第104話 三角関係に参画するのは誰?
「あー。ところで、オットーはどうなったんだ?」
俺は誤魔化すように聞いてみた。まあ、答えは聞くまでもないんだが。
「うむ。土に還った」
そう返事するティルミットの顔色が悪い。
「そなたは意識がなくて良かったのう。我は当分夢に見そうじゃ」
口に手を当てるティルミット。こっちはくしゃみじゃなくて嘔吐をこらえようとしているようだ。
「あんまり苦しみはしなかったんじゃないかしら。私ならあんなに簡単に楽にはさせないわ。ヤマダを撃つように指示を出さざるを得ない立場にさせられたんだもの」
「じゃあ、山崎が?」
「アタシは手下の4人だけだ。アタシが山田の側に来たときはもうオットーはミンチになっちゃってたからね」
「え? じゃあ、ティルミットが?」
「そんなことを我ができるわけはなかろう。我はお主の蘇生に忙しかったしの」
「じゃあ……、まさか、サーティスがか?」
なんだ、意外に仲間想いの熱い奴だったんだな。
「そうじゃ、持っている矢を全てオットーに叩き込んだ上に、虫の息のあやつを小剣で切り刻んで……。うっ」
「すごかったわよ。よくも僕に愛しい人を手にかけさせたなあっ! ってね。完全に逆上状態で。山田の命に別条がないと分かった途端にすがりついてわんわん泣き出して、ヤマザキに引きはがされてたしさ」
え? 愛しい人? 誰が?
シュトレーセは満面の笑顔で言った。
「ヤマダのことを好きなんだって。一目見た時からずっとね。ヤマダに対して態度が冷たかったわけじゃなくて恥ずかしかったみたいよ」
サーティスの方を見ると真っ赤になっている。まるで熟れたトマトのようになりながら上目づかいで俺のことを見ていた。
「え、えーと」
俺はどう反応していいのか困ってしまう。そんな俺の腕をぐっと果音が掴んだ。
「サーティス。そんな顔したって駄目だからな」
「だって、前にヤマダは友達だと……」
「そうだっけ? アタシは友達以上と言ったつもりだったんだけどな」
「友達以上……ですか?」
「そうそう。恋人未満ってこと。あともう一息ってところなんだけどねえ。割といい線いってるとは思うんだ。だけど、山田はすぐ死にかけるって特技があってさ。やっぱり恋人には死なれたくないだろ?」
「で、でも、前に『アタシが合図したら躊躇わずにヤマダを撃て』って言ってたじゃないですか。大事な相手をヤマザキは撃つように言うんですか?」
「もちろん。前に約束したんだ。『もし、俺が人質に取られたら、その時は遠慮せず俺を見捨ててくれ』ってな。山田の頼みだから守るに決まってんだろ」
相変わらず男前すぎる果音にサーティスは言葉が出ない。無理もない。当の俺だって、果音の口から流れ出る言葉に心臓が跳ねまくってるんだから。山田の頼みだから守るに決まってんだろ。これ以上の言葉はない。
「ということでさ、山田は予約済みってことで諦めな」
「そんなの諦められるわけがないじゃないですか。人を、しかも男性を好きになったなんて知られたらどうなることか。でも、僕は覚悟を決めたんです。僕はヤマダさんが好きです。どうしてもヤマダさんが欲しいんだっ!!」
握りこぶしを作って絶叫するサーティス。一人称が僕になっていた。実は僕っ娘ってことは、ねえよなあ。
いやあ、まさか俺が三角関係の当事者となるとは、世の中は驚きに満ちている。果音を取り合ってというなら分からなくもない。果音の口から俺が恋人未満でイイ腺いっていると言われているだけで奇跡のようなもんだが、その果音に真剣に惚れる奴がいて果音が迷っても不思議じゃない。まあ、果音はそんなに器用じゃねえか。
ただなあ。なんで俺なんだよ? なんの取柄もないおっさんだぞ。
「ヤマダさんはどうですか? 男の僕がヤマダさんのことを好きと言って気持ち悪いですか? 僕がヤマダさんを好きになるのはいけないことですか? そうならそうと言ってください。ヤマダさんが嫌なら、僕も……」
「いや。別に気持ち悪いとかそうじゃなくてだな。というか、誰かが誰かを好きになるのはそれこそ好きにすればいい話で……」
俺はしどろもどろで言う。
「でも、俺は山崎のことが好きだから。すまんな」
「じゃあ、僕のことを嫌いなわけじゃないんですね」
「ああ、うん」
すぐ横で果音が口の中でつぶやく。
「嫌いだと言ってやった方が楽なのに」
「別に今すぐとは言いません。まだ可能性があると分かっただけでいいです。僕だって、ヤマダさんを奪うつもりはないんです。少しだけでいいから、僕にもヤマダさんの愛を分けてもらえるだけでいい」
「悪いけどアタシは山田をシェアするつもりはないんだ。だから山田の行動を制限してるのさ。その中には他の女に手を出すな、ってのも入ってるわけ。今後は男も加えなきゃな」
「僕もヤマザキさんの立場ならそう言うでしょうから文句はいいません。ただ、僕も諦めませんよ、絶対に。それに言っておきますけど、ヤマダさんを狙ってるのは僕だけじゃないですからね。大切にしないと失ってからじゃ手遅れなんですから」
果音はニコリと笑って言った。
「そんなことは分かってるさ」
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