テラピアの弐


「釣れん!!!」 友人の昼休みに電話をかけた。


「ハハハハハ、そう簡単にいってもらってたまるか。昔からお前ばっかり大物釣りやがって」


「くっそー、やっぱりお前恨みに思っとるんか? 」


「思わんわけがないやろう! 全くもう、俺は昨日二の二」


「え? バス? 」


「いいや、ナマズ、女房に写真か動画を撮ってもらおうと思ったからかな、両方ともばれた! まだ本気じゃないのか、こっち下心が分かったのか」


「ハハハ、同じ! 」


 全く釣れなかったわけではない。しかしひらひらと一瞬で釣れるようなものばかりなので、仕方なくリリース(針を外して逃がすこと)するしかなかった。しかもそれが最初の何投かだけで全く反応がない。場所も色々変えたが駄目で、工事個所もあり、その影響も大きいと思われた。


「そっちも寒いか? 」


「ああ、花冷えかな、寒いな。テラピアの活性が下がっているんかな。」


「それじゃあ、最終手段で行くしかないやろう? 」


「最終手段? ああ・・・でももう頼るか・・・これに頼ると後が面倒」


「仕事やったら仕方がないやろう」


「お前やったか? 」


「もちろん! 入れ食い! 餌の神様! 」


「はあ・・・初日からミミズは勘弁やな・・・」

ミミズは本当にすごいのだ。どの魚にも効く万能餌だ。


「ハハハ、でも俺だってこの時期は全く釣ったことがないから、地元の人間に聞くしかないやろう? 」


「学校が始まっているからな。悩んだんだ、この小さな川でクーラー持って釣ってるなんて、正体がばれるだろう? 関東の奴がばれて大変になったらしいから」


「関東で、東京周辺でばれたら大変やな・・・そうか・・・難しいな。とりあえず粘るさ、俺だって四苦八苦しながらやった日もあったから。丁度いいキャスティング練習と思って。ああそうそう、大臣には見せてもらったか? キャスティング」


「ああ、全国の担当者が集まったときに、凄いな。でも半分ぐらいはできるからな、あの神業が」


「おうおう、若い世代は違うな、まあ、今日は仕方ないと思うか、もう一回夕間詰めを狙うかだな、先にホテルにチェックインがいいんやないか? 俺もそう、朝着いて釣って、昼過ぎに荷物置いてまた行って、帰って一回温泉浸かって、夕方」


「ああ・・・そうするかな・・・」

彼の言う通りに一度旅館に行き荷物を預け、再度、再々度行ったが駄目だった。



確かにこんな日は必ずある。何をしても、どう工夫しても釣れない日は釣れない。何度か経験したことがあるが、それがまさか初日に来るとは思わなかった。

想像以上に自分も堪え、友人と楽しく話す気持ちにはなれなかったので、大臣と他のエリアの人間に連絡をした。


「そんな日があるよ」


「お疲れ様」


「明日は天候も回復するらしいから。こっちも全然駄目でした」


「こっちは強風、久々にルアーが・・・・」


という励ましと同情がありがたかったが一人だけこう送ってきた。



「天罰! 」


関西の人間だ。自分がしばらく釣りから離れていたことを、すごく驚いていた若者だった。確かにそうかもと思っていたので、ほんの少しだけの怒りを返信した。


「んじゃあ、君だけ今度会った時に北九州銘菓、南蛮往来なしね、新発売南蛮サンドもおあずけ」数秒後


「すいません、すいません、すいません、すいません、すいません! 」


と返ってきたので一人で部屋で笑った。ベッドで横になりながらの作業だったので、そのまま眠りについてしまったようだった。

夢の中で、自分は子供に戻っていて、釣り場で必死にキャスティングの練習をしていた。


「風がこう来ているから、こう投げて・・・寒いから魚はきっと風裏に」


夢の中にはもう一人いた。


「お前投げるの上手いな、やっぱり! 」


友人ももちろん子供だった。



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翻れ @nakamichiko

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