第70話 変化して見る自分の姿はやっぱり変。げんなり
「くそ。貴様か。とぼけた冴えないツラのくせに我が計画をことごとく邪魔してくれたのは!」
目の前にいるのは、カードラとかいう不幸なおじさんとしょぼくれた顔をした俺。俺は縄で後ろ手に縛られている。
何を言ってるのかさっぱり分からないと思うが、答えは簡単だ。我らのパーティで一番の防御力と魔法耐性を誇る重戦車にゃんこシュトレーセが、
カードラを罠にかけるため、俺を捕えて来たと見せかけることになっていたのだが、なにせ相手が相手である。いきなり呪文をぶっ放されては俺では対処できない。それで、シュトレーセが代役をかって出たというわけだ。もともと魔法抵抗力が高い上に、クァリロン女王配下の総出で防御魔法だの、抵抗魔法だのを重ね掛けしている。
本来であれば、全身が光り輝いているぐらい魔法の支援を受けているのだが、それすらも覆い隠してしまうのが、クァリロン女王が貸与してくれた変化の杖だった。そのお陰で、シュトレーセは冴えない男の姿を晒している。まあ、面と向かってとぼけた冴えないツラとか言われるとちょっと凹むけど、明確な否定もなかなか難しい。
カードラが呪文を唱えると両手の先に黒いスイカ大の玉が生成される。表面には深緑の線が走り見るからに健康に良くなさそうな感じだ。
「これでも食らえッ!」
その声と共に、玉がニセ俺に向かって飛んでいく。
「これで貴様は我が人形になり果てるのだ」
え、やだ。このおじさんエッチ。人形にしたらあんなことやこんなことをするつもりなのね。なんてイヤラシイ。黒い玉はニセ俺にぶつかりシュッと消え失せる。
「なんだとぉ!?」
焦るカードラ。語尾が上がりまくっている。
「えーい。こうなったら、もういい。手駒とするのはやめだ。貴様の存在を消し去ってくれるわ」
矢継ぎ早に呪文を唱えるカードラ。ぷっつんしてしまったらしい。炎だとか、氷雪だとか、稲妻だとかがニセ俺に降り注ぐ。ちょっとシュトレーセが心配になってきた。予定よりちょっと早いが作戦開始だ。
身なりのいい顧問の格好をした俺が両手をあげると、蜥蜴人の兵士Aがカードラに向かって走り出す。ぬかるみの上でも軽快な走り、もちろん中身は果音だ。手にしていた槍を目にも止まらぬ速さで繰り出す。兵士Bが呪文を唱えるとニセ俺の手を縛っていた縄がハラリと落ちて同じようにカードラに向かって走り出した。
呪文を唱え過ぎていた為か肩で息をしていたカードラは慌てて剣を引き抜き応戦しようとするが、魔法の力はともかく、接近戦を仕掛けられては分が悪い。たちまち果音に対して防戦一方になっているところを後ろから強烈な蹴りが襲う。腰を蹴られて逆くの字になりながら前に飛び出したカードラの体は果音の構える槍に自ら体を差し出すようにして串刺しになった。
槍の刺さった腹に手を当て苦悶の声を上げながらカードラは叫ぶ。
「陛下。道半ばで申し訳ありません。せめてこやつらの一人でも……」
「ヤマザキ。下がるのじゃ」
ティルミットの声に果音は槍を放してバックステップする。
果音を諦めて振り返りニセ俺に血だらけの手で掴みかかろうとしたカードラを落石が襲う。一つ目が顔を砕き、二つ目が沼に打ち倒した。カードラの手が触れた場所から紫煙があがる。スススと近づいた兵士Bことティルミットが祈りを捧げた。
「我が主、トルソーよ。その御業にて邪なる力を清め給え」
ティルミットの手が青く輝きだし眩い光の雲が紫煙と拮抗する。あー、アレはやばい感じだ。もうカードラは息絶えたはずなのにティルミットの作る光の雲が押されている。命を代償としている分、効果が強いのだろう。あの手が触れている部分のぬかるみが泡立ち毒々しい煙を上げている。
果音が俺の側に戻ってくると話しかけてくる。
「なあ、山田。アレはヤバいよな。このままティルミットが押し負けたら大変なことになる気がする」
シュトレーセもそれに同調した。
「ヤマザキの言う通りだと私も思うわ。なんとかしないと」
俺にそっくりの姿をした人間が女性言葉で話す姿を見るのは変な気分だった。ケツの辺りがむず痒い。
「とは言ってもなあ。あれは素人がどうこうできる代物とは思えないんだが。ティルミットがどうしようもないなら……」
カードラの遺体の側にぷかりと魚の骨が浮かび上がる。紫色に変色してねじけていた。
「とか言ってる場合じゃないな。あいつ、この辺一体を死の沼にするつもりみたいだ」
俺達4人の白骨死体が沼地に転がる幻覚が見える。ぶるぶる。頭を振ってろくでも無い想像を追い払った。俺は二人をチラリと見る。
「なあ。もし、ダメだったら、二人は逃げてくれよな」
「ちょっと、山田!」
果音の悲鳴に近い声を無視し精神を集中して言葉を紡ぐ。
「向こうの呪いを無効化する」
る、の言葉を言い終わるかどうかと同時に俺の体に激痛が走って意識がブラックアウトした。
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