第六話 ダンジョン最深部Ⅱ
「仙」
たった二文字の言葉を発した瞬間、時が一切の偽りなく止まる。
「新雪振りし山の社にて祀られしは我わて。白仙のこと偽りなく。新雪の白さはすべてを覆いつくして無へと帰す。神下の白銀世界!」
紛れもない白仙の真っ白な本当の姿である狐の姿が頭を上げ、フィールドの土の天井へ叫ぶと全体に雲が発生し始め新雪が降り出し、やがて強くなり吹雪と化した。
「我の本気に手が出せると思うな。弱竜よ」
狐の姿で止まった火竜に向き直り、キッと睨みつける。
そして、時が動き始めた時には火竜は生きているはずもなかった。
狐の姿から戻った白仙はすでに動き出した時の中でも動かない火竜の首へ最初と同じように。次は横ではなく縦に回転斬りを決めるため体を左に倒し、左へ捻りながら刀の所へと移動し、青雲を左手でつかみ取って三回転の合計六回切り付けると、火竜の首は皮一つよりも薄くなり、ぶら下がり血が逆にゆっくりと滴り落ちた。
火竜が動けなかったのは吹雪によって凍ったわけではなく、白仙が雪を司った神であったがためである。
白仙の使った仙という能力は時を止め、狐の姿となって吹雪を降らせるだけでなく、白仙のこの世界で言うところのエクストラスキルを発動させる。
「新雪が降り、交通網が止まってしまった下界のようじゃな」
そういうことである。事象をも動かせる白仙にとってこんなことなどいとも簡単に起こせてしまうのだ。
新雪の積もった雪の上へ降り立った白仙は頭上の火竜を見上げる。
「んやぁ!??」
皮一枚未満の状態で繋がっていたものが竜の巨大な頭を繋げていられるはずもなく、ぶち。という音ともに白仙の上に落下する。
「んぎゅぅ!」
勝ったにもかかわらず、締まらない声とともに押しつぶされた衝撃で意識が天界に届かないぐらいの高さまで飛んで行った。
そして、そんなボス戦を
「そろそろ中間地点です。モンスターの生成も戻ってきましたね」
「ああ。しかし、誰かが通ったのは間違いない。もう七階層に着く。中ボス戦だろうな。統計から言えば」
先頭を進むアルギとミユウが七階層を前にして呟く。
そして、六階層から階段を下って七階層のゲート前。通常のゲートよりも周りが装飾されたゲートは言わずもがな、中ボス前のゲートである。
「よし。もしも先陣者がいた場合は保護を優先する。いくぞ!一番隊突撃開始!」
アルギがゲート横のリーダーにカードを当て、ゲートを開くと同時に軽装備の高機動隊が開く途中のゲートをすり抜け、六名入る。
「二十八・・・二十九・・・三十!二番隊一番とスイッチ!」
六名の侵入によって閉じられたゲートが三十秒が経った後に開かれる。
「報告です。ボスは・・・討伐が完了され、異変も発生したと思われます。が、魔石が回収されておらず細部の調査を要すると思われます」
「なんだと・・・!よし、三番四番は第七階層で現場を調査。一番と二番は俺に続いて最下層へと進む。ミユウはここで指揮を担当してくれ」
「了解しました。三番隊四番隊、ゲートを越えた後に調査機材を配置し、徹底的に調べるぞ」
「「はっ!」」
開いたゲートを今回の作戦に出撃した全部隊が通り抜け、固く閉ざされる。
そして、アルギは一番隊の六名の高機動型の兵と身の丈ほどの多いな盾を持った防御力に長けた兵三名、鉄製のロングソードを携えた鎧に身を包んだ主力三名からなる二番隊を引き連れ、酷い死に方をしたグリフォンを横目に奥のゲートを越える。
ミユウは指示通りに刻印術式と呼ばれる魔法の術式が事前に物に刻まれたものを使ってフィールドのありとあらゆるものを調べ始める兵に指揮を執る。
これは、後にこの調査によって判明したことだが、ダンジョンの異常性の原因が何か神聖的。つまりは神々の力が加わったものだと判明する。
「なぜボスの部屋にしか異常が発生しないのだ・・・」
そんなことをひとり呟きながら、迫ってくるレベル十にも満たないゴブリンを大剣で弾き飛ばす。
それから、レベル平均が七十を超える部隊に途中階層のいわば雑魚モンスターが傷の一つや二つ与えられるはずもなく、難なく最終階層。十四階層目へと辿り着く。
ゲート前に立ったアルギ一行は疑問を覚えていた。
「隊長・・・」
兵の一人が口を開き、我慢ならずに疑問を投げかける。
「わかっている。この先に先陣を切った冒険者がいるはずなのだ。テンプレート通り一番隊が三十秒で情報をできる限り得る。そこから全部隊で情報をもとに戦線を形成する。よし、決意が決まったら行くぞ」
「「はっ!」」
ゲート前で訓練された受け答える声が響き渡り、兵士の顔が誰が見てもわかるほどに固い決意に満ちた顔で溢れ、一層士気が高まる。
「第一番隊!構え。・・・・・・突撃!」
先ほど同様、リーダーにカードを当てゲートを開けると細い隙間い体を滑らせ、六人が一斉に入りゲートが閉じられる。
戦闘においてボス戦。つまりは危険性の高い時に使う自警団テンプレ戦法の先陣を切ってから三十秒後に情報を得た先陣部隊を戻して作戦を決める、この方法はダンジョンの性質をうまく利用している。
ボス階層のゲートは開錠から人が入るとその二秒後に閉じられるシステムがあり、中へ入ると閉じられ死ぬか倒す以外開ける方法がないのだが、部隊として行動している際に遅れてきた人への救済処置のようにゲート外に仲間がいるならば、ゲートを開けることができる。
そして、開けることのできるようになったゲートによって三十秒偵察からの帰投を可能にし、敵についての情報を高精度で得ることができる。という戦法である。
「そろそろだな」
アルギの言葉と同時にゲートが開かれる。
「隊長・・・またですが、次は保護するべき先駆者がおり、現在五名で救助中です。そして、言った通りここのボスも討伐されておりました」
「そうか。二番隊、救助中の一番を援助」
空いたゲートをくぐりつつ、ボスの部屋へ入ると、空気の異様さに横を歩いていた高機動部隊の一人にアルギが尋ねる。
「個々のボスは何だった?」
「火竜のようです。しかもグレートだったようで、フィールドの七割が焦げていますね。ダンジョンの自己修復が働いたうえでです」
「いや。フィールドの温度が低すぎないか?こう、昔戦ったブリザードドラゴンの凍化を打った後のような寒さが残ってるんだが」
「なるほど。ブリザードドラゴンとは僕は戦ったことがないので分かりませんが、グレートのあの技を打った後の温度ではないですよね」
ボスが死んでいると分かっていれば、別段身構える必要もなく、ゆっくりと火竜の所へ歩いていくと、火竜の頭によって気絶したままの白仙が救助された。
「隊長!獣人の冒険者を確認しました。きっとこの様子からして、ボスを討伐したのはこの少女と思われます」
「ん。その子は俺が運ぶ。誰か第七階層で調査中のあいつらへ伝えてくれ。先に国へと戻っている」
「「はっ!」」
アルギは床に寝かせられた白髪の獣人。正確には神様なのだが、背中に乗せて地上階へ直で行けるゲートへ向かっていく。
アルギのいなくなった十四階層のボスフィールド内では、兵士によって誰が七階層まで戻るかを相談し始めた。
「誰が行く?」
「やっぱり、高機動の六人のだれかだろうよ」
「いや。仕事量を考えてくれないか?俺らはもう二回もここで突撃してる。対してお前らは何もしていないだろう?」
「盾部隊は無理だ。俺らが七階層まであの階段を上がったり、戦闘をするには時間がかかるからな」
階段。そのいい例が地下鉄の階段である。あれの三倍の段数が一階層ごとの高さであり、ボスのような高さのある階層ではその倍以上あるのだ。
「はぁ・・・いいよ。俺が行くから、こんなかで一番足はええから」
そういってひと際小柄な第一部隊の少年が第七階層へと戻るため、元来たゲートへと歩いてった。
「そういや、あいついっつも一人だよな」
「ああ、訓練の時も結構剣振るうのに合わせてランニングしたりと頑張り屋なんだよ」
「俺はああいうタイプにはなれないな」
などと口々言いながら、外へ出るゲートへと歩みを進めた。
そして、地上で全員が合流し帰国の道へ馬を歩かせていくのだった。
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