第105話 下問するのでカモーン
ホローの村に戻ってみると状況は一変していた。色とりどりの旗が翻り、揃いの鎧に身を固めた戦士たちが周囲を警戒している。ローブ姿の男女も多数いた。そして、落ちかける夕日を受けて輝く頭を振りたてながら、マッチョなおっさんが駆け寄ってきた。
「おお、ヤマダ伯。今戻られたところかな?」
やたらに威勢が良く元気なカハッドさんが上機嫌で俺を出迎える。色んな意味で疲労していた俺は力なく頷いた。
「貴公らをそこまで疲れさせるとは、敵もなかなかやるようですな。これは気を引き締めねば」
「まあ、今日は色々ありましてね」
「色々とは?」
「味方だと思っていた一団の裏切りにあったんですよ」
俺の声ににじむ疲労に気づいたのだろう、意外と簡単に別れを告げた。
「これは失礼した。相当お疲れのようだ。ではまた別の機会に」
カハッド神官が礼をして去って行ったと思ったら、イーワル男爵が俺を見つけて駆け寄ってくる。一難去ってまた一難。
「ヤマダ様。こちらにいらっしゃいましたか。お疲れのようで申し訳ありませんが、ついて来ていただけませんか?」
「イーワル殿。どうされたのですか?」
「ああ。ヤマダ伯が戻り次第、陛下の元にお連れするように言われているのです」
「陛下?」
「はい。王城でのうのうと知らせを待つだけなのは嫌だと仰られて、この地までお出でになっています」
マジかよ。もう今日は寝たいんだけど。しかし、上司の呼び出しとあれば参上せねばなるまい。はあ。一つ溜息をつくとイーワルに従って歩き始めた。
「申し訳ありません。お疲れのようなのに」
「宮仕えの身ですから仕方ないですね」
村の広場には巨大な天幕が出来ていた。そこへイーワル男爵が案内する。ナルサス尊師が出迎えて相好を崩した。あれ? 前はあまり俺に対して良い感情は抱いていなそうだったけど。
「おお。ヤマダ殿。戻られたか。陛下が首を長くしてお待ちだ」
「陛下が私に何の用です?」
「さあ。私も聞いていないので何とも。とりあえず戻り次第お連れするようにとしか聞いてないですな」
部屋に入ろうとすると警備の兵士とひと悶着があった。
「他の者はここで待て」
「武器を置いて行けばいいんだろ? アタシもついて行く」
今日の出来事で気が立っていたのだろう、果音が我を張った。
「ヤマダ伯をお通ししろとしか聞いておらん。駄目だ」
「なにもアンタの許しを乞おうとは思わないよ。アタシは山田と一緒に行く。そうじゃなきゃ一緒にここから出て行くからね」
「山崎。落ち着けって。挨拶したらすぐ戻って来るから。何も心配することなんてないから」
俺は必死に果音を宥めようとするが珍しく全く聞き入れようとはしない。わいわいやっていると中から声がした。
「構わぬから、お通しするようにとの王の仰せだ」
この声はナルフェン公か? ようやく兵士が道を開けた。
「いってらっしゃい」
シュトレーセはクッションの上で寝そべっていた。ティルミットも同様に身を埋めている。サーティスは逡巡したようだが結局とどまった。
俺は果音を伴って入口をくぐり、ナルサス尊師が後ろに続く。ナルフェン公と他に偉そうなのが2人、それと椅子に座ったシュターツ王がいた。
「ヤマダ伯。此度もご苦労だった」
ナルフェン公が口を開く。
「いえ。陛下のお役に立てましたなら何よりでございます」
俺は膝をついて挨拶をする。もう何をするのも億劫なほどに疲れていた。
「色々と報告して欲しいことがあるが、まずは貴公を労うのが先だとの陛下の有難いお言葉だ。こちらへ参られよ」
俺と果音は別の部屋に案内される。以前、シュターツ王と二人で会ったのと似たり寄ったりの部屋だ。二人で会ったとか言うと変な誤解を受けそうだな。サーティスのせいか変なことを考える。女官が来て軽食と飲み物を置いていく。腹も減っていたので遠慮せず頂いた。変わった味の物だったが疲労が回復するのを感じる。
「疲れているのにごめんね」
気がつくとシュターツ王が部屋の中にいた。俺が畏まろうとするのを押し止める。
「だから、ここではいいんだってば。他に人も居ないんだし」
「なあ、山田。こいつ本当に王様か?」
俺が慌てて山崎を止めようとするが、シュターツ王はアハハと笑いを漏らす。
「いっつも僕を睨んでるお姉さんだね」
「どうやら本物みたいだな」
「そんな顔しないでよ。ヤマダにどうしても聞きたいことがあってさ。終わったらすぐに引き上げてもらうから」
「陛下、なんでしょうか?」
「あのさ。僕は自分じゃ何もできないけど、じっとしてられなくてここまで来るって言い張ったんだ。それって単なる我儘かな?」
俺はじっと考える。
「我儘でしょう。陛下の身に危険が及ぶ可能性が高くなるわけですから」
シュターツ王は唇を尖らせる。褒めてもらえると期待していたのかもしれない。
「私は今日人質にされかけました」
シュターツ王は息をのむ。
「幸い仲間たちの機転でこのように再びお目にかかれておりますが、一つ間違えば大変なことになっていたでしょう。陛下も歯がゆいことがおありでしょうが、そこは我慢することです。それが王たる者の勤めかと」
がっかりした顔の王を見ていると少し言い過ぎたと反省する。
「まあ、ナルフェン公が許されたのであればそれほど気に病まれることはないでしょう。陛下が前線に出られることで士気が上がる面もありますから」
「そうだといいのだけど。正直な意見を聞きたいからヤマダを呼んだのに、期待した答えじゃないからって拗ねてたら意味がないね。ありがとう」
「ご不快にさせて申し訳ありません」
「ううん。これは僕が悪いんだ。もっと話を聞きたいけど、疲れているよね。また今度にする。今夜はゆっくり休んでね」
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