第18話 いきなり嫁? 展開よめません

 結局、俺と果音はフォセットさん一家の世話になることにした。この村を出ても次の村に着くにはもう時間が遅いし、野宿になることが確定だった。食材の調達をして寝られそうなところを探していると結局それほど道のりが稼げない。飯とベッドの誘惑には勝てなかった。


 ナッツの入った何かの穀物の粥と鳥を焼いたもの、それにふかしたイモが出た。鳥は残念ながらウコ鳥ではない。味はともかく、量だけはたっぷりだった。それと独特の香りのする酒も出た。フォセットさんの娘、ローラが俺の横について色々と世話を焼いてくれる。食事をしながら話しているとフォセットさんがとんでもないことを言い出した。


「ヤマダ様は何か目的があっての旅ですか?」

「うーん。まあ、あるような、ないような」

「それでしたら、こちらの村に腰を落ち着けてみませんか?」

「落ち着けてどうするのですか?」


「私の娘を嫁に貰って頂けませんか?」

「えっ?」

 俺は驚いて変な声を出してしまった。鳥の胸肉を頬張っていた果音がこちらを見る。果音はあまり炭水化物や脂質を取らない。筋肉をこよなく愛する少女にとって食べ物とは、ずばりタンパク質である。


「うちの娘は親の私が言うのもどうかと思いますが、なかなかの器量です。ヤマダ様の妻として不足はないかと思いますが……」

「えーと。俺は異国人ですよ。話す言葉も習慣も違います」

「はい。でも、ヤマダ様の魔法で不自由なく意思疎通ができてますし」


「娘さんの気持ちはどうなんですか?」

 フォセットさんは不思議そうな顔をする。

「娘の気持ちですか? それが何か関係ありますか?」

 俺は少し酔いの回った頭で考える。ここは親の意志で結婚相手が決まるのか?


「私の住んでいたところでは、本人の気持ちが大事でして……」

「なるほど。ヤマダ様は立派な大人ですが、うちの娘はまだまだ若い。親の助言が無くては適切な判断はできないでしょう。もちろん、娘も優れた魔術師であられるヤマダ様であれば文句などあろうはずがありません。そうだろう?」

「……はい。お父様」


 違う。ローラちゃんは父親ほど乗り気ではない。先ほどからの態度から言っても、俺のことは嫌ってはいない。ひょっとすると凄いとか敬意のようなものは持っているかもしれない。だが、それは俺の能力、魔法に対するものだ。俺への愛情では決してない。


「折角のお申し出ですが、私もまだ修行中の身です。ジャレーの魔法学院で改めて魔法を学ばなくてはなりませんし、それにどれくらいかかるか分かりません。お嬢さんのようなステキな方との良縁はまたと無いかと思いますが、そういう事ですのでご理解ください」


「私も魔法に詳しいわけではありませんが、新たに生命を作り出す技など聞いたことがありません。ヤマダ様はもう十分魔法を身に付けられているのではありませんか?」

「いえ。まだまだ、半人前です。あれ以上魔法を使うと体に支障が出ますし、まだ駆け出しです」

「そうですか。それは残念ですな」

 

 翌朝、フォセットさんが引き留めようとするのを謝辞して、俺達はまた旅を続ける。村から出ると果音が聞いてきた。

「昨日、変な声を出してたけど何だったの? 特にヤバい雰囲気でもなかったからその場で聞かなかったんだけどさ」


「ああ。フォセットさんが娘さんを嫁にしないかと言ったんだ」

「えっ?」

 果音も同じような反応をしている。まあそうだろう。初対面の相手に娘を貰いませんかというのは唐突過ぎる。


「それで断ったんだ?」

「だってさ、ローラちゃんの気持ちとか関係なく、娘をどうですかって言われてもな。それに、ありゃ、俺の魔法目当てだっていうのがバレバレだしなあ」

「なんでそう思う?」


「というか、それ以外ないだろう。得体のしれない余所者だぜ。他に取柄もないしな。あのウコ鳥を魔法でどんどん生み出せば一財産だろうしね。それ狙いなのは想像がつく」

「それでも、あのローラって娘、なかなかの美人だったじゃない。いい歳のおじさんには魅力的な提案だと思うけど」


「そうかな? つーか、おじさん言うな」

「あ。ひょっとして、自分はイケてるから10歳違っても大丈夫とか思ってる? いつでも若い子と付き合える自信があるとか? マジありえないから」

「そこまで自惚れちゃいない」


 俺はモテない男だからな。そんな幻想は抱いちゃいない。万が一とは言わないけど、億が一ぐらいはそういうことがあってもいいんじゃないかとは思うけど。

「じゃあ、なんで断ったのさ? 金持ちにもなれるだろうし、美人の奥さんもいるんだから、山田にとっても悪くない話でしょ」


「うーん。なんつーかな。それだと、ローラちゃんが可哀そうだと思ったんだよな。自分で言うのもなんだけど、俺なんかとくっつけられるのは。それは、二人とも不幸になる気がしてさ」

「ふーん」


 本音を言えば、果音が居なかったら、俺も話に乗ったかもしれない。でも、いくら強いとは言っても言葉も通じない女の子を放り出すわけにはいかない。それに、選べる立場じゃないのは分かっているけど、俺は果音みたいな活きのいい子が好きだ。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、猫派か犬派かみたいなもん。ちなみに俺は猫派だ。

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