醒める夢 Chapter.7
ジル・ド・レは黙想する。
思えば、信仰を
愚劣な政略によって、心酔する
幼き頃の悲劇が
母を失った。最愛の母を……。
神への祈りは無駄であった。
そして、信仰を
無力感に
やがて、また取り戻した。
神の御使い〝ジャンヌ・ダルク〟との
されど、また
幼少期の無力感が
闇に
神への敵対者と
そして、
軋み開く城門の音に現実へと呼び起こされ、ジルは静かに
十中八九、降伏は無い……それは承知の上だ。
が、迎え出て来た
カーミラ・カルンスタインではない。
たった一人で出陣したのは、
白ではなく黒が現れた。
「よう、
「フッ……捧げる相手など、もはやおらぬ」
互いに望んでいた──いつぞやの決着を!
「さて、始めるとするか……カリナ・ノヴェール!」
今度は横槍など
心行くまで殺し合おう!
ロンドン塔城門前──多勢のゾンビが
周囲の
「「おおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!」」
暴れる
この決闘の瞬間に立ち会ったのが、彼等の不運だ。
もっとも
「
「邪魔だ!」
互いに好敵手を狙いつつ、片手間で障害物たる
剣舞を踊る足場を広く確保せねばならない!
「アレは……カリナ・ノヴェール? またしても邪魔をするか!」
プレラーティは
早口の
どちらにせよ敵意を
獲物へと向けた
圧縮された
「……消えよ」
奇襲方向を追い
白い
「……カーミラ・カルンスタイン!」
「まさか〈魔女ドロテア〉の他に暗躍者がいたとはね……確か〝プレラーティ〟とか言ったかしら?」
「ィェッヘッヘッ……その名で
直後、カーミラの背後に
「ィェッヘッヘッ……お初だねぇ? オレァ〝ゲデ〟──ハイチはブードゥー教の〈死神〉さ」
太々しく
魔術師が
「その〈死神〉とやらが、何故ハイチから出た?」
「
さしものプレラーティですら
この〝ゲデ〟なる〈死神〉は、純粋に
「ま、そう警戒しなさんな。オレ自身が何かする気は無ぇよ。アンタを相手取るのは──」
ゲデが
「悪いけど邪魔はさせない。カリナの邪魔も、ジル・ド・レ卿の邪魔もね」
ジルの
「二の
力任せに横へと
「かはっ?」
瞬時に魔剣を盾として
その衝撃を緊急離脱の慣性へと転化し、黒の
押さえた傷口から零れ落ちる熱い感触──
「少しは学習したかよ、
「先の決闘で貴様の傾向は覚えた。
「そうかよ」
カリナは軽く
と、
「吸え」
「
「物珍しいかよ」
「なるほど。わざと適量を吸わせて、
「傷そのものは
刀身に残る
「おい、
「何だ」
互いに反目して
「確か〝ブラッディ・タワー〟と言ったか──あの
「フッ、どうやら見つけたか」
吸血騎士が乾いた感情に
「
「……分からぬ」遠い目を
「何人
「
「
「確かに異常な
「
「理解されぬは百も承知。
「それも言うのさ」
子供の存在に
だがしかし、その
ジル・ド・レは、幼き命を悦楽の
カリナは、無垢な魂を
「子供には罪が無い──などと綺麗事は言わん。
「母性が言わせるか……やはり〈
「さてな──」満たされぬ想いに
「……レマリア?」
「気にするな。オマエにも殺せぬ子だ」
超人的跳躍に
「飛ぶか! カリナ・ノヴェール!」
ジル・ド・レは腰を落とし、安定した重心に構えた。
(
この戦術に
前から、背後から、右から、左から、休む
一撃離脱の
彼女の軌道取りは、優美なカーミラに比べて鋭利で素速い!
「
四方八方から
突撃の勢いを
加えて、レイピア形状の魔剣も相性が良かった。
突きを
愛剣を盾に
言うは簡単だが、それを
そして、重々しい反撃を繰り出した!
「むぅん!」
「当たると思うか!」
直進軸を
すぐさま直角上昇による離脱へと移行!
が、
あまりにも標的への捕捉がアマい。
(当たらぬは承知の上で……か。手数を減らすための
だがしかし、その流れすら敵の
「
ジル・ド・レが上空を
今度は確実にカリナを捕捉している!
(クソッ! 軌道を強制させるためだったかよ!)
降下の勢いに
なれば、
「
「カリナ・ノヴェーーーール!」
鋭利な
間髪入れずに、またも強引な
カリナは
「……腹立たしいヤツだ」
同様に、騎士も
両者が繰り出した一撃は、
(
かつてカーミラが
「カーミラに出来て、私に出来ぬ道理はあるまいよ」
そう、
薄く勝算を
その瞬間、不意に背後から右腕を
「何!」
ゾンビの
それを
「クッ?」
腕一本に一体ではない!
足一本に一体ではない!
「クソッ! 命令を変更したか!」
まるで
正面からは剣を
(さて、どうするか……)
この
しかし、それは
(
とはいえ、このままでは〝なます斬り〟だ。
(やはり秘策を
本音では
(チィ……背に腹は
不本意ながらも秘策を
「何?」
予想外の展開に動揺を浮かべるカリナ。
振り下ろされた
宿敵の
「プレラァァァティィィーーーーッ!」
地の底から響いてくるような獅子の
「出過ぎた
それは大気を震わせるかの如く、テムズ川上空にて戦う
「……ですって」
「チッ!」
舌を鳴らす
さりとて、ジル・ド・レの機嫌を
彼は
「それで? 今度は、どうなさるのかしら?」
「……
「コライサラム・エキシサラム・シューサラム──」
「──ファイアーボール!」
さりながら、白き
「リスペルサラム」
再発動の
多数の
しかし、それさえもカーミラは
魔術によって飛行能力を得ていても、それは
対して吸血鬼の
結局〝鳥の翼〟と〝イカロスの翼〟では、根本的に
「……
「サラムプリズモルグ!」
カーミラの周囲に砕けた
「何ですって?」
炎は
「
実体無き元素を斬り裂けるわけがない。
下手をすれば、武器の方が
魔術師が
「……対決
「あら、今頃
「エリザベート戦で見せた戦法は知っている。その機動力を封じれば、
関心を
「キサマを
「ジル・ド・レ卿は、それを望んではいなくってよ?」
「……関係無い」プレラーティの冷酷なる真意。「
「
「……
「ひとつだけ
「……何だ?」
「
名を聞いた途端
「クックックッ……まだ気付かんのか、カーミラ・カルンスタイン」
直後、魔術師が
やがて
「
同時に、
何故、こうも続けて
何故、魔女と魔術師の
「暗躍が
「どちらが〈
「さてな……あまりにも
「ジル卿やエリザベートの生前から、今回の根回しを? そうは思えないけれど?」
「生前の
「あ……
「
カーミラの
「
「
「もう、いいわ」
「……
「ええ。もう何も語らなくていい。聞くに
我慢していた
優美な回転に舞う白い波!
自らを軸とした
「な……何をしようという! カーミラ・カルンスタイン!」
高速自転が続く!
炎の
「
気流の暴力が
自身も
そして、炎の
「……クッ?」
「精霊魔法にて〈火〉を
「キサマ、最初から抜け出せる算段を?」
「ええ、少しでも情報を収集したかったの」
にこりと
実力に裏打ちされた余裕であった。
「それじゃあ、
白い翼が
エリザベート戦で見せた
「ラジュガ・ミフェ・ディーヨ──」
早口な
「──マヴォラ!」
魔女の姿が三人と増えた!
三人が五人となり、五人が十人となる!
「分身魔術?」
「間抜けなエリザベートと同格に
「
気迫を
白き
次々と
「な……何っ?
カーミラの戦闘能力を改めて
「
「それが
「キサマには分かるまい! 強大無比な魔力に恵まれたキサマに、
そして、
「
「生まれながらにして
ドロテアは
しかし──!
「そこォーーーーッ!」
「かはっ?」
魔術発現と
飛行魔術の集中も乱され、無様に
「動作は
同情など
エリザベート──ジル・ド・レ──そして、カーミラが温情を
テムズ川が
「わたしと踊ろうなんて百年早かったようね」
「おい、
「プレラーティの愚か者が……カーミラ・カルンスタインを
魔力の
とはいえ、どうでもいい。
両者の目が捕らえているのは眼前の敵のみ!
叩き折りたい
手数は圧倒的にカリナの方が多い。
それら
突発的に
目まぐるしい
「
「死すべきは貴様よ!」
騎士の剣が大きく振り上げられた!
密着した状態では、
「
「それしかなかろうよ!」
男と女の差は、カリナにとって
それでも
「惜しい……実に惜しいものよ」
「あんな大振りが惜しいものかよ」
「そうではない。以前も言ったが……何故、貴様のような
「また、それか。何か〈女〉にトラウマでもあるのかよ」
「貴様程の実力があれば……貴様が〈男〉であれば、
「いいや、そうはならんさ」
「何?」
「暑苦しいジジイのお
その勢いを加味して、カリナは大きく
再び得た間合いに黒い翼を
「またも飛ぶか!」
「腹立たしいなら飛んでみせろよ」
黒き矢が天を
「一撃必殺と
狙うは
迫り来る数秒が数分にも感じられた。
「
全身全霊を込めた
死の瞬間に見開かれる
「
「……此処だよ」
繰り出す突きに身を乗り出した体勢へと!
「実体化を?」
「遅い!」
対応する
前屈み
「吸えぇぇぇええ! ジェラルダイィィィイイン!」
彼等〈
白い空間に優しく包まれ、ジル・ド・レの意識は
痛みも恐怖も無い。
ただ
旧暦一四〇四年──フランス名門貴族の家系にて、彼は生まれた。
当時、フランスは百年戦争の
ジルの幼年期も、そうした情勢にあった。
両親から
だから、決意をした──大人になったら、この戦争を
その瞳はまだ純粋で、
旧暦一四一五年──最愛なる母が
ジルが十一歳の頃である。
母は病弱な人であった。
されど、無力な自分がしてやれる事など無い。
神へと
だが、結局は無駄であったと思い知る。
続けて、父が
戦死だ。
少年に与えられた神の
だから、少年は信仰を
救済無き信仰など〈
旧暦一四二九年──百年戦争へと参加する。
フランスの
苦しみ
そんな中で、
オルレアンの野原で出会った娘は、
さすがに
そこで少女は〈
少女を
何故、それが
もはや〈
旧暦一四三一年──百年戦争末期、
激しい混戦下での撤退とはいえ、実に不覚であった。
英仏間の戦争協定により、保釈金を払えば捕虜は取り戻せたからである。
イギリスより提示された保釈額は、決して払えぬ額ではない。
にも
この
信仰も愛国心も
「フフフ……思い返せば、実に波乱な人生であったな」
乾いた笑いに
遠くから
母だ。
「ああ、そうであったか……ワシが本当に
──
──
──
ようやくジルは、
「……
時間も、経歴も、子供達の命も……。
ひたすらに
「
「最初から
それを
カリナは無関心に
好敵手に対する、彼女なりの
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