第61話 恫喝されても、どうか潰れないでね

「はっきり言っておくけどさ。2度目は無いよ。頭のネジが緩んでいる山田がどう考えているかに関わらず、次は容赦しない」

「そうだなあ。私もカジカジしようかな。生きたまま。手からがいい? それとも足?」

 うちのパーティの前衛二人が唯一の治療係を脅していた。


 青白い顔をしながら、ティルミットは首を縦に振る。

「うむ。良く覚えておこう」

「おい、ほどほどにしておけよ」

「山田。お前が言うな。下手したら死んでたのは誰だと思ってる。本当ならこの女の尻を張れ上がるほどぶっ叩くぐらいの権利はあると思うけどね」


「俺は女に挙げる手は持ってないんだ」

 斜め45度を見上げニヒルに嘯く。決まった。俺カッコイイ。

「山田。悪いけど、そういうセリフはお前に似合わないぞ」

 はい。そうですよね。うぐっ、少しだけカッコつけさせてくれたっていいじゃないか。


「代わりに私がぶってあげようか?」

 シュトレーセがにこやかに提案する。あああ。話が通じてねえ。

「気持ちだけ受け取っておくよ。この話題はもう終わり。一応、俺達は王様の命を受けて一緒に活動してるんだってことを忘れないでくれよ」


「まあ別にいーけどさ。山田。お前いいのか? いや、そのちびっ子の事じゃなくて、日本への帰り方が分からなかった事だけど」

「そりゃ、ちょっとはがっかりしたけどね」

「ちょっとなんだ。意外だな。分かった。アタシらと別れるのが惜しくなったんだろう?」

 ニヤニヤする果音。まあ図星だ。

 

「まあ、俺を地下牢に放り込んだ時点で予想がついてたからさ。もしその方法が分かるなら、とっとと送り返してるだろ? 別に俺に恨みが無いんだったら、その方がよっぽどスマートだしな」

「なるほどね。それにしても随分とこの任務に乗り気じゃないか」


「ドンパチやりに行くわけじゃないからな。直々の命令だし、うまくやり遂げれば、褒美も貰えるし」

「山田。少し浮かれ過ぎだぞ」

「そうかなあ」


「お前らしくもないな。成り上がり者のお前にそんな楽させる訳がないじゃないか。絶対に訳ありだぞ」

「そ、そうか?」

「私もヤマダは好かれてはいないと思うわよ」

 はっきり言われると辛いんですけど。


「まあ、お前たち二人を王都に置いておきたくないというのもあるじゃろうな」

 ティルミットの指摘に果音はプイっと顔を背ける。

「なんと言っても時の人じゃ。貴族たちの間でお前たちを巡って争いでも起こされたら面倒じゃろう?」


「なんだかトロフィみたいに扱われるのは不愉快なんだけど」

「まあ、しばらくすればほとぼりも冷めるじゃろう。そういう意味じゃ王都を離れるのは悪くない」

「体よく厄介払いされてるわけか」


「それだけではないぞ。確かに水棲人との関係は重要じゃからな。王国に仇なす連中と手を結ばれては、腹背に敵を抱えることになり非常に危険な状態になる」

「今まではどういう関係だったんですか?」

「ほとんど接点なしじゃな。水の中と外じゃから、それほど関りを持っておらん」


「じゃあ、今まで通りそっとしておけばいいじゃないですか」

「そうもいかん。基本的にカードラの活動領域は王国の東側じゃ。しかし、疫病騒ぎは西側で起きておる。で、水棲人の主な領域は西の湿地帯なのでな」

「そうやって、注意を向けさせておいて本命の東から一気にという陽動じゃないんですか?」


「同じ手に何度もかかる程愚かではないわ」

「前回は見事に引っかかってますけどね。知を崇める神官としてどうなんです?」

 ねえ、どんな気持ち? これぐらいは言ってもいいだろう。

「口の減らぬ奴じゃのう。誰にでもうっかりということはある。それに、その反省を踏まえての人選ということじゃ」


「どういうことです?」

「我ら4人は、元々ジャレーにおらなんだ。だから、我らが居なくなっても計算通り。むしろ、我ら異分子がおることが邪魔な場合もあろう。その余剰人員を有効活用できれば、まさに1矢で2兎を得るというものじゃ」


「へいへい。とりあえず、どれくらいで着くんでしたっけ?」

「途中は船を使うとして2週間ぐらいか」

「別に急ぐ旅ということでもないんですよね?」

「まあ、そうじゃが」


「だったら、あそこで何か面白そうなことやってるんで、見て行ってもいいですよね?」

 ちょうど通りかかった村では、広場で大勢の人が集まっていた。風呂桶よりも大きな容器を大勢でわいわい言いながら運んでいる。


「ねえ、山田。さっきまで王様の依頼の任務がどうたら言ってなかったっけ?」

「まあ、そうだけどさ。ちょっとぐらいはいいだろ。ほら、何事も見聞を広めるのは大事だしな」

 すまん。実際は物見遊山気分なんだ。少しは息抜きさせてほしい。


 本当はちょっとどころじゃ無くてがっかりしてる。魔法学院長も分からないとなると俺が日本に帰る可能性は限りなく低くなったわけだ。貴族になったといっても名目上だけだし、王宮での立ち居振る舞いも肩凝ったしな。こうやって、気の置けない仲間とフラフラ旅をしている方がまだマシだ。果音のセリフじゃないけど、このメンバーと一緒にいると楽しいからね。

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