第17話 庭には2羽ニワトリがいる
俺には勝算があった。ウコ鳥を見たときに閃いていたのだ。くくく。自分の才能が怖いぜ。俺はフォセット一家に対して言った。
「悪いようには致しません。この魔導士山田にお任せください」
キリッ。決まった。
「もし、この窮地を救って頂けるなら、できる限りのお礼をします」
「山田様。なにとぞその力をお見せ下さい」
「お願いしますっ」
皆の期待に満ちた視線が熱いぜ。うおお、滾ってきた。
俺は帽子を取った。なんとなく、言葉が通じない方が有難味がでるような気がしたからだ。約1名意味が分かっちゃう方がいらっしゃるが、それは仕方ない。それにもう散々ダサいとこき下ろされたので耐性ができている。もう1回言われたところで痛くも痒くもない。
俺は呼吸を整え、ワンドを構えると呪文を唱える。
「庭には2羽ニワトリがいるっ!」
これほどまでにエクセレントな呪文はそうそうないだろう。にわにはにわにわとりがいる。もう少し頑張れば、にわがゲシュタルト崩壊しそうだ。
家屋の外から、コッコという元気な声が聞こえてくる。まさかという顔をして、フォセットさんが庭に出て行く。そして、ウコ鳥を2羽抱えて戻ってきた。鳥小屋の中にいる2羽を見て驚いている。合計4羽になっていた。なぜ増えたという顔をしている。
俺は調子に乗ってもう1回呪文を唱えた。頭の芯の方にじんわりとした鈍い痛みを感じる。帽子を被って告げた。
「もう2羽だけご用意しました。残念ですが、私の力はここまでのようです」
外に確認に行き戻ってきたフォセットさんはまた2羽を抱えていた。一家は口々に誉めそやし俺を讃える。
果音はなんとも言えない顔をしていた。
「現象面だけ見れば、確かに凄いんだろうけどね。アタシにはどうしても素直に褒める気になれないな」
「でもさ。これで解決だろ。税を払っても4羽残るんだ。山崎も人助けだと思って試しに言ってみたら? 多ければ多いほどいいだろ?」
「なんでアタシが?」
「さっきは人助けをしないとは薄情だとか言ってたような気がするんだけど」
「そりゃそうだけどさ」
果音は煮え切らない。
「言うだけならタダじゃん」
「そうだけど……」
「何が問題なのさ?」
「分かったわよ。じゃあ、その棒貸しなさい」
果音はワンドを構えた。俺よりもビジュアル的には決まっているのが悔しい。
「……庭には2羽にわとりがいる……」
果音は少し恥ずかしそうにその呪文を口にした。いつもはキレッキレの戦士が頬を染める姿はやべえ。なんと高度な羞恥プレイ。鼻血が出そうだ。
とか言ってる場合じゃない。俺は外に出てみた。庭には太陽が照り付けているだけで鶏の姿は影も形もない。
「ちょっと、山田。これはどういうことだ?」
「どういうことだと言われても……。失敗したのかな?」
「ちょっと、あれだけ恥ずかしい事させといてどういう事?」
「どうやら、誰でもいいってことじゃないみたいだな」
果音はぷっとふくれっ面をする。
「ちょっと、本当はアタシじゃうまくいかないの知ってたんじゃないでしょうね?」
俺は身の危険を感じる。
「そんなわけないだろう。俺だって正直どういう仕組みか分かってないんだから」
「内心、アタシの姿を見て笑ってたんだろう?」
「そんなことありません。ちょ、まった」
近づいて来る果音から逃げ出そうとする俺にタイミングよく、外から声がかかる。
「イーワル様の使いだ。フォセットはおらぬか?」
フォセットさんは2羽を抱えたまま、表に出て行く。俺もさり気なく一緒についていった。果音も凶悪な目つきでついてくる。
「今期の上納物はこちらです」
フォセットさんは、威張った男にウコ鳥を示した。後ろに控えていた別の男が籠を出すのでそれに入れる。
「フォセットよ。確かに受け取ったが、それで良いのか? 先延ばしでしかないのだぞ」
「また、なんとか用意いたします」
フォセットさんが答えると、威張った男は首をひねっているが、規定の品を出しているので文句も言えず、お付きの者を従えて去って行った。するとフォセットさんは俺の側に跪いて頭を下げる。
「魔導士ヤマダ様。本当にありがとうございます。大したおもてなしはできませんが、ぜひ今宵は当家でお過ごしください」
「いやあ。俺は成り行きで行動しただけだし、どちらかというとトラブルを回避したかっただけなんだが」
「トラブルといいますと?」
「あっちの女性は、かなり腕が立つんだ。フォセットさんの娘さんに同情して、力づくでもさっきの役人みたいなの追っ払うつもりだったからさ。それを止めたかったら俺に何とかしろって」
「失礼ですがお二人はどういうご関係で?」
「旅の仲間です。私は荒事はからきしなので、山崎がそっちを受け持ってくれています」
「そうでしたか。それではヤマザキ様もご一緒に。幸いに家だけは広いですから、どうぞどうぞ」
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