第66話 泡に包まれ、慌てる
「とまレ」
三叉の槍を構えた蜥蜴人が警告の声と共に俺達の行方を阻む。俺達は両腕を組んで腕組みをして見せる。偉そうだがティルミットが言うにはこれが害意の無いことを表すジェスチャーだそうだ。
「陸上人が何のヨウダ?」
「ジャレーから友好のために来ました。女王にお会いしたい」
「今までお互いに関わりを持たずにきたのにナゼダ?」
「かといって敵対してきたわけではないでしょう?」
「名をキコウ?」
「シュターツ王に仕える宮廷魔術師のヤマダです」
俺は残りの仲間も紹介し改めて取次を頼む。沼地の真ん中で特に何もない場所だった。ティルミットに言われて来てみたが、特に何かがあるようには見えない。まあ、警備の兵士は居るわけだが。
兵士の一人が離れ、そこの木の管に向かって何かを言う。しばらくすると戻って来た。
「いいだロウ。今から案内スル」
兵士に連れて行かれたのは沼の縁。こんなところで何をするんだ、と思っていたら、水の中から大きな泡がプカリと浮き上がってきた。
泡の表面は虹色に渦を巻いている。その表面の一部が開いた。
「中へドウゾ」
ティルミットはスタスタと入っていく。シュトレーセが続き、果音も入った。俺もおっかなびっくり中に入る。兵士が一人俺について入って来ると入口らしきものが塞がる。
すると泡はゆっくりと沈み始めた。最初の内こそ光が届いていたがすぐに真っ暗闇に包まれる。
「少しの間です。ご辛抱クダサイ」
「ああ。分かった」
声に怯えが出ないようにするのに苦労する。何かが俺の両手に触れてぎゅっと握った。この力強い感じはシュトレーセか。反対のこの手の感じは果音のグローブ? やべ。二人には俺がビクついているのがバレてるみたいだ。まあいいや。この暖かい温もりはうれしい。
沈む感じが無くなってしばらくすると今度は浮上する感覚が伝わってくる。そして、徐々に明るくなってきたと思うと急に眩い光が溢れた。二人の手が離れる。長い間暗い所に居たので急に明るくなり周囲が良く見えない。少しずつ薄目を開けてみる。光に慣れると巨大な天蓋に覆われた空間に俺達は居た。
「アーカンルムにようこそ」
俺達を案内してきた兵士が言う。気が付くと泡の表面が一部開いていた。ティルミットは早速外に出ている。俺も好奇心から外へ飛び出した。
木と柔らかい土のようなものでできた道が縦横に走り、無数の家があった。天蓋は白い光を放っている。最初に感じたほど眩しくはない。道を歩いているのは様々な姿をベースにした2足歩行をする生き物だった。蜥蜴や蛇、蛙に似ているが目には知性の光が宿っている。
突然現れた彼らからすれば異形の俺達を見ても慌てる様子はなく悠然と歩いている。不思議な光沢を持つ服を着ており、首から何らかの装身具を下げていた。身なりは豊かそうで、兵士らしきものを除けば武装している者の姿は珍しい。俺達は別の兵士に引き渡され、道を進んで行く。
やがて、樹木の生い茂る一角に通される。そこには高さこそないが壮麗な建物が建っていた。美しい彫刻が施された柱は、明るく彩色され、所々は金色や銀色の光を放っている。
その建物の中へ俺達は案内されて入っていく。まさか沼の中にこのような空間が広がっているとは想像していなかった俺は先ほどから顎が下がりっぱなしだ。ティルミットを除く2人も似たような表情をして、あちこちに視線を送っている。
「なあ、鳥がいるぜ」
「ああ、そうだな」
「ここは水の中だよな?」
「ああ、そうだと……思う」
廊下を進んで行き、兵士の守る入口の前まで進む。
「申し訳ありませんが、武器はこちらで預からせてモライマス」
ギョロリとした大きな眼を持つ蛙のような姿をした兵士が言った。逆に今まで武器を携行させていたことが驚きだ。
指定された棚に俺達は斧や杖、ワンドなどを置いていく。
「責任を持って預かりますのでご安心ヲ。では、どうぞ、こちらヘ。我らが女王の元にご案内いたしマス」
入口の帳がスルスルと巻き上げられる。
中に入っていくと広間になっており、造りは俺がシュターツ王に謁見した所と似たり寄ったりだった。違いと言えばあちらが石造りだったのに対し、こちらは木造と言うことぐらいだ。それとこちらはあちこちから薄い布が垂れ下がっている。両側に水棲人が整列する中を進んで行くと正面の玉座に座っている者の姿が見えてくる。
体調が2メートルを超えるような蛙のような姿の者が紫色の衣装をまとって座っていた。10メートルほど離れた所で止まり、膝をついて礼をする。
「よくぞ遠い所を参られレタ」
「ご尊顔を拝し歓びに堪えません。私は山田。シュターツ王の使者として参りました。以後、お見知りおきを」
「妾はクァリロン。そのように畏まらずともヨイ。ヤマダ殿は力ある魔術師とか。どうか妾に力を貸して妾の悩みを解決してタモレ」
へ? 悩み? 何それ。聞いていないんですけど!
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