醒める夢 Chapter.4
現在のロンドン塔内には、人の──
幽然たる迷宮を駆け巡るは、たった
彼自身の足音や装飾具の
「
向かう
広大な空間には、巨大な柱が連なり立っている。細微な装飾意匠が刻まれた支柱だ。柱同士の間に生まれ落ちる暗がりは、
「カリナ捜索は、ペーターに任せるつもりだったのに。そうすれば、彼を安全圏へと逃がす事ができた」
しかし、ペーターは
結果、押し問答の
「一番の理由は、キミも
どちらが我を通すにせよ、口論で時間を浪費するのは
「にしても、いったい何処にいるんだ? カリナ・ノヴェール!
この大広間から捜索を始めて、客室棟──会議室──無数の廊下────普段ならば立ち入り禁止扱いの場所さえも巡るだけ巡り、駆けるだけ駆けた。
焦燥に駆られる中で、まだ行っていない場所を脳内検索する。
と、不意に他者の気配を感じた。
警戒したジョンは、それを探り追って注視する。広間外れの一角だ。
(城内で
緊迫感を噛み締めながら、じっと睨み据え続けた。
コツリコツリと近付いて来る硬い足音。
ややあって大柱間の闇から浮かび上がった正体は、まさしく彼の捜し人に他ならなかった。
「カリナ・ノヴェール!」ようやくの
そこまで用件を
彼を
カリナ・ノヴェールは、その顔を深く
いや、それはいい。
問題なのは、あからさまに見て取れる違和感だった。
ジョンは疑問を
──何故、彼女は、これほどまでの〝
──あの
意識した途端、背筋に戦慄が走る。頬を伝う
彼女の手に下がるのは、抜き身となった深紅の愛剣。
だが、あの
ふと想起する──彼女が現れた方向は、一般吸血鬼の
「カ……カリナ・ノヴェール?」
ようやく絞り出した声が
彼の耳へと返ってきたのは、沈着ながらも冷酷を
「……レマリアが死ぬはずはないんだ」
「レマリア? 何を言って──?」
「……死ぬものかよ。私が守ると誓ったんだからな」
ゆらりゆらりと恐怖が歩み近付いて来た。その虚脱的な
やがてカリナは、ようやく顔を上げた。
「キ……キミ?」
ジョンの戦慄が高まる!
「そうか……キサマか? キサマがレマリアを──」
獲物を見定めた
「う……あ……」
格違いの恐怖に
まるで〈
狂気は
「レマリアは何処だ?」
向けられた質問に
「だ……だから、僕は──!」
「何処にいると──
「うわあああ!」
本能的に身を守ろうとするも、ジョンは
それどころか、
瞬間、頭上を
「ひ……ひい!」
間髪入れぬ幸運であった!
すかさず身を
返す
瞬間的に走る痛み!
しかし、それにかまけている余裕は無い!
死にたくなければ
目指すは眼前に見える大柱!
その間へと構成された暗い門!
広く入り組んだ本城内へと続く逃走経路だ!
(あそこにさえ逃げ込めば、身を隠せるはずだ! 城内には数多くの部屋が在る!)
来訪して日の浅いカリナよりも、自分にこそ
が、理性を
「レマリアを、どうしたァァァーーーー!」
彼女の
それは間合いへ入った対象を容赦なく裂き、大木の如き石柱でさえも鋭く
必死の逃走ながらも、ジョンは背後の敵を分析する。
狂える
(もはや
そう結論着きながらも、やはり逃げきる自信など無い。
それでもジョンは
数秒が数分に感じられ、数メートルが数百メートルにも感じられる!
ようやく目的の空間を眼前までに捕らえた!
後は気力を振り絞って飛び込むだけだ!
(この大広間よりも空間幅は狭いんだ──あの大振りなら思うように振るえないはず!)
思惑を巡らせた瞬間、脚に
「ぐあ?」
その熱が痛みだと認識したと同時に、彼は
「クソ! クソッ!」
忌々しさを込めて傷を押さえた。
目的の逃走経路は目の前だというのに、
体全体を不自然に引き吊り、無駄な
それを哀れなハンデとすら思わず、無慈悲な
「レマリアは何処だ」
また例の謎掛けであった。絶望的だ。
「聞いてくれ、カリナ・ノヴェール! 僕は、その〈
「何処にいる」
空気を裂いて
「ぐぁあ!」
無罪者の悲痛も、自我崩壊した
それでもジョンは訴え続けた。逃走が叶わぬ現状では、それしか身を守る
「聞いてくれ! 君が
「殺したな?」
「な……っ?」
狂気が一層深い闇を
「そうか、キサマがレマリアを殺したんだな! 私の目を盗んでアイツを
「違う! 貯蔵血液こそ
「じゃあ、私の腕で冷たく眠ったアイツの死体は何だ! キサマが殺したんだ! キサマが! だが、いいか!
「カ……カリナ・ノヴェール?」
彼女の主張は、まるで
「もう一度訊く。レマリアは──私の〝あの子〟は、何処だ」
「く……狂っている!」
会話すら成立しない
「何処だぁぁぁーーっ!」
絶叫に振り下ろされる赤い
いよいよ覚悟を決め、ジョンは
理不尽な処刑は──
不確かな違和感を
眼前に
彼と執行人を
「
「……キサマッ!」
忌々しく
狂気に
「
柔らかく
花の微香にミツバチが導かれるように、彼は自然体で〝
深い
「いい臭いがすると思ったんだがなぁ?」
残念そうな口振りながらも、例の如き
「毎日使われてるみてぇだがよ、残念ながら今日は定休日だったかね? ィエッヘッヘッ」
壁や床にこびり付いた
だが、
「最悪だな、ガキばかりかよ? 幼児偏愛癖かねぇ?」
子供を惨殺する外道ぶりが好かない……のではない。そんなセンチな道徳観念など、
「ガキはよ、
腹いせ
「じわじわと拷問で心身共に追い詰め、最後は首の骨ポキリってね」
改めて室内を見渡す。漂う霊気と遺恨から、過去の惨状を見通すためだ。ブードゥー教の〝
「……な~るほどねぇ? 百年戦争の英雄様が、悪癖再発ってトコかぃ?」
「ただ気になるのは、
「プレラーティ──ドロテア──ああ、そういう事か」
「御主人様も
「さてさて、何かおこぼれは無いかねぇ?」
罪無き
と、部屋の一角から妙な
興味を
「なんでぇ? 残りモンがあるじゃねぇか」
息を荒げる未熟な
「あのな、苦しみ
「ハァ……ゼェ……があぢゃ……」
「あらら、
「……がえる……があぢゃ……」
「まったく〈人間〉てのは、しつこいねぇ?
「んん? オマエ──」奇妙な経歴を見付け、ニタリと
「オイ、ガキ。特別に延命魔術を
「……がり……ぁ……」
「ああ、会わせてやらぁな。そうしなきゃ、
どこまでも
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