第2話 異変
『4月24日。やっとクラスに馴染めてきた。隣の席の勝太郎は、休み時間一人でいる僕をいつも遊びに誘ってくれる。彼はとてもいい奴だ。彼とは仲良くなれそう。
凛花は凛花でなんとか女子のグループに混じって会話に参加しているみたい。昔から人見知りな彼女だから、それを克服しようと彼女なりに努力しているのだろう』
「リュウ。ご飯出来たぞこっち来てくれ」
美味しそうな揚げ物の匂いが僕の空っぽのお腹を刺激する。
「今いくよ」
そう言いながら僕は今いた和風の部屋を出て、マルコの声がした部屋へと移動する。
入ってみるとやはりその部屋も和風の部屋であった。
畳の上に置かれたこたつに入ったマルコが、碧色の瞳をこちらに向け僕を手招きする。
「俺の得意料理、鳥の唐揚げだ」
そう言って、こたつの上に大量に置かれた唐揚げを指差す。
「ありがとう。いただくよ」
好物の唐揚げが山積みされたその状況に僕は心を躍らせながら、こたつの中に入った。その瞬間、僕はまた新たな違和感を発見した。
「このこたつ、電源は入ってる?」
そう。こたつの中に入っても中は温まっておらず、そこは外と同じくらいに寒いのだ。
「電源?なんだいそれ」
マルコは首を傾げた。
そんな彼の様子を見た僕は驚きのあまり口をポカンと開けてしまった。
「僕の世界ではこたつの電源を入れれば中が温まるんだ。これだと中は寒いままじゃないか」
寒さのあまり震え始める僕
そんな僕の様子をマルコは不思議そうに眺めている。
「君の世界ではそんなに便利なものがあるのか。羨ましいな」
彼はきょとんとした目で温まる気配のないそのこたつの中を見た。
その後山積みの唐揚げを食べながら僕はマルコに自分の住む世界のことを話した。
車のこと、テレビゲームのこと。
それらはマルコの住むこの世界には存在しないものだそうだ。
彼は僕のする話を終始目を輝かせながら聞いていた。
そんなことをしばらくしていると、あれだけ山盛りにあった唐揚げはいつしか全部なくなっていた。
「じゃあ彼女に会いに行こうか」
空っぽになった皿を片付けながら、彼は僕にそう提案する。
「さっき言っていた僕と同じ女の子?」
「そうさ。彼女は俺の家のすぐ隣にいるからすぐに会えるはずだ。片付けが終わるまで少しだけまっててくれるかい」
「僕も手伝うよ。ただ食べさせてもらっただけじゃ悪いし」
マルコの横に並んで僕も一緒に皿を洗う。
井戸から汲んできたのであろうその桶に貯められた水は、僕が今までに経験したことがないくらいに冷たかった。
「アリサ。アリサいるかい?」
マルコに連れられてやってきたのは、彼の家を出てすぐ隣の小さな民家だった。
例に違わず、僕達の世界でいうドアホンのようなものは無い。代わりにドア横に取り付けられた大きな鈴を鳴らしながら、マルコは大きな声でアリサと名前を叫ぶ。
「アリサと君はずっと一緒なの?」
「そうだよ。俺とアリサは小さな頃からずっとここで暮らしてるんだ」
鈴を鳴らし続けるマルコ。
しかしいくら待っても返事はない。
「おかしいな。今日アリサの家に行くって言ってたのに…」
諦めたマルコは鈴を鳴らすのをやめ、返事のないドアを開けようとする。
「いいのマルコ?」
勝手に他所の家に入ろうとするマルコを僕は制止した。しかし、彼はそんなこと御構い無しでドアを押し開ける。
先に中に入り家の中の状況を確認したマルコは、突然その場で固まった。
「どうしたの?マルコ」
そんな彼の様子に驚いた僕は急いで家に入り、中を確認する。
「…なんだよこれ」
そこに人影はなかった。
その代わりに、散乱した食器に割れた窓ガラス、そして壁には飛び散った血の跡がべったりと付いている。
「アリサ!」
マルコが大声で幼馴染の名を呼ぶ。
しかし返事はない。
マルコは涙を流しながらその場でうずくまった。
「…ゴブリンだ。アイツらがアリサを…!」
ゴブリン?ゲームで聞いたことがある名前だ。
そんなことを一瞬考えた。
しかし今はそれどころではない。
「クソックソッ」
マルコは拳で床を叩きつける
「マルコ…」
「クソッッ。ゴブリンのやつらめ!!」
マルコは声を荒げた。
温厚そうなマルコからは想像も出来ない彼の今の様子に僕は少しばかり怯んだ。
しかし、なんとか彼を落ち着かせようと周りを見渡し、僕はあることに気づく。
「…血だ。血だよマルコ!」
来るときには気づかなかったが、部屋と玄関を繋ぐ廊下、玄関のドアの前、そしてその外に向かって、小さな血の跡が一定間隔で残っていた。
「…血がどうしたんだよ」
「だからアリサはここで襲われた後、そのゴブリンっていうのに外に持ち運び出されたんだよ。この血はその時に着いた血だ」
僕は廊下に付いている血の痕跡を指差す。
「…!そうか。この血を辿っていけば…」
「うん。アリサが連れ去られた場所にたどり着けるかもしれない!」
マルコは生気を取り戻した様子だ。
彼の目からは焦りと怒りが滲み出ている。
「リュウ一緒に来てくれるかい?」
「もちろんだよ」
僕とマルコは残された唯一の手掛かりを辿って家の外へと飛び出した。
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