第69話 蛙が孵る
「ちょっといいですか?」
俺はクァリロン女王に声をかける。これから何か凄い魔法が使われるかと期待していた連中がガクっとなった。
「妾に何か用カエ?」
「ええ。もし、私が無事にお子さんを産まれさせることが出来たらどうなるのでしょう?」
「もちろん、そなたに感謝し、厚く遇するゾヨ」
「女王様の口から出た言葉、翻されることはないと存じます。私も安心して魔法を唱えられます」
恩賞をせびっているような感じがするが、これは大事な事なんだ。では、もったいぶらずにこの事件を解決しましょう。俺は声を整え厳かに言う。
「カエルが孵る!」
俺の言葉と共に卵がパチンと割れて、中から30センチほどのオタマジャクシが出てきて元気よく泳ぎだす。クァリロン女王は大きな目から大粒の涙を流しながら服が濡れるのも厭わずにオタマジャクシにそっと手を差し伸べた。オタマジャクシの表面をそっと撫で、頬ずりをする。
「おおお。可愛い妾の息子」
「良かったわねえ」
シュトレーセがクァリロン女王の背中をそっとなでていた。果音も神妙な顔をしている。周囲から徐々に歓びの声が漏れ始めた。
「王子の誕生だ」
「ばんざーい。我らが女王に神の恩寵のあらんことを」
「良かった。良かった。無事に王子が……」
「これで我らも安心できる」
そういう喜びの場面に相応しくない刺々しい声が響く。
「女王陛下。やっと分かりましたぞ。王子の……」
顧問が言いかけたが最後まで言葉を続けることができなかった。ドサリと顧問は倒れる。その後ろにいたのは果音だった。
「言うに事欠いてアタシ達を犯人呼ばわりかい?」
「どういうことなのジャ?」
目をパチパチとさせるクァリロン女王。
「先ほどの女王様の厚く遇するとのご好意に甘えまして、暫しのお時間を頂戴いたします」
「その者が王子へ呪いをかける手引きなり協力をしたのじゃ。それが露見しそうになったので我らに擦り付けようとしたというところかの」
俺が続けて説明する。
「この者は私の仲間に制止されなければこう言ったはずです。呪いをかけたのはこの魔術師、つまり私だとね。呪いを解けたのはかけた本人だからとでも言うつもりだったのでしょう」
クァリロン女王は俺をじっと見ていた。
「でもおかしいんです。ジャレーでは私は治癒魔法を使っていませんし、そのことを話してもいません。なんで、あの者は私が治癒魔法も使える魔術師だと知っていたのでしょうか?」
「そう。知っていたのはトルソー神殿におる者だけじゃ。そして、トルソー神殿を襲撃した者も知っておるじゃろう。その者がこの地に潜んで、その者に吹き込んだのであろうな」
「なぜ、そのような回りくどい事をしたノジャ?」
「まあ、うまい手だと考えたのじゃろうな。一つには我らと女王の間を裂くことができ仇敵とすることができる。二つにはヤマダを捕えさせることもできる。しかも何も事情を知らぬ女王陛下の手によって。まあ、よほど呪いに自信があったのじゃろう」
俺は慇懃に頭を下げる。
「微力ながら女王様のお役に立てたのであれば幸いです。先ほど厚かましい発言をいたしましたが、それは私達への疑いを解く時間を頂くためのもの。それ以上の望みはございません。我らは下がってよろしいでしょうか?」
「もちろん。ゆるりと休まれよ。また、日を改めて引見するゾエ」
女王の許しを得たので、俺達はひと塊になって退出して、元居た部屋に戻った。
「やっぱり、ヤマダは凄いわねえ。親子の対面を見て、ちょっと涙が出ちゃった」
「うむ。あの強力な呪いをものともせず、しかも反動も抑えるとはな」
「ホントウだ。すごい魔法だったね」
約1名すごい棒読みのセリフの方がいるけど気づかないふりをしよう。
「しかし、あの場では言わなかったが、あの呪いをかけたのは……」
「えーと、名前忘れちゃった。黒づくめのカーなんとかさんですかね?」
「カードラじゃ」
「そうそう、その人」
「まあ、そうじゃろうな。手の込んだ仕掛けといい、強力な呪いといい、まず、あやつの仕業とみていいじゃろう。それに徹底的に運が悪い点もな」
そういってティルミットはくつくつと笑う。
「自分の手駒に余計なことをしゃべられて警戒されるとはのう」
「そういえば、前にも不幸だとか言ってましたね。」
「へえ。あと一歩手が及ばずって典型的な悪役だね。御気の毒」
「ヤマザキには言われたくないんじゃないかしらね」
「アタシが何かした?」
「いや、一杯してるだろ。首無し騎士に止め刺したのも、あの顧問を気絶させたのも全部山崎じゃないか」
「んー。そうだったっけ?」
これはひどい。カードラにとっては歩くマーフィーの法則だ。俺は自発的に意識して妨害している認識はあるけど果音は無意識なのがタチが悪い。
「まあ、あやつもこの近くに潜んでおることじゃろう。ここは一つ女王に頼んで助力してもらいカードラめを倒すことにしようかの」
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