第67話 朝食で食える物がない。超ショック
「なんなりとお申し付けください。微力ながら両国の友好の為に粉骨砕身いたします」
心にもない外交辞令を言ってのける。もうこうなったら破れかぶれだ。
クァリロン女王は満足そうに頷き、目を細めた。
「その言葉を聞き、妾も大変心強く思う。今宵はゆるりと休むがヨイ。相談ごとは明日改めてするといたソウ」
俺達が頭を垂れると女王様は席を立たれて退出された。
「ヤマダ殿、こちらへドウゾ」
謁見の間を出て、預けていた物を受け取る。案内されるままについて行くとゆるく弧を描く太鼓橋形状の廊下を渡った。その先には独立した棟があり、どうやら上から見ると半円となる形をしているようだ。入ってすぐのところは居間で、その先に4つの入口があった。それぞれに色の違う薄布がかかっている。
薄布をめくって中を見ると寝台が置いてあり、その寝台や窓にも薄布がかけてある。部屋の中を風が抜けていき心地よい。湿度が高いので閉め切ったら蒸し蒸しするのだろう。居間に戻って見ると、ちょうど、お盆に乗せて簡単な軽食が運ばれてくるところだった。
粥と果物、それにお茶を置くと小間使いは一礼をして出て行く。それらをつまみながら俺達はヒソヒソ話をした。
「悩みを解決ってどういうことだ?」
「そんなことを言われても我も初耳じゃ」
濃い赤色の果物の皮に爪を立てながら果音が言う。
「ほら、アタシが言ったとおりでしょ。単なるお使いなわけがないよね」
あっさりしたものしかない食卓に寂しそうな目を向けていたシュトレーセは諦めて、粥を口に運んでいる。
「しかし、おかしくないか。ティルミットが嘘をついてないとすれば、俺達は単なる使節団のはずだ」
「だから嘘はついておらぬ」
「やたら手回しもいいのも気になるんだよな。まるで俺達が来るのを予想してたみたいでさ」
「やはりお主もそう思うか」
「あの泡に乗ってからの行程がスムーズ過ぎると思うんだ。いきなり女王に会えたのも準備が良すぎるしな」
「つまり、誰かが我らが来るのを告げていたと」
「まあ、あまり考えてもしょうがねえや。明日になれば頼みってのも分かるんだし、適当に食って寝ようぜ」
「いきなり投げやりになるのじゃな」
「気を付けておく必要はあるだろうけど、それ以上悩んでも疲れるだけだろ。考えるにしても情報が少なすぎるし」
「山田は行き当たりばったりだよな。その場しのぎは得意だけど」
「臨機応変の才があると言ってもいいんだぜ」
「そんなカッコイイもんじゃないとアタシは思うけどね。とりあえず、良く寝ておくというのには賛成」
俺達はそれぞれ適当に食事をするとそれぞれの部屋に引き上げた。脚付きのベッドは藤で編んだものの上に布が張ってある。大きさもゆったりとしており、これならシュトレーセも手足を伸ばして寝られるだろう。想像よりも寝心地が良くすぐに眠りに落ちた。
翌朝は朝早くからの鳥の声に目覚める。地上よりも鳥が多いのかもしれない。居間に行き昨日の残りのお茶を飲んでいると果音が出てきた。
「早いな。アタシにも一杯もらっていいかな?」
うっすらと汗をかいている果音に茶を注いで渡す。
シュトレーセとティルミットも起きてきた。
「どうやら、気になって早起きしたようじゃの」
ティルミットが苦笑する。シュトレーセは伸びをしながら言った。
「違うわよ。お腹が減っただけ」
「シュトレーセは頼みごとが気にならないのか?」
「全然。だって、そういうのはヤマダとティルミットの仕事でしょ。もちろん、誰かと戦えという話だったら任せて」
はあ。すごい割り切りだ。昨夜はああは言ったものの気になって仕方ない俺とは大違いだぜ。
そこへ外から声がかかる。
「お目覚めでいらっしゃいますか。それでは朝食のご用意をいたします」
数人の小間使いが入って来て、昨夜の皿を下げて、湯気のあがる蒸籠のようなものをいくつも運んできた。
おお。朝はがっつり夜はあっさりという食文化なのだな。これは楽しみだ。蒸籠には木製のトングがついている。それじゃ、食おうぜ、と蓋を開けた俺は中に入っている物をみて絶句する。蒸籠の中で湯気をあげていたのは、数種類の虫だった。甲虫の幼虫みたいなの、バッタのようなもの、タガメそっくりな大きなもの……。
「うっ」
そう言ってショックで固まっている俺とティルミットをよそに、果音とシュトレーセはトングで自分の皿にいくつかの虫を乗せて食べ始めた。
甲虫の幼虫のようなのを口に入れながら果音が聞く。
「なんだ。山田食わないのか? クリーミーでイケるぜ」
「ああ。うん……」
「そうか。やっぱり無理か。だろうな」
「つーか。山崎が平気なことが驚きなんだが」
「昔、昆虫を食べてたことがあるんだ。タンパク質も多いし慣れればね。人をそんな目で見るなよ。失礼な奴だな」
「すまん。驚きのあまり」
「まあ、いいや。確かに最初は驚くかもな。でも、食べておかないと腹減るぞ」
「ヤマダ。これ、中は悪くないわよ」
にっこりと勧めるシュトレーセに俺は首を力なく振った。
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