白と黒の調べ Chapter.5
シティ居住区は、いままさに地獄絵図と化していた!
その大虐殺のパノラマを、屋根の上から
「ホホホホホ……見事!
「
「いや、充分であろう」
「エリザベート様?」
「
(チィ、
「
その
現状、彼女は自分を〈神〉の如く
それを熱に照らす
眼下に黒く広がる
忠実なる不死の
その圧倒的な侵攻力に、吸血妃は高らかな
「アハハハハ! アハハハハハハ!」
と、その光景に違和感を覚えた。
「……何だ?」
視界の
それは
毒々しくも
「ア……
彼女の目に飛び込んできたのは、反逆の
「……カーミラ・カルンスタインッッッ!」
憎むべき敵の姿を認識し、忌々しく唇を噛んだ。
距離にして三〇メートル程離れている。
にも関わらずエリザベートは、確実に憎悪の対象を認識していた。
それは吸血鬼特有の超視力による部分も大きいだろう。しかし、それ以上に彼女の執着的呪怨が、それほどまでに強いという立証でもある。
一方で
(アレはカーミラ・カルンスタインに、カリナ・ノヴェール? 何故、
全く
エリザベートにゾンビに自分……これだけの戦力では、
(此処は一時
取り敢えずのテストは上々の結果であった。これ以上、無理を敷く必要はない。否、
「エリザベート様、一時撤退を……」
「ならん!」
「エリザベート様?」
ドロテアが困惑に
憎悪に
彼女の薄っぺらい自尊心には、もはや、それしか映ってはいない。
「フン……考えてみれば、これは
「此処は撤退の選択が英断かと!
「いいや、
「し……しかし!」
「案ずるでない。要は確実に
(ええい! その実力がキサマには無いと言っている!)
ドロテアは
ここにきて〝
そして、虚栄と過信に支配された人形は、もはや彼女にもコントロール出来る
「続け! ドロテアよ!」
紫の
その姿は、まるで血に
「……誰が行くかよ、馬鹿が」
ドロテアは隠していた本性を
争乱の火祭へと呑まれていく
「あの
「計画を見直さねばならんか」
魔女が指を鳴らすと、数体のゾンビが静かに撤退した。
カーミラも──カリナも──エリザベートも────。
「悪く思うなよ、エリザベート・バートリー。少しでも
損失した
問題なのは、エリザベートに代わる戦場の
現状、それは〝
虚栄心の
「保険を掛けておいて良かったよ」
冷酷に言い残してドロテアは
そして、魔女は闇へと
しかし、
「何なの? 頭を
実際のところ、首だけではなかった。四肢を斬り離しても死体は停止しない。それどころか、地に落ちた部位が分裂派生した別生物のように
転がる部位を細分化に斬り捨て、カリナが平然と
「
「わたし達〈吸血鬼〉に近しい性質ってわけね──認めたくはないけれど」軽く不快感を含んだカーミラは、
「
「なるほどね」
「手首は炎にでもくべてやれ。この部位だけは、乱戦下で
本来ならば多勢に無勢の
さりとも〈
その時、
「カァァァミラ・カルンスタイィィィン!」
凄まじい突風を発生させる奇襲!
次の瞬間には、抵抗
「きゃあ!」
「カーミラ!」
だがしかし、彼女の
取り巻くゾンビ共が足止めとなっていたからだ!
「ぞろぞろと……っ! どけぇぇぇぇぇ!」取り囲む首を
こうなると、武功の欲を出して先行していたのが
ややあって、
「大丈夫よ、カリナ。ちょっと油断しただけ……」
その一方で、彼女は失念の軽率さを噛んだ。
つまり、背後に当然潜んでいる黒幕の存在を。
(並の吸血鬼ならば、四肢が
左腕が鈍く
奇襲に
それは
臨戦体勢に気持ちを切り替え、カーミラは頭上に滞空する奇襲人物を
黒い
「ホホホ……
「エリザベート・バートリー?」
「〝
鋭利な
この部位を狙ったのが、
「クッ!」
「本来ならば、いま少しは軍勢の育成に集中すべき時期であったが……キサマが
「軍勢?」
「
「では、この惨状は
胸中に芽吹く悲嘆と
確かに強健派が現状の政策方針を
一方で、己の統制力が絶対的だと
だからこそ、自身が
が、結局それは過信に過ぎなかったのかもしれない──カリナが
その証明が組織末端たる衛兵吸血鬼の腐敗であり、我が身を襲った現在の苦境だ。
それでもカーミラは
「禁じたはずです! 人間を
「
「
「エリザベート・バートリー!」
まさか〝
盟主としての立場上、
(できれば、戦いたくはないけれど……)
だからこそ、それを共感に置き換えようとしてきた。
それに対してエリザベートは、意固地なまでに敵意へと転化している。
この平行線は決して
「何故、このような愚考を!」
「
「部外者の私に振るなよ」
「フン、
「ああ、
背後から襲ってきた
カリナは鼻で笑い、
「アレは、こう思ったのさ──『
「なっ?」
「いまの一体が最後か。もはや
そのまま手近な
「おい、カーミラ」
「何かしら? カリナ・ノヴェール?」
左腕が
隠した異変に気付いたか──
「今回の
「え?」
一瞬、カーミラは耳を
思わず傍観者を
あの
しかし、
無言の真意を
「……そうね。それが、わたしの責務ですものね」
己への
「ええい、
わなわなとした怒りに震える吸血妃。
全く
「ドロテア!」
だが、返事は無い。
「……何故だ? 何故、返事をせぬ! ドロテアよ!」
「ま……まさか、
受け入れ
生前から目に掛けてきた飼い犬は、最大の勝負処に来て飼い主の手を噛んだのだ!
「エリザベート・バートリー!」
凛然とした呼び掛けが、
視線を向ける先には、滞空に立つ白い麗姿。
「不本意な形ではありますが、決着を着けましょう」
両手に
その立ち位置は、いまや対等だ!
巨眼の
その流れが繰り返されていた。
「まるで磁石だな」地上で傍観するカリナは
背後の
空間に現れたのは、彼女が
「ィエッヘッヘッ……どうにも食欲をそそる
「まさか、この惨状はキサマの
「冗談よせやィ! なんでオレが〝不死〟なんかを生産しなきゃならねぇんだよ? おまんま喰い上げになっちまわァ!」
「確かにな」
ゲデの
ともすれば、必然的に〝
つまり、
「こりゃまた珍しい見せ物だ。
「そんな
「ま、オレとしては、どうでもいい事ですがね?」簡単に興味を失うと、ゲデは周囲に散らばる
「確かデッドと違って、ゾンビには〝
天空の決闘に見入りながら、カリナが
「まぁな。けどよ、オレ様が
「ズンビー?」
相変わらず、顔すら向けずに
「ブードゥー精霊のひとつ──要は〝
「ゾンビ発生の根源ってトコか」
「ソイツが解放されねぇまま切り刻まれたモンだから、
と、ゲデは
「ん? コイツは〝
「何?」
興味深い発言に、初めてゲデを
「ああっと……厳密に言やぁ
「なるほどな」
(プロセス的に〈ゾンビ〉は〝
冷静に分析しながらも、
「……ドロテアか」
白と紫の衝突は
「この小娘がぁぁぁあああっ!」
エリザベートが
四指の爪は鋭利な
その挙動を瞬時に読んだ白い影は、またも大きな
「チィ……ちょこまかと!」
エリザベートの攻撃は、
カーミラとの交戦で厄介だったのは、その縦横無尽な軌道取りだ。目線上にいたかと思えば、次の瞬間には降下して足下から迫る。かと思えば、その警戒を先読みしたかのように頭上から降ってきた。
そうした変幻自在な出現術から繰り出される
それらを
が、あくまでも劣勢な感は
その自覚があればこそ、彼女自身の
「ええい! 忌々しい
専用の武器を有さない自身の戦闘スタイルが、これほど
カーミラには
一方で、自分やメアリーのような〝非武闘派〟には、そうした武器を所有しない者も珍しくはない。
そもそも〈吸血鬼〉は、存在そのものが
しかし、エリザベートは
(考えよ! 何か策は有るはずだ!)
四方八方から繰り出される
しかも、今回のカーミラは両手持ちだ!
それだけ、彼女も本気ということだろう。
対するエリザベートは
防御に徹しながらも、
とはいえ、休まぬ攻撃が
またも繰り出される
と、
(二:一……三:一……二:一…………)
黙視に数える。
(二:一……二:一……四:一…………)
ひたすら
それが確信へと変わった瞬間、彼女はニィと邪笑を含んだ。
エリザベートがカウントしていたのは、カーミラから繰り出される手数の左右比率!
そして、それは確実に左手数の少なさを刻んでいた!
間違いなくカーミラ・カルンスタインは、左腕にハンデを
(二:一……三:一……二:いまだ!)
自身の左腕を犠牲として、定期的に繰り出された
それは細腕を軸として絡みつき、細かく鋭い
だが、それだけの
「
「きゃあ!」
姿を
その一撃が
「かふっ!」
小さく
しかしながら、それはエリザベートが
「チィ!」
思わず
「実戦
されど、
すぐさま
優勢に酔いしれ、無力化した小鳥の耳元で
「手を焼かせおって……だが、
「クッ!」
清廉が
純白ドレスの腹部を鮮血が真っ赤に染め濡らす。その清らかな
いずれにせよ、エリザベートは異常な興奮に酔った。自制の効かぬ加虐心が頭を
「ぅああああああっ!」
「アハハハハ! 心地よいぞ! 夢にまで見たキサマの苦悶、実に心地よい! アハハハハハハハハ!」
「っい! ……ぅああああああああ!」
「アハハハハアハハハハハハアハハハハハハハハ!」
実感した勝利に酔い、
と、その反響に
「フ……フフ…………」
「な……なんだ?」
耳に届いた静かな笑い声は、
「フフフ……そうね。これだけ密着すれば、
「な……何を笑っている? それが判っていながら、
「いい事? エリザベート・バートリー? わたしが逃げられないという事はね、同時に
一瞬、エリザベートは
冷ややかな
次の瞬間、カーミラの眼前に紅い光が短く伸び生える!
それは一振りの
「何?」
予想外の
そこには、頭上へと愛剣を
一方、
短く生まれた
(な……何? この魔剣?)
(まるで捕食!
沈黙のまま暴れる魔剣は、寄生するが如く彼女の内へと侵入してくる。
肉体的にではない。
宿主の存在そのものを取り込まんとする暴力的な支配意思だ!
(なんて魔剣! こんな化物をカリナは……!)
ひたすらに
いま、カーミラの精神は現実世界にない。
その
(このままでは
気高き意志を精神抵抗の
だが、彼女が抵抗を示せば示すほど、
(おとなしく
祖先の名と
その直後、背後から優しき
ひたすらに穏やかで柔らかな
しかし、伝わってくる
(これは……ジェラルダイン?)
確証はない。
それでも、確信は
姿無き存在からの
たじろぐ
と、カーミラは奇妙な違和感を
(え? これは?)
敵の中核に〝
しかも、それは自身に
(そう……そうだったの……この魔剣は……)
それは彼女の精神世界を
赤き鉄砲水が鎮まり引いていく。
鮮血に
まるで何事も無かったかのように……。
カーミラは、そこに
──風に
──草木と揺らぐが如く。
──大海に波とたゆとうが如く。
ただ
ただ、それだけ。
やがて、静かに
精神世界での攻防は、時間にして
魔剣への
そして、
「がぁぁぁああああ!」
「く……ぁ!」
激痛の共有!
ようやくエリザベートは
左腕は
「よくも……キサマ
忌々しく
「グ……アアアァァァ!」
通常の剣なら──
しかし、カリナ・ノヴェールの愛剣は、相当に強力な魔剣であった。まるで
もはや
────
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