第46話 王都で誰に会おうと?

「アタシも技を増やさないとダメだな」

 ふくれっ面の果音が言った。翼竜と激闘を繰り広げた場所から山を下った場所にある浅い洞穴の中で夕食後に休んでいる最中だ。夕飯は翼竜のスープ。肉は固かったがまあまあ食えた。


「遠距離攻撃しかしてこない相手をどうするか考えてなかったのはアタシとしちゃ迂闊だったぜ」

「迂闊とかそういう問題じゃないと思うけどな」

「AK47とかないだろうしなあ」


「なんじゃ、そのエーケー47というのは?」

 ティルミット様が質問する。俺もシュトレーセの体をブラッシングしている手を止めた。シュトレーセは翼竜を仕留めた凛々しい姿はどこにといった風情でだらりと伸びている。尻尾を伸ばして俺の頬をなで続きを催促した。


 俺はせっせと手を動かしながら、果音に言ってやる。

「47人組の女性アイドルグループじゃないよな。随分と物騒な名前がさらって出てきてるけど」

「なんだ。山田。知ってんの? やっぱり下らないことは良く知ってるな」


「下らない言うな。つーか、そんなもん有ったら接近戦する必要ないだろ」

「やっぱり山田は分かってないね。近い距離なら杖の方が早いし、ジャムって弾が出ないかもしれない。それぞれ適正距離があるのさ。それに音の問題もある」

 俺は動かしてない方の手を挙げる。


「はい。降参します。もう、何と言ったらいいかも分からん。山崎が何者なのかも、もう怖くて聞けねーよ」

「聞きたい?」

「なんだよ話す気になったのか?」

「教えてあーげない」


「なんじゃ、そなたら仲がいいのは分かったから教えてくれぬか?」

 ティルミット様は知恵を司る神官だからなのか知らないことをそのままにするのが気持ち悪いらしい。

「そうだなあ。ボルト弾を撃ちだすクロスボウみたいなもんかな」

「なるほどのう」


「それで、山崎はどうするんだ?」

「アタシは接近戦が性にあってるけど、予備でなにか手に入れようかな。翼竜みたいなのに通用するものがあるか知らないけど」

「ジャレーに着いたら色々と見て回るんじゃな」


 翌朝は山陰に入ったせいで日が昇るのが遅くなったため出発も遅めになった。それでも日没までにはジャレーに入れるだろうと言う。湖畔まで降りて湖に沿った道を行くようになると人の姿が増え始める。荷馬車が行きかうようになり、ここまでくればまあ大丈夫かなと思えるようになった。


 予測通り夕方前にはジャレーの第一城壁の門にたどり着く。高さも厚みも相当なものだ。胸壁には兵士の姿が見える。この高さではシュトレーセでも飛びつくのは難しいだろう。門番の兵士も立っているが、基本的には誰何の声をかけることもない。シュトレーセの体にちょっとだけ視線を走らせたが何も言わず俺達も通してもらえた。


「もっと警戒が厳しいかと思っていましたが意外と緩いんですね」

「まあ、ここは第一城壁じゃからのう」

「この部分は基本的にフリーパスなんですね」

「そうじゃ。今夜世話になるつもりの神殿は第二城壁の中なのでな。まずはモード神殿のカハッド大神官に会うつもりじゃが、急がぬと第二城壁が閉まってしまうぞ」


 人通りの多い道を俺達4人は一塊になって進んで行く。道の両側はごちゃごちゃとした町並みだ。雑多だが薄汚れた感じはしない。庶民街なのだろう。活気のある声が飛び交っている。夕食用にどうだい、などという声が喧しい。安くてうまい店はこういう辺りにあるんだが、まあ、そういう楽しみは今度にとっておこう。


 20分ほど歩いてまた城壁にぶつかる。今度の場所では兵士がいちいち身分を改めていた。立派な馬車などは中までは改められないようだ。顔見知りの者が多いのだろう、殆どは一応止められたというだけだったが、俺達はやはりというか当然と言うか呼び止められた。


「止まれ。ここから先は居住者か許可なき者は入れない」

 2人の兵士が俺達を制止する。一人はあからさまにシュトレーセの体に視線が釘付けだ。もう一人は俺達をまんべんなく見ている。ティルミット様が進み出て、フードを下ろして告げた。

「我はトルソー神に仕えるティルミットじゃ。我が訪ねることは連絡がいっておるはずじゃが」


 俺達をまんべんなく見ていた方が城門脇の詰所に消え、別の兵士を伴って出てくる。兜のてっぺんに赤い飾りがついており、階級が上のようだ。

「ティルミット様。お話は伺っております。残りの方は?」

「我の護衛じゃ。身元は我が保証する」

「はっ。ではお通りください。ご案内は必要でしょうか?」


 ティルミット様は頭を振って、歩きはじめる。城門をくぐると明らかに町の様子が変わった。石畳も丁寧に補修がされていて道幅も広い。立ち並ぶ建物も城壁の外より大きくなっていた。道行く人の身なりもいい。俺達の格好はちょっと見劣りする感じだ。道行く人が俺達を見て道を避ける。ほどなく、モード神殿にたどり着くと夕刻だというのに門扉が大きく開かれていた。


 中に入るとシュトレーセと似たり寄ったりの格好をした男女が20名ほどいる。そして無言で2人が襲い掛かってきた。

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