醒める夢 Chapter.3
どれほどの
ただ、事実を情報へと更新すべく、
「この
A区画──B区画──C区画────行く先々は、
そして、D区画。メアリーにとっても、特別な感情移入が
「やはり、此処も……」
降り立つと本来の姿に戻り、メアリー一世は周囲を展望する。
同じであった。
建物や壁は暴力に崩れ、
「
死体は無い……一体も。
在るはずがなかった。
それこそが敵の欲した〝素材〟であり、襲撃目的なのだから。
「この分では、あの親子も……」
自然と足取りは、例のボロアパートへと向いていた。
辿り着いた懐かしい
軋む音に割れ朽ちた扉を開くと、安っぽいロビーへ足を踏み入れる。
静寂──荒涼とした霊気が、建物内部を
「
階段を登り、
だが、奥に見えた
重い気持ちに立ち入る。
少年の姿は無い。
床に割れ落ちたランタンに面影を思い起こし、そっと卓上へと拾い置いた。
「……不憫な」
幼き身に苦労を
「こほっこほっ」
「っ!」
不意に
隣の部屋──つまり、母親の寝室だ!
ベッドの上に
「
喜びに寄り支える。
「ああ……ああ! リャム様!」
「……そうか、そうであったな」
カリナが
とはいえ
いまは母親の無事が何よりだ。
「リックは、どうされた?」
「うう、あの子は……あの子は!」
母は泣き
そこからメアリーは、少年の末路を察する。
「どうやら遅かったようであるな……許されよ」
再襲撃を予見できなかった
(カーミラ様には盟主として日々追われる責務がある。そして、カリナ殿は客人……居住区管轄の義務は無い。だが、せめて
ひたすらに甘さを
が、母から聞かされたのは、予想外の
「こほっ……あの子は
「何と!」
驚きを隠せない。
敵の目的は〝死体確保〟にある。
なればこそ多くの犠牲者を出しさえすれ、
「
「襲撃の惨状については、私も詳しくは存知ません──何せ病床の身ですから、
「御存知の範囲で構わぬ」
「二日前の事です……リャム様も
(二日前? それではバートリー夫人の
確かに
「老若男女問わず一人残さず殺され、そして、その死体を〝動く死者〟が区画外へと運び出して行きました。私が無事でいられたのは、おそらく此処が〝隠れ部屋〟のような構造だったからでしょう。私はリックと一緒に部屋へと
「では、その時点ではリックも?」
「無事でした。けれど
「この部屋に直接……か?」
「はい。それは前触れも無く、まるで湧き出るかのように部屋の
その容姿と出現経緯から、メアリーは直感する!
(おそらく、カーミラ様から聞き及んでいた〝魔女ドロテア〟に違いあるまい。此処を見つけたのは探知魔法か、
しかし、目的が『死体集め』ならば、何故ゾンビに襲撃させず、
疑問は深まる。
黙考へと
「その者は怯える私達親子を見て、意地悪く薄ら笑いを浮かべました。そして、こう言ったのです──此処にも
「
「最初は意味が分かりませんでした。ただただ死者の襲撃と、目の前の怪異に
「
「どうやら襲撃に乗じて、子供や赤子を
「……なんと心無き暴言よ」
おそらく母は短命を自覚している──だがしかし、
メアリーの胸中に、
「リャム様、どうかカリナ様に御伝え下さい! あの御方なら、きっとリックを御救い下さるはず!
「
「ああ、有り難うございます」
ようやく安心したのか、母親の白い手から力が抜け落ちた。
「これは……」
一瞬、メアリーは違和感を覚える。
半身起こしだった母親の姿は、直後の眠り姿と重なり合って消えた。
まるでフェードアウトするかのように……。
幻視的な感覚ではあった。
そして気付けば、ベッドに横たわっていたのだ。
母親の頬へと、そっと触れてみる。
体温は無い。
「そうであったか……
おそらくメアリーが来る前には亡くなっていた──
それでも息子の身を案じ続け、救いの手を求めていたのだ。
深き母性が縛った
「何も心配する事はない。神は
神に許されぬ〈
優しくも
カーミラは、たゆとう。
無限に広がる赤き波へと……。
鮮血の
もしもそうなったら、はたして主導権を握るのは〝
「フフ……フフフ…………」
思わず細く零れた。
その声音は小悪魔的に愛らしい。
「赤く染まる空か……なんだか懐かしいわね」
旧暦時代に眺めた夕景を想起させる。
愛しい〝ローラ〟と眺めた情景を……。
「
無造作に投げた
頭側に立つ人影へと向けたものである。
カーミラは視線だけを動かし、相手を
それなりの身分を主張している黒いドレスは、しかしながら
不思議な少女ではある。
外見の可憐さとは不釣り合いな
だからこそ、カーミラは親近感を覚える。
永遠の処女性と、悠久を噛み締めた
「ようやく会えたわね、ジェラルダイン──我が血統の
ジェラルダインは何も語らず、ただ淡々と子孫へと
意思の
ジェラルダインの瞳が語り掛け、カーミラが無言の意図を
「ええ、そうだと確信はしていたわ。あの剣を手にした時から。やはりカリナ・ノヴェールは、私と同じ──
アイコンタクトでもテレパシーでもない。
「不思議なものね。
医学的には〈
カーミラとジェラルダインの関係も、それに近しい。
ただし、祖父母などという近親的距離ではない。
「
カーミラ──いや〝
「転生プロセスに
カーミラの結論通り〈
生体的な
純粋に〝
そして、これが
だが、カーミラは
そして、カリナ・ノヴェールもまた、そうした
「
「けれどね、ジェラルダイン。カリナは自分の出生すら知らないのよ。これって奇妙だと思わなくて?
「自分で確かめろ……か。それって意地悪な試練よ?」
意向を
とはいえ、一つだけ確信も
ジェラルダインは
その深い母性に
「
重い気持ちを、目の前に広がる
憎まれるのは
「それは〝
静かに
やがて赤の世界は揺らぎ、
「っ!」
なみなみと
白の
未成熟な
彼女専用の
「此処は……」瞬間的な
「カーミラ様! 御無事で!」
聞き慣れた声が
「メアリー?」
「心配致しました。発見した時は、
「では、これは
「はい。調査から帰ってみると、血の海に倒れる
「そう……心配を掛けたわね」
淡い
装束を用意するメアリーが、事の真相を
「それにしても、いったい何があったのですか?」
「
手伝われながら
「
「逆に
「カーミラ様相手に誰が? よもや、カリナ殿が?」
「いいえ、ジル・ド・レ卿です」
「ジル・ド・レ卿? まさか?」
「本当よ。もっとも油断を突かれた形ではあるけれど」
事実を伝えながらも、カーミラの胸中には
(何故、ジル・ド・レ卿は
腹部を
そして、無抵抗と
にも関わらず、何故?
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