第16話 税が払えないぜい
宿を出て、ジャレーに向かって歩きはじめる。街道にはそれなりに道行く人がいて今までとは大違いだ。宿で聞いたところ、メーベというのは本当にド田舎らしい。その先には割と大きな町があるのだが、あまり治安が良くないので遠回りをしていくため、俺達が通ってきた道を行く人は少ないそうだ。
ジャレーまでの道は細かい石で舗装されており歩きやすい。余程のことが無い限り危険なめに会うことも少ないそうだ。その情報を得て、俺の緊張感は一気に緩む。免停を食らってからは歩きで営業をすることも多かったので、歩くことはそれほど苦痛ではない。なにより、連れが健康優良美少女なのだ。これは心が弾む。
もちろん、俺としては果音と恋愛関係になれるなんて思ってはいない。なれたらどれほど素晴らしいだろうかとは思うが、所詮は夢のような話だ。なにしろ向こうに俺をそういう対象として見る要素がまるでない。ははっ。参ったね、こりゃ。ここまで来るといっそ清々しい。
まあ、俺もこっちの世界ではちょっとは役に立つけどな。
・消滅術(犬限定) ⇒〇(ただし、体にダメージの危険)
・落石術 ⇒〇(多くて7発でやめておいた方が吉)
・発火術 ⇒〇(便利な生活技術だぜ)
レベル3魔術師ぐらいの実力はあるんじゃないか。
地味だが、簡単に火をおこせるのは生活の質の面では大幅に向上した。街で鍋を買ったので煮炊きができる。果音はハンターとしても優秀だった。鳥やウサギのような小動物をうまく捕まえ、ナイフで器用に捌く。水を入れて、塩とその辺の適当ないい香りのする草と煮れば結構うまく食えた。
手持ちの硬貨がそれほどないから節約しなくちゃいけないし、果音の体の維持のためには良質なたんぱく質の補給が欠かせない。生肉を食う度胸はなかったが火を通せば安心だ。
そんなサバイバル生活を始めて3日目のこと。俺達はある村にさしかかった。そこそこ大きいのだが活気が無い。もう少しで町と呼べそうなほどなのだが、全体的に陰気で住む人々の表情も冴えなかった。特に用事があるわけではないので通り過ぎようとすると近くの1軒からむせび泣く声が漏れ聞こえてきた。
熱血セーラー服戦士はパッと駆け込んでいく。直情径行で脊髄反射なので仕方がない。俺も袋から帽子を引っ掴むとあわてて果音を追いかけた。中ではいきなり駆け込んできた人に驚いている夫婦とその娘らしいのが目を白黒させている。
「どうした? 何があったの?」
果音が聞いているがもちろん返事はない。言葉が通じてないんだってば。
「いきなり飛び込んできて申し訳ない。何かあったのでしょうか?」
「あなた方は?」
「旅の者です。泣き声が聞こえたものですから、何事かと飛び込んでしまいました。お取込みのようですいません」
果音がせっつくので、余計なお世話だと思いながら事情を聞いて見ると、ここはイーワル男爵とかいうのの領地で、税の取り立てが厳しいらしい。この村はウコ鳥という家禽の産地で、ウコ鳥は結構な高値で取引されることから元はそこそこ裕福だったそうだ。
しかし、先年病気でウコ鳥が多く死んでしまったのに税として容赦なく取り立てられてしまったため、この家にはあと2羽のつがいしか残っていない。今日にも税として2羽取り立てにくるが、これを収めてしまうと後がない。それで代わりに娘でも良いぞ、という非常に分かりやすいシチュエーションであった。
泣き腫らしているものの確かに娘はなかなか可愛い顔立ちをしていた。いかにも幸薄そうな感じで、そういう趣味の方には苛め抜いてみたいと思わせる何かがある。事情を説明すると果音が許せないと盛り上がっていた。こぶしを握り締め立ち上がる様はとても勇ましい。ほっとけば税の取り立てに来た奴をぶちのめしそうだ。
俺は残っているウコ鳥というのを見せてもらえるように頼んだ。この家の人たちファセットさん一家にしてみれば藁にもすがる思いだったのだろう。通りすがりの怪しい俺を鳥小屋に連れて行き、大事なウコ鳥を見せてくれた。赤みがかった茶色い羽と赤いとさかを持つウコ鳥はどう見ても鶏だ。
「山田。鳥見てどうしようっていうんだ? いまするべきことは他にあるだろう?」
「まさか腕力で解決しようとか思ってないよね」
「そのつもりだけど」
何か文句ある? 不敵な笑みが素敵だった。俺としては同意したいところだが、理性がそれを押し止めた。
「ほら、相手は一応領主様じゃん。兵隊も100人ぐらいはいるみたいだしさ。山崎でも100人の相手はちょっときついでしょ?」
「そうかもしれないけど、山田は困ってる人を見捨てるのか。薄情な奴だな、見損なったぞ」
「もっと穏便な方法で解決できないかな~と思ってるんですけどね」
「そうか。お前の魔法で悪徳領主を成敗しようっていうんだな?」
「それのどこが穏便なの? そんなことをしても根本的な解決にはならないでしょ。新しい領主が来るんだから」
果音はイライラとしてきたようだ。
「じゃあ、どうするんだよ。何かいい方法でも思いついたってのか?」
俺はどんと胸を叩いた。
「ええ。魔法でなんとかなるんじゃないかと。ものは試しです。やらせてみてください」
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