第9話

 彼女はやはり、だ。さっきまでの言葉を曲げてまで俺に近づいてきた。悲しむものをつくらないように、悲しくなるものをつくらないようにと、そう言っていたのに。


「……俺は」


「いいよ?言わなくても」


 話始めようとしたときに彼女はそっと自分の唇に人差し指をたて、言わなくてもいいと首をふった。


「私が君に求めているものは、きっと独自的で独善的な考えだから。わからなくてもいいよ。」


 また彼女は笑っていた。それも今度は、誰でもわかるような……を浮かべていた。だから、だからこそ。


「……俺は、お前の気持ちなんてわからない。多分、わかろうともしていない」


 発した言葉を彼女は黙って聞いていた。


「わからない……けど。理解は出きる。俺も……妹を亡くしたから。」


 そこで言葉をきった。これ以上は言葉がでなくなった。悲しかったからと、言うわけではなく。これ以上言わなくていいと思ったからだ。


「……ねぇ、匙戸?今度さ、私の家に来ない?」


 話にこれ以上追求せず唐突に彼女はそう言った。正直、何を言っているのか理解ができなかった。だって、話の内容と全く噛み合わないからだ。


『嫌だよ。』といい放った瞬間、彼女は俺の唇に指をあてて、それ以上の言葉を言わせてはくれなかった。


「匙戸、それ以上の言葉を言わなくていいよ?」


 いや、そんなに真面目なトーンで言われても困るんですけど。それに、言われてもいいって言われても行きたくないんですけども。


 けれど、結局それ以降なにも言わせてもらえなかった。最後の解散前に彼女は『また明日』と笑いながら手を降って公園の出口に向かって歩いていった。


「何が明日だよ。」


 そう呟いて俺も鞄も持ち、出口に歩いていく。その時、ふと思い公園を見渡した。


「……そう言えば、覚えがあるんだよな。」


 思い出せない。つまり、思い出す必要もないのだろうと思い歩みを進めた。


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