第7話
現在昼休みになってから数十分たった。
しかし、俺と彼女は教室であるものを探していた。
「……ねぇ、私の辞典あった?」
そう、俺と彼女は今彼女が持っていた花の辞典と俺の小説を探している。と、言うのも彼女と俺が目を離したすきに鞄の中から辞典と小説が消えていた。
何故そんな事が起きたのか……簡単だ。クラスのある生徒たちによるイジメが原因である。
「……こっちにもない。」
そう言うと彼女は「……そっか。」と落ち込むように座り込んでしまった。気持ちはわからないでもない、何せこの時彼女が一番大事にしていたものなのだから。
「どうしよう、大切なものなのに。」
結局この時は彼女の花の辞典と小説はいくら探しても見つからずに放課後になってしまった。
「ごめん、もう少し探すの手伝ってもらえないかな?」
しかし、彼女は諦めず放課後も探そうと俺に助けを求めてきた。だが、あれだけ教室を探し回って見つからなかったのだから多分……。
「……悪いが、これ以上は手伝う気はない。」
そう言って俺は立ち上がり鞄をもって教室を後にした。まぁ、俺の小説はまた買えばいいしそこまで大切と言うわけでもなかった……と思っていたのだが。
この時は何故か自分から面倒な方へと首を突っ込んでしまった。
と、言うのも俺がとった行動はシンプルだ。
「……なぁ、俺の小説とあいつの辞典を返してくれないかな?」
そう、シンプルにとった犯人たち、つまりクラスのボスザルこと宮下弓子に直接話を持ちかけた。
「……はぁ?意味わかんないんだけど。何こいつキモいんだけど。」
まぁ、普通こういう反応になるよな。しかも、周りには取り巻きらも「キモイ」だとか「うざい」だとか呟いていた。けれどこの時の俺は早くこの事を済ませたかったので自分の鞄からスマホを取り出した。
「そう言うのいいからお前らの鞄に入ってる物を返せ。」
言った瞬間、宮下は一瞬、鞄を庇うように持つ力を強めた。
だから俺はこの時確信した……少なくともどちらかは彼女が持っていることを。
「し、知らないわよそんなの。あ、あんたこれ以上何か言うなら警察呼ぶわよ?」
「………呼んでいいぞ、警察。」
呼んでくれるなら好都合、いくら学生のちょっとしたイタズラでも盗むと言う行為に関しては処罰があるべきだ。
なら、手っ取り早く警察を呼んで大事にしてしまえばいい。
そのために俺はスマホを取り出したのだから。
「なら、俺の方から警察に連絡してやろうか?窃盗犯がいるって。」
たじろぎながら宮下は周りにいる取り巻きたちの顔を見て焦ったような表情をした。
周りにいる取り巻きたちも同様に動揺が見られ、ヒソヒソと何かを相談し合うように小声で話し合っていた。
「……でもあれは弓子が!」
「そ、そうだよ。弓子が悪いんじゃん。」
「は!?あんた達だって散々言ってたじゃんか!」
段々と彼女達はヒートアップし始め、言い合いがそのまま五分近く続いた。
そして最終的に
「……弓子がどうにかしてよ!私は知らないから!」
取り巻きの一人がそう言って歩きさるとそれに続くように他の取り巻き達も宮下に一言、二言言って歩き去ってしまった。
取り残された宮下はうつむき、表情は見えないがきっと……落ち込んでいるのだろう。
今回のことで完全に彼女の地位は墜ちた、明日以降どういう扱いになるかわからないが少なくとも普通にはいられない。
しかしだ、そんなこと俺には関係ない。こいつがどうなろうと知ったことじゃないし、そもそも他人を蹴落とそうとした時点でこうなっても文句は言えないはずだ。
「……そろそろ良いだろ?返してくれ。」
手を伸ばし宮下に本を返すよう促す。
しかし、彼女がこの時とった行動と言えば………あきれるものだった。
「ふ!ふざけんな!!あんたのせいでこうなったんだ!どうすんだよ、明日から私はクラスで除け者だ!これまでの努力が全部水の泡だ。」
叫ぶ、叫ぶ。それも見ていられない程に。
近所迷惑何てもんじゃない、すぐ近くにある家の住人が二階から此方を確認してくる程に大きな声で宮下は叫び散らした。
「返せよ、私の努力を?返せよ、返せよ、返せよ!」
こいつが何を言いたいのか俺には理解できなかった。
宮下がしてきた努力は言ってみれば他人を蹴落として自分が這い上がる弱肉強食の世界で勝つ努力だ。
……いや、違うな。こいつがしてきた努力きっと
「……自分がよければそれでいいんだろ?他人を否定するための努力をしてきたんだから、お前は。」
「………お前に、何がわかるんだよ!」
そう言って宮下は鞄の中から小説と彼女が持っていた花の辞典を取り出しそのまま地面に叩きつけようと大きく振りかぶった。
「こんなもの!」
まったく……何でどういう時代もこういう奴等はいるんだろうな。
自分の状況が悪くなれば他人の大切なものを傷つけようとする。それでいて自分の大切なものは絶対に傷つけさせないよう大事にしまいこむ。
決して自分だけは傷つかないようにもしくは自分だけが傷つくのは怖いからと他人も巻き込もうとする。
「……そう言う奴は本当に気持ち悪い。」
宮下が投げようと振りかぶった手を右手で止めて持っていたものを奪い取る。
端から見ればこちらが悪いように見えるが、そんなことはどうでもいい。
俺はただ、この花の辞典を宮下から取り返して今も学校でこれを探しているだあろう彼女に聞きたいことがあったから。
奪い返したあと俺は宮下が何かを叫んでいたが、それを無視して学校の方へと歩き出した。
学校につくともう夕方を過ぎ最終下校時刻をまわっていた。何故だかわからないがこの時俺は彼女がまだ学校内にいる気がした。
……と言うよりいたのだ。
「……あ。」
彼女は呟くように声をもらした。
制服が少し汚れ、手には多少の傷がみうけられ今までずっと探していたのが聞く前にわかった。
ただ、何故だか俺の方を見た瞬間安心したような表情を見せた。
「戻ってきてくれたんだ。」
そう言うと同時に彼女は涙を流し始めた。
怖かったのだろうか、寂しかったのだろうか、はたまた嬉しかったのか、彼女が涙を流した理由はわからない。
けれどそのどれもが当てはまるのだと思う。
そして何故彼女がそんなにまでこの辞典を探しているのか余計に興味が湧いた。
「これ」
それだけ言って彼女の方に取り返してきた辞典を差し出した。
「え!?これどこで。」
驚いたように声をあげ彼女は本を受け取ろうとする。
だが俺は彼女が受け取ろうとする瞬間わざと本を上にあげ渡さなかった。
「一つだけ質問に答えろ?何でそこまでする。こんな本のために。」
取りかしてきたのだ。これぐらい聞いてもいいだろう、この時はそう思った。しかし、後になって考えてみればこの時点で俺はもう……彼女の事に興味が湧いたのではなく、知りたいと思ってしまったのだと思う。
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