雲と命名)のみ。
ほかの神は思い思いの神格武器と呼ばれる特殊な技法が用いられた人間には扱えない武器を装備し、森の中へと消えていく。
その先のことに関してはいつか。
簡潔に述べるなら、ここで白仙がオサキノグライを倒し、オサキは今。白仙の助太刀をしている。
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